日本最大級のスイッチバック駅を支える職人技 フィールドワークで小田急藤沢駅のバックヤード見学(神奈川県藤沢市)【レポート】

藤沢駅を発車する片瀬江ノ島行きロマンスカー。駅を出た直後に一つ目のシーサースクロッシングを渡ります(筆者撮影)

行き止まりの駅に列車が停車すると、運転士と車掌が前後のポジションを交替。やがて列車は進行方向を変えて発車します。クロスシートの車内では、あわてて座席の向きを変える乗客もいます……。

鉄道ファンなら多くの方がピンと来たかも。スイッチバック駅の日常風景です。近年のダイヤ改正で変わった部分もありますが(後述します)、関東近郊の代表的なスイッチバック駅が小田急江ノ島線藤沢駅。同駅のバックヤードを見る現地見学会が、2024年2月18日に開かれました。

小田急江ノ島線は、相模大野~藤沢~片瀬江ノ島間27.6キロ。相模大野、片瀬江ノ島の双方向から入線する列車の進行方向を変えて定時に発車させる藤沢駅は、駅社員の仕事ぶりも文字通りの〝職人技〟。折しも藤沢駅では、2028年3月末の供用開始を目指して橋上駅舎の建設工事が進行中。変わる駅、変わらぬ技術をご報告します。

日本最大級のスイッチバック駅

「藤沢駅フィールドワーク~日本最大級のスイッチバック駅の謎にせまる!」を主催したのは、小田急電鉄のロマンスカーミュージアム。小田原線海老名駅直結のミュージアム、館内展示に力を入れる一方で、鉄道を深く知ってもらう現地見学会にも力を入れます。

藤沢駅フィールドワークは、2023年の新宿駅に続く2回目の駅見学会で、地元・藤沢市とのコラボ企画。沿線中心に、約20人の鉄道ファン・小田急ファンが参加しました。

当日は、駅前の市立図書館でミュージアムの知野芙佑子学芸員が駅の歴史を解説。次いで駅に移動して、熊澤巌藤沢駅長(藤沢管区長)らが駅を案内しました。

利用客数は小田急4位

昭和になって2年目の1927年、小田急が新宿~小田原間を一気に開業したのは良く知られるところ。小田原線は箱根観光の交通手段でしたが、箱根の山に続くのが「湘南の海」。相模大野(当時は大野)~片瀬江ノ島間の江ノ島線は1929年に開業しました。

開業目前の江ノ島線電車をバックにした記念撮影。当時は帽子を着用するのが正装だったようです(画像:ロマンスカーミュージアム)

江ノ島線は、数字の「3」を左右反転させたような線形。JRや江ノ島電鉄と接続する藤沢でスイッチバックします。

当初は現在より西側の辻堂寄りに線路を敷設、さらに東側から藤沢駅に入るプランもあったのですが、用地買収が難航。昭和初期の小田急は、まだまだ弱小鉄道会社でした。

時代は大きく飛んで、現在の小田急の駅別利用客数ランキングは新宿がトップ。町田、代々木上原(東京メトロ千代田線への乗り換え客が相当数います)に続き、藤沢は4位です。1日約15万人が乗降します。

複雑に線路が入り組む駅構内

藤沢駅の正面玄関に当たる駅南口。2階のJR駅が目立ちますが、1階には小田急駅の駅名もあります(筆者撮影)

藤沢駅の線路は地上で、ホームは2面3線の頭端式。最もJR寄りの1番線だけが10両対応で、編成長の長いロマンスカーや快速急行は1番線にしか停車できません。

小田急江ノ島線は全線複線で、藤沢駅構内の線路配置は非常に複雑。例えば、相模大野から到着したロマンスカーが片瀬江ノ島に向かう場合、複線の反対側に移れる、シーサースクロッシングと呼ばれる「X型」ポイントを2回渡らないと、片瀬江ノ島への下り線に入れません。

ところで冒頭でも少し触れましたが、現在の小田急はロマンスカー「えのしま号」を除き、藤沢で向きを変えるスイッチバック運転の列車はほとんどありません。

小田急は2022年3月のダイヤ改正で、江ノ島線の運行形態を変更。藤沢で運転系統を分割し、藤沢~片瀬江ノ島間は原則、各駅停車が折り返し運転するダイヤにしました。

その理由は? 藤沢駅の配線は非常に複雑で、仮に一本でも列車が遅れるとダイヤの乱れが増幅するからです。

スイッチバックファン(?)は残念かもしれませんが、理由を聞けば納得できますね。

ロマンスカーのベストショット

話をフィールドワークに戻して、藤沢駅見学では2つのプログラムが用意されました。

一つ目は〝撮り鉄タイム〟。駅構内西側の保線・電気詰所は、駅に出入りする列車を間近で眺められるほか、シーサースクロッシングが転換する様子も見られます。

2024年2月の藤沢駅は、小田急と藤沢市と共同事業による駅改良の真っ最中。現在の駅舎は小田急が地上、隣接するJRが2階の橋上で段差がありますが、2027年度末には小田急も橋上駅舎に移ってJRや江ノ電への乗り換えが便利になります。

駅の司令塔「藤沢駅信号所」

撮影会に続く、最大のイベントが「藤沢駅信号所」見学会。かつての鉄道会社は主要駅に信号所があり、駅ごとにポイントを切り替えて列車の進路を構成していました。

最近は、多くの鉄道会社が総合指令室などでの集中制御に変わりましたが、小田急は一部駅の信号所機能を現在も残します。

そのわけは、ダイヤが乱れた際など現地での対応が素早く取れるから。藤沢駅は、異常時のほか、混雑が日々異なる朝ラッシュ時、駅の信号所で列車を運行管理します。

てきぱきと業務をこなす藤沢駅信号所の担当社員。基本ダイヤは頭の中にインプット。進路を構成すると、駅に入線する電車が自然にイメージされます(筆者撮影)

駅の案内放送も、信号所から流せるようにシステム化され、運行管理は社内資格を持つ社員が担当します。

信号所見学は、小田急の利用客ファーストの姿勢を知る貴重な機会になったはずです。

「駅のバックヤード見学に大満足」

最後に、参加者代表お2人に感想を聞きました。

川崎市からやって来た50歳代のベテランファン、運行管理の方法など熱心に質問していました。「フィールドワークはネットで知りました。信号所など、普段は入れない駅施設を見学できたのが最大の収穫。次回も同様の企画があれば、ぜひ参加したい」。

もうお一人は、地元藤沢市の中学生。親子連れを除き、参加者の最年少です。「駅のチラシで開催を知りました。鉄道の知識が深まって意義深い体験でした」。

ロマンスカーミュージアムは、今後もフィールドワークを継続します。本サイトでも紹介しますが、リクエストがあればぜひミュージアムにお知らせください。

記事:上里夏生

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