老後資金が少なくて不安な人はどうしたらいい?「医療費と介護費の備えを考えて」井戸美枝さんがアドバイス

老後資金が少なくて不安だという人は、少なくないと思います。今のうちからできることがあるとすると、どんなことでしょう。老後資金の備え方を、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに教えていただきましょう。まずは医療費と介護費をとりおきます。

★老後の住まいは考えている?★

【58歳 Jさんの悩み】
老後の医療費や介護費は、どれくらい備えておけばいいですか。ほかにも、老後に貯蓄から準備しておいたほうがいい支出は? 老後資金はいくらあれば安心なのでしょう。

【井戸さんのアドバイス】
・医療費や介護費は、平均的な費用を目安に備えましょう。
・老後に貯蓄から出すのは、月の赤字ほてんや特別支出、医療費・介護費です。
・自分のケースで、必要な老後資金の目安を見積もってみましょう。
・今から月の収支、ボーナス収支をつかんで、支出のムダをカットしておくと安心です。

医療費と介護費は、平均値を参考に備えよう

まず、医療費と介護費について考えてみましょう。

医療費や介護費はいつ、いくらかかるかわからないだけに、どれくらい備えておけばいいのか、悩む人が多いようです。

そこで、安心材料として、医療費と介護費、それぞれの平均的な費用をとりおくのも一つの方法です。

医療費の目安は約250万円

医療費の自己負担は、一般に、かかった費用の3割です。たとえば、医療費が100万円かかったとしても、自己負担額は3割の30万円。

さらに、その自己負担額が1ヵ月に一定額を超えた場合は、健康保険の「高額療養費制度」で超えた額を払い戻してくれます。上限額は年齢や年収によって異なり、たとえば、65歳~69歳で年収が約370~約770万円だとすると、自己負担分は9万円程度になります。

70歳以上で収入が年金のみなど年収が少ない場合は、自己負担額の限度額はもっと低くなりますから、負担はさらに軽くなります。たとえば、年収156~約370万円の場合、上限額は5万7600円です。

この基本から、65歳以降にかかる平均的な費用を推定してみましょう。

厚生労働省「医療保険に関する基礎資料」によると、65歳以上の医療費の平均額は1577万円。3割負担とすると自己負担額は約400万円程度ですが、65歳以上に占める割合は70歳以上の人が多いため、さらに自己負担額が減って、200万円程度と想定します。

そこに、入院でかかる費用を上乗せします。前述したように、70歳以上の1か月の自己負担の限度額は5万7600円ですから、累計で10か月程度入院したとして、かかる費用は57万6000円です。

以上の2つを合計すると、準備しておきたい医療費は約250万円が目安になります。

介護費の目安は約580万円

生命保険文化センターの調査によると、介護にかかった費用は平均月8万3000円。加えて、住宅の改修や介護用ベッドの購入費など一時的にかかった費用の合計は、平均74万円です。
一方、介護を行った月数は、平均61.1か月(5年1か月)です。

ここから、介護にかかった費用の合計を割り出すと、「一時的にかかった費用74万円+(月8万3000円×61.1か月)」で、約580万円に。

準備しておきたい介護費の目安は、約580万円といったところでしょう。

2つから、医療費と介護費をあわせて準備しておきたい額は約830万円になります。医療保険や介護保険で備えている人は、その保障を差し引いて準備するといいでしょう。

老後資金の中身は主に4つ

医療費や介護費のほかに、老後に貯蓄から出すお金には、次のようなものがあります。

① 年金だけでは足りない生活費
② 固定資産税や自動車税、旅行費、冠婚葬祭費など、年間にかかる特別支出
③ 家のリフォーム、車の買い替えなど、数年~生涯に1度かかる特別支出
④ 医療費・介護費

言いかえれば、必要な老後資金は、これらを合計した額、ということ。
以下を参考に、自分のケースで計算してみましょう。

(計算例)
① 年金で毎月2万円の赤字が出る場合
2万円×12か月×30年(95歳-65歳)=720万円

② 年間にかかる特別支出
固定資産税10万円、自動車税・自動車保険・車検代など15万円、旅行・レジャー費10万円、冠婚葬祭など急な出費用5万円
合計40万円×30年(95歳-65歳)=1200万円

③ 数年~生涯に1度かかる特別支出
車の買いかえ200万円、家のリフォーム100万円、家電買い替えなど100万円
合計400万円 ※高齢者施設への入居やお墓の準備もあるなら、その費用もここに。

④ 医療費・介護費830万円

準備しておきたい老後資金3150万円

老後資金が不足しそうな人は、いまから家計の見直しを!

必要な支出を書き出してみて、「こんなに準備できない」と思う人もいるでしょう。でも、大丈夫! 支出や収入を見直すことで、必要な資金は縮小できます。

上の例でいえば、たとえば、①の毎月の生活費の赤字ほてん分は、やりくりで1万円赤字が減れば必要な資金は半分の360万円に、赤字が解消すれば720万円全額が不要です。

年金額が少なく、どうしても赤字が出る場合は、老後も短時間でもパートに出て、収入を増やすことも検討するといいですね。

同様に、②、③の特別支出も、見直せる支出はないかチェックしてみましょう。

車にかかる費用は、免許を返納する年齢を決め、そこから逆算して費用を見積もるのがおすすめです。たとえば、今58歳で車が8年目、70歳で免許を返納するつもりなら、現役のうちに車を買いかえて、70歳まで乗りつぶせば、買い替え費用は不要になります。70歳以降は、自動車税や自動車保険などの維持費もかかりません。

旅行費やレジャー費も、毎月の年金やバイト代から少しずつ積み立てて準備すれば、貯蓄の取り崩しが減らせます。

(見直し例)
上記の必要な老後資金例を見直した場合

① 毎月の赤字補てん用
月の赤字2万円が0円に減少→▲720万円

② 年間の特別支出
旅行・レジャー費を月の積み立てで出すと年10万円減少→10万円×30年=▲300万円
70歳で自動車免許を返納すると、70歳以降車の維持費年15万円減少→15万円×25年=▲375万円

③ 数年~生涯に1度の特別支出
車の買い替えをやめる→▲200万円

④ そのまま

合計で1595万円減って、必要な老後資金は1555万円に!

老後資金が足りるか足りないかは、実はとてもシンプル。入ってくるお金(年金など)に対して、出ていくお金(生活費など)がおさまればいいのです。極端にいえば、それができれば、老後資金は医療費と介護費のお金さえあればいい、ということになります。

老後資金が少なくて不安な人は、いまからもらえる年金と毎月の支出、特別支出をきちんとつかんで、少しずつ見直していきましょう。

プロフィール
井戸美枝
いど・みえ●ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。近著に『フリーランス大全』(エクスナレッジ)。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido


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