甘くみてました…年収1,200万円・49歳男性の後悔。年金未納15年間、年金事務所からの「赤い封筒」を無視し続けた結果【CFPが警告】

(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省の発表によると、国民年金保険料の納付率は77.7%。つまり「約5人に1人」は国民年金保険料を支払っていません(2022年9月時点)。この年金保険料、未納のまま放置すると、老後に年金を受け取れないだけでなく、もっと恐ろしいことが……牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、事例をもとに詳しく解説します。

年収1,200万円…フリーのプログラマーとして成功したAさん

Aさん(49歳)が新卒で就職した会社は、いわゆる「ブラック企業」。1年で身体を壊して退社したあとは派遣社員として10年ほど働きましたが、2008年のリーマンショックのあおりを受けて翌年失業してしまいました。

就職氷河期世代のAさんは、「派遣だと切られてしまうのか……手に職がないとヤバいな」と一念発起。ハローワークに職業訓練の支援が必要と認めてもらい、職業訓練校で6ヵ月間プログラミングを学びました。

元々凝り性のAさんは、さらに独学で技術を向上。49歳のいまではフリーランスのプログラマーとして大手数社と業務委託契約を結び、年収は1,200万円ほどあります。

悲劇は突然に…預金口座が差し押さえられたワケ

ところがある朝、Aさんのもとに銀行からメールが届きました。「今月分ご利用料金の自動引落としを完了することができませんでした」。その日に口座振替予定のクレジットカードの引き落としができなかったというのです。

Aさんが「そんなはずはない。預金は十分残っているはずだ」と残高を確認してみると、口座残高は「0円」となっています。

驚いて銀行に確認すると、預金の全額840万円が、日本年金機構に差し押さえられたことがわかりました。

Aさんは、仕事どころではありません。自宅で業務を進めていましたがいったん中断し、所轄の「社会保険事務所」へ飛んでいきました。

未納額+延滞金で「約43万円」支払うはめに

社会保険事務所に行くと、職員は、預金を差し押さえられた理由について「国民年金保険料が未納のため、預金口座を差し押さえました(=強制徴収を行いました)」といいます。

Aさんは、未納額と延滞金約43万円をなんとかかき集め、その日のうちに社会保険事務所に納付。差し押さえ解除の手続きをしました。

その数日後、無事に差し押さえは解除されたものの、冷や汗が出る経験をしたAさん。年金を含め、今後のライフプランの相談をすべく、Aさんの知人が相談したことのあるという筆者のFP事務所を訪れました。

国民年金保険料の納付は「義務」

Aさんは、「なぜ預金が差し押さえられたのか、社会保険事務所で理由は教えてもらったものの、もう1度整理したい」といいます。そこで筆者は、年金未納が預金差し押さえにつながってしまう流れについて、説明を行いました。

まず、日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人は、国民年金への加入が義務づけられています。フリーランスや自営業者、学生、無職などの人は「第1号被保険者」として、国民年金保険料を毎月1万6,520円(令和5年度)、納付対象月の翌月末日までに納付することになっています。

Aさんは、新卒で就職後派遣会社を失業するまでは、国民年金に上乗せした保障する厚生年金(「第2号被保険者」)に加入しており、その保険料は給与から天引きされていました。

しかし失業以降フリーランスになってからは、「第1号被保険者」として国民年金保険料を払う義務があります。

厚生年金に約11年間加入していたことから、「65歳からは45万7,800円(月額3万8,150円)の老齢厚生年金が受給できる」とネットで調べて知ったAさん。

そこで、「年金も少しはもらえるんだし、今後は国民年金保険料を納付するより、株式や投資信託で運用したほうがお金が貯まるだろう」と考え、その後15年間保険料を払わなかったそうです。

赤色の封筒が“最終通告”…未納→財産差し押さえまでの流れ

1.納付期限までに納付されない場合、「納付勧奨」を行う

日本年金機構は、国民年金保険料が期限までに納付されない場合、「納付勧奨」を行います。これは、保険料未納期間と金額を記載したはがき「国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)」や電話で、未納分を納付するように催促することです。

Aさんは再三にわたってこの納付勧奨をされていたにもかかわらず、収入が増えてからも「忙しくて面倒だから」とほったらかしていたそうです。

2.3種類の「特別催促状」と「督促状」が送付される

日本年金機構は、「控除後所得が300万円以上かつ7月以上保険料を滞納している未納者を強制徴収対象者と位置づけ、最終催告状の送付等の滞納処分を行う※」という施策を実施しています。

収入が上がり未納を続けるAさんも「強制徴収対象者」となったのでしょう。給付勧奨を無視していると、次に封書の色が青色、次に黄色、赤色(最終催告状)の順番で「特別催促状」が届きます。最終催告状に記載した指定期限までに未納の国民年金保険料を納付しないと、今度は督促状を送付されます。

3.財産の差し押さえ

督促状に記載された期限までに未納の保険料を納付しないと、「差押予告通知書」が届き、その後、財産が差し押さえられます。

差し押さえられる財産は銀行預貯金だけでなく、給与、自宅などの不動産、車、株券などです。

無視し続けると「延滞金」も支払うはめに

督促状で指定された期限までに未納保険料を納付すれば、延滞金は課せられません。

しかしそれ以降に納付すると、本来の納付期限の翌日から未納金を納付した日の前日まで日数分の延滞金も徴収されます。

通常、保険料の納付期限は2年でそれ以降は時効です。しかし、督促状が届くとそこで時効は中断します。中断後は、納付するまで延滞金額も増加していきます。延滞金は、年利3.8%~14.6%かかります。

日本年金機構によると、令和5年9月末時点での最終催告状送付件数は10万8,091件。 督促状送付件数は5万2,849件、差押執行件数は1万3,243件となっています。

法人化しても、65歳以降の「年金暮らし」は望み薄

続いて筆者は、Aさんの年金受給見込額を試算しました。

今後も60歳か65歳までフリーランス(個人事業主)として働き続ける方法もありますが、収入が十分にあるAさんは法人化し、厚生年金保険料を納付する選択肢もありえます。

[図表]Aさんの年金保険料を納付した時の受給見込月額 出所:筆者が作成

65歳以上の単身無職世帯の収入は約13万4,915円。税金や社会保険料を含めた支出は15万5,549円です。

試算の結果、Aさんが法人化したとしても、65歳以降は年金収入だけでは生活できず、貯蓄を取り崩す生活になるでしょう。したがって、収入のあるうちに税制優遇のある新NISAなども活用して、老後の生活費をつくっておくことが大切です。

未納を続けると強烈な“しっぺ返し”が…甘く見てはいけない公的年金

ひととおり話したあと、筆者はAさんに年金の役割についてもお話ししました。公的年金は、老齢年金のほか、万が一の場合は、65歳を待たず「障害年金」や「遺族年金」を受給することもできます。

Aさんは、「年金って年金以外の機能も備えているんですね。甘くみてました……これからはきちんと支払います」と言って帰られました。

国民年金保険料の負担額は決して安くなく、「払う必要があるのか」と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、リタイア後の主な収入は年金です。

日本年金機構が「ねんきん定期便」などで知らせてくれる年金受給見込額は、老後のライフプランを作成するときのベースになります。年金を甘く見ていると、リタイア後にしっぺ返しを食らいかねません。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

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