伝統の祭り、残すには 花巻でも担い手不足深刻、若者招く試みも

花巻市大迫町の仲町地区の街並み。高齢化や人口減少で祭りの担い手不足に直面している

 「人口減少や高齢化で地域の祭りの人集めに苦労している」。花巻市内の住民から、こんな声が岩手日報者特命取材班に寄せられた。伝統の蘇民祭が市内外で終幕するなど、確かに人手不足が顕在化。取材を進めると、地域の神社例大祭を担う人も足りず、運営資金集めにも苦慮している現状が浮かび上がった。「伝統を残したい」との思いは共通。若者を招き、簡素化するといった新たな試みが模索されている。

 同市大迫町で例年9月に開かれる愛宕神社の例大祭。「神輿(みこし)渡御行列」は白装束をまとった地域住民が、大きな旗などを手にしたり、笛や太鼓を演奏したりしながら、約5キロを約3時間かけてゆっくり練り歩く。年齢を問わず、体の負担も大きいという。

 市によると、市内人口はピーク時の2000年の10万7814人から9万964人(1月末現在)に減少。高齢化率は23年9月末現在で35.07%と、13年同期から5.13ポイント上がった。

 こうした背景から祭りの担い手不足が深刻化。渡御行列の参加者は大迫町の仲町、上町、下町、川原町の4地区から15人ずつ募るのが慣例だが、仲町では毎年、お金を払って別地域から人を呼んでやっとの状態。負担金は商店や各世帯から2千~3千円程度募るが、不景気、物価・燃料費の高騰もあって「厳しい」との声が上がる。

 人と資金の協力は義務ではなく、お願いベース。とはいえ地域の風習として仕方なく参加したり、断りにくかったりする。「これまでの体制ではやっていけない」。声を寄せた住民はこう明かし「供養行事でもあり、祭りを残したいとの思いはあるが(最近は)開催が義務的になっている。簡素化など方策を考えるべき」と提案する。

 運営側にとっても悩みは深いようだ。例大祭で仲町地区の責任役員を務める菓子製造業高橋秀彰さん(74)=同市大迫町=は「過疎化や新型コロナウイルス禍の影響で、商店数は30年以上前に比べてものすごく減った」と吐露。これは、運営費協力の求め先が減ったことを意味する。

 市内では、石鳥谷町で今月予定されていた五大尊蘇民祭が中止となり、今後も行われないため約830年続く伝統が途絶える。大迫でも「人がいないので何の行事をやるにしても大変」と、高橋さんは言う。

 だが、運営側も手をこまねいているわけではない。昨年の愛宕神社例大祭では、大迫高の生徒5人ら若者を受け入れ人員を確保した。今後、例えば旗の持ち手を人から車に変え、4地区の募集人員を減らすといった在り方の検討を進めている。

 高橋さんは「地域おこし行事も多く行われているが、どうしても単発開催で終わってしまう。大人が(まちづくりの)土台を作り、若い世代にもつなげていきたい」と模索する。

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