【DeNA】 “ハマのサブマリン”・中川颯が描く地元への恩返しストーリー「良いメンタルで野球ができています」

☆愛するベイスターズに入団

「いや、やっぱり気分が上がりますよね」。沖縄の青空の下、“HAYATE”と自らのネームの入ったベイスターズのユニホームに身を包んだ中川颯は、噛みしめるように喜びを表現した。
地元横浜の戸塚出身で、生粋のハマっ子ベイスターズファンは「小学生低学年の頃によくハマスタで応援していましたね。三浦(大輔)さんが投げていて、石井琢朗さんも出ていました。ユニホームも雰囲気も好きでしたね」と幼少期を回想。憧れの存在とともに戦う環境に「いいメンタルで野球ができています」と声を弾ませた。

地元神奈川・桐光学園高では4番でピッチャーと中心選手として活躍。立教大学に進むと、1年目には全日本大学野球選手権で最優秀投手賞に輝き、通算10勝をマークすると、2020年のドラフト4位指名でオリックス・バファローズに入団した。

翌年には一軍でデビューを果たし順調なプロ生活をスタートさせたが、22年オフには肩の故障を発症し育成契約に変更。2023年シーズンは肩の状態も上向き、ファームながら21試合登板で、防御率1.38、WHIP0.67と“無双状態”で手応えを掴んだ。

しかし待っていたのは戦力外の非情宣告。絶望の淵にいた右腕に手を差し伸べたのは、大好きな横浜DeNAベイスターズだった。

緊張気味だった入団会見でも「心の底から嬉しかったです。ベイスターズのユニホームを着てプレーすることが幼い時からの夢でもあったので、ひとつ夢が叶った感じです」と破顔一笑。実際にキャンプインしてからも「みんな明るくて、すごい馴染みやすい感じで。新しい環境ですけど、溶け込めていると思います。楽しいですよ」と活き活きとトレーニングに打ち込めている。

第4クールの最終日に行われたピッチャー陣のフリーバッティングでは、大きな構えで左打席に入ると、快音を残しバックスピンの効いた打球が高々と舞い上がり、ついにはスタンドインも達成。「ずっと室内打ってたんですけど、外ですと開放感が違いますよね。だいぶ前に練習試合で1本打ったんですけど、久々でしたね」と満足げな表情で汗を拭い「バントも得意とは言えないので、そんなハードルあげないでほしいですけど。チームのためになるようなバッティングを出来ればいいと思います」と打席にも意欲を見せた。他の打者とは明らかに違うスイングに三浦監督も「バッティング良かったですね。良い振りをしてましたし、楽しみですね」と、高校通算26本塁打の実力に目を丸くするほどのインパクトを残した。
☆ピッチングにも手応え

肝心のピッチングでも、すでに紅白戦や練習試合で実戦登板を果たし「高低をうまく使って、緩急もつける」自らのスタイルで未だに無失点と結果も残している。「本当に日に日に良くなってきています。(キャンプ)最初の時よりも、自分の思い描いたようなピッチングができてきました」と笑顔。「まだ完全ではないですけど、これからも少しずついい方向に調整できればいいなと思います」とじっくりと歩みを進めていくとした。
また変則フォームながら「交わすピッチングではなく、真っすぐの強さを武器にしていきたい」との信念を持つが「結構感触はいい手応え」とオフに大阪で行った自主トレでの増量の効果も実感。「シーズン近づくにつれて、もっと、もう1個押せるようになっていけばいいかなと思います」と更なるブラッシュアップを図ると公言した。

DeNAの特色でもあるデータ分析には「細かくは言われてないですけど、コミュニケーション取りながら、うまくやっていければいいかなと思います。どの高さが有効なのかっていうのは、定期的に話するようにしています」と有効利用を目論む。

しかし「上から投げるピッチャーの方よりは参考にならない部分もあると思います。バッターによって反応は違いますし、僕はパターンにはめるというよりは、僕がバッターに対応していくみたいな感覚でやる感じですね。そこはやっぱり臨機応変に対応していくのが自分の強みだと思っているので、そこは大事にやっていければいいと思います」とアンダースローならではの希少性と、自ら積み上げた経験を元にピッチングで勝負していくイメージを思い描く。

移籍1年目の今シーズンに指揮官は「今のところ先発の予定です。打者がすごいいい反応していますし、本当にウチにいないタイプの投手なので、いろいろな可能性が拡がるなと思っています」とローテーション入りを期待しているとキッパリ。

それでも本人は「まず開幕一軍を掴んで、1年間一軍の戦力になることですね」とまずは足下を見つめる。続けて「先発でも中継ぎでも、どっちでも対応できるようには心の準備はいつでもしてるんで。しっかりチームに貢献できるように頑張りたいです」と謙虚な姿勢は崩さないが、その目には自信も垣間見えた。

愛するチームのユニホームを着て果たすリ・スタート。“ハマのサブマリン”の恩返しストーリーは、もう始まっている。

取材・文●萩原孝弘

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