「ロテ島の女」 インドネシア最南端の島、性暴力を受けた女性の不公正さ浮き彫りに 【インドネシア映画倶楽部】第70回

Women from Rote Island

インドネシア最南端の島としても知られる、東ヌサトゥンガラ州のロテ島を舞台にした作品。女性に対する性暴力というテーマとは裏腹に、目に染みるような美しいロテ島の風景が逆にやるせない気持ちを高めている。出演者のほとんどはロテ島の住民で、ロテ島の雰囲気や臨場感が強く伝わってくる。

文と写真・横山裕一

2023年のインドネシア映画祭の最優秀長編作品賞をはじめ最優秀監督賞など4部門を受賞した作品。東ヌサトゥンガラ州のロテ島はインドネシア最南端の島としても有名で、ティモール島の同州州都クパンから高速船で約2時間の位置にある。ティモール海を挟んだ対岸はオーストラリア大陸である。女性に対する性暴力というテーマとは裏腹に目に染みるような美しいロテ島の風景が逆にやるせ無い気持ちを高めている。

物語は島の女性オルパの夫の死去に際する、葬式の準備風景から始まる。親戚が葬儀進行を催促する中、オルパは長女のマルタが帰って来るまで待つと言い張る。マルタはマレーシアへ出稼ぎに出ていたが、仲介業者の手続きが違法だったため強制送還されてくるところだった。ようやくマルタが帰宅するが、オルパは娘の様子の異変に気づく。マルタは出稼ぎ先で性暴力に遭い、精神的な障害を受けていたことがまもなく判明する。

出稼ぎ先とはいえ、母親として娘を守ってやれなかった事に思い苦しむオルパ。ある日、マルタは集落の若い男に再びレイプされそうになる。妹のベルタの助けで未遂に終わるが、マルタはトラウマが再発する。そんな矢先、今度は妹のベルタに危険な影が迫っていく……。

インドネシアでは主に女性が家政婦として中東や東南アジア、台湾、香港などへ出稼ぎに出る人が多く、ほとんどが低所得者で低学歴の地方出身者であるのが実態だ。インドネシア中央銀行の調べでは、2022年の男性を含めた海外出稼ぎ者は344万人にものぼるという。そして、雇い主による虐待や性暴力などが毎年のように問題化している。

本作品ではこうした背景をもとに、辺境地である地方における女性の地位の低さ、安全性の低さが性暴力という悲惨な事件を通して浮き彫りにされている。2017年作品で日本でも劇場公開された「マルリナ ある殺人者の4幕」(Marlina Si Pembunuh Dalam Empat Babak/日本公開時タイトルは「マルリナの明日」)も本作品と同じ東ヌサトゥンガラ州スンバ島を舞台にした作品だが、同じテーマである。中央から遠く離れた島などの辺境地では、古来からの男性が優位になりがちな風習の存在や男女同権の教育が行き渡っていないのが実態であるようだ。

監督は俳優出身のジェレミアス・ニャグン監督で、今回が初監督作品である。出演者のほとんどがロテ島の住民で、長期にわたってリハーサルを重ねたというだけあって違和感はなく、(筆者は現地へ行ったことはないが)逆にロテ島の生活感、臨場感が強く伝わってくる。

作品内ではロテ島ならではの光景も映し出される。葬儀の際の伝統舞踊や独自紋様の伝統織物による衣装などだ。なかでも重罪を犯した者が被害者に謝罪する伝統風習が驚くべき方法で、必見でもある。物語に戻ると、伝統風習に基づいた謝罪を受けたオルパが放つ一言が印象的である。「伝統は伝統として受け入れるが、罪は罪、警察に行ってもらう」。被害者が求める公正な社会の実現こそが本作品の本質であるといえそうだ。

地方を舞台に当地の民族が出演して当地の民族言語が使用され、その地が抱える問題をテーマにした地方映画作品は、2023年に公開されたパプアを舞台にした「オルパ」以来で、この作品も貧困からくる女性の地位の低さと教育問題がテーマにされている。今後も多様性の国インドネシアならではの地方色豊かで問題を浮き彫りにした作品が出て来ることを期待したい。

映画「ロテ島の女」では、作品中に次のような言葉が何度も繰り返し出てくる。

すべての人は血の通った胎内から生まれてきている

血の通った人間であり続けることの大切さ、尊さを是非、劇場で観て感じとっていただきたい。(インドネシア語字幕付き)

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