「亡くなるまでの時間」をより良く過ごすために書いておきたい…遺言書とは違う「エンディングノート」の活用法【司法書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

人生のエンディングを準備する「終活」にあたっては、遺言書を残すだけでなく、自分が亡くなった後の事務手続きや亡くなる直前の希望を「エンディングノート」に書いておくことも大切です。本記事では『ふと、終活のことを考えたら最初に読む本』(日本実業出版社)から一部抜粋し、エンディングノートの効力と使い方をご紹介します。

登場人物

あんみつ先生(45歳)…司法書士。都内の会社を退職し、実家のある田舎町にUターン。司法書士事務所を開業し、おもに相続と成年後見を中心に業務をしている。また、副業で終活セミナーの講師もしている。

吉田小春さん(65歳)…専業主婦。あんみつ先生のご近所さん。子供2人はすでに独立し、現在は夫と気ままな2人暮らし。

吉田健二さん(70歳)…小春さんの夫。長年勤めた会社を定年退職し、家で趣味を楽しみ、のんびり暮らしている。

エンディングノートは法的文書ではない

小春 私、エンディングノートを書いてみたいわ。

吉田 何を書くのかな?

先生 エンディングノートには自由に希望を書いていいのです。ただ、法的拘束力はないので、その希望を家族がかなえてくれるかはわかりませんけど…。

小春 あら、それじゃあ私、書くのやめようかしら。

吉田 でも、はるか昔、就活の時にした自己分析みたいに書いてみると、自分のことがわかって面白そうだね。

小春 そうかもね。私たちの終活では希望なんて今さらな気もするけど、試しに何か書いてみようかしら。

終活講座で受講生から、「エンディングノートには何を書けばいいのですか」と質問されることがあります。その際には、「何をどう書いてもいいんですよ」と答えています。

遺言書とは違い、エンディングノートは法的な文書ではないからです。書く内容や形式には決まりがなく、自分の好きなことも自由に書いてよいのです。自筆ではなく、パソコンで作ってもかまいません。

エンディングノートには市販のものもありますが、市販の文具を利用してオリジナルのエンディングノートを作成することもできます。

たとえば、ファイルブックを用い、背表紙にタイトルを貼り付け、重要書類をファイルに差し込んでいくだけでも内容は充実します。ファイルにメッセージを書いた便せんを差し込んでもよいでしょう。事情が変わったら、書類や便せんを差し替えればよいだけです。

重要な情報を1つの場所に集中管理しておくことで、エンディングノートの機能を果たします。

また、ファイルには遺族が様々な手続きで困らないように事務的な書類も入れておくとよいでしょう。

[図表1]エンディングノートに書くこと(例)

亡くなったあとには、年金の受給停止、健康保険や介護保険の資格喪失など、遺族がしなくてはならない手続きがたくさんあります。関連する証明書や書類の保管場所を書いておけば、遺族は探す手間がなく助かります。

なお、遺言書を作った場合は、遺言書があることもエンディングノートに書いておけば、あとで遺族が困らないでしょう。デジタル終活に関しては、パスワード等の情報をエンディングノートにまとめておくのが簡明です。

とくに、遺族が至急パソコンにログインして調べものをしたい場合を想定し、パソコンのログイン情報などもエンディングノートに書いておくとよいでしょう。

亡くなる前の「過ごし方」の希望も書いておく

小春 自分が死ぬときのことを想像すると、しんどくなるわね。

吉田 そうだね。死ぬときはコロッといきたい。延命治療はしてほしくないな…。

先生 「延命治療をしてほしくない」と思っている人はエンディングノートに書いておくとよいです。

小春 そういうことも書いていいの? 私も延命治療はやめたいです。痛いのや苦しいのは苦手だし…。

エンディングノートには、自分が亡くなる前と、亡くなったあとの「こうしてほしい」という希望を書いておくと、遺族が対応に迷わずに済みます。

遺言書に書くような相続財産のことでなくても、たとえば「たくさんの本は図書館や施設に寄付してほしい」といったちょっとした希望から、「延命治療はやめてほしい」といった重要な希望なども書いておくとよいでしょう。

しかし、「延命治療はしないでほしい」とエンディングノートに書いておいたとしても、主治医が本人の意思や希望を必ずしも尊重できるとは限りません。

エンディングノートに書いた希望は家族に宛てたものなので、厳密にいえば「家族が主治医に相談してほしい」という趣旨の記述と考えるのが妥当です。

つまり、このケースでは、エンディングノートに書いた「延命治療はしないでほしい」という自分の希望が必ず実行されるとは限りませんが、本人の意向を家族が知ることで、家族が主治医に相談する機会を作ることはできます。

なお、寝たきりなど患者が医師と意思疎通できなくなった場合を想定し、病院から「事前指示書」という書面を渡されることがあります。これもエンディングノート同様に法的効力はありません。

エンディングノートは法的文書ではありませんが、これからの時代は法的効力のある遺言書さえ書いておけば十分ということでもありません。現代人の老後は、認知症や寝たきりになってから亡くなるまでの期間が長くなっています。

その間に想定される自分の様々な希望をエンディングノートに書いておけば、亡くなるまでの時間をよりよく過ごせる助けになるでしょう。

加藤 光敏(あんみつ先生)

司法書士

※本記事は『ふと、終活のことを考えたら最初に読む本』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン