災害時、障害がある子どもが避難する際、どんな課題があるのか。実際の訓練と検証を続けてきた家族たちが11日、福島県いわき市でその成果を報告しました。いざという時のために、備えるべきは「モノ」だけではないと強調しています。
「おはようございます、お願いします」
年明け早々の1月5日、いわき市の福島県立平支援学校に大勢の人が集まりました。バギーと呼ばれる車いすに乗っているのは笠間理恩さん(13)。心身に重い障害があり、日常的に医療的なケアが必要です。
「この音は…1年ぶりの。懐かしい!」
災害用のブランケットをかぶせる、母の笠間真紀さん。理恩さんがこのブランケットの音を聞くのは、1年ぶりのことです。
■困難を極めた避難所までの移動
約1年前、避難所までの道のりを実際に移動する訓練をした理恩さんと参加者たち。バギーと人工呼吸器を押しながらの移動は困難を極めました。訓練を受け市は、この避難ルートではなく、設備の整った福祉避難所に直接、避難する方針をその場で決めました。
そして、今年。その福祉避難所に避難した際、どんな課題があるのか、検証するための訓練が始まりました。
重症心身障がい児(者)と家族の会・笠間真紀さん「民間と行政が一緒になって避難訓練できることをうれしく思っています。きょうは一日、よろしくお願いします」
参加しているのは、すべて、理恩さんのケアに関わっている人たちです。前回の成果も踏まえ、いわき市医療センターの医師で、理恩さんの主治医の本田義信さんは、気づいたことをすぐに共有するよう、呼びかけました。
いわき市医療センター・本田義信医師「やっぱり実際にやってみないとわからないところが多いというのと、現場に大勢集まると、その場でワンタッチで結論が出るところがよかったかなと思います」
■今年のテーマは福祉避難所の「質の向上」
いつ来るかわからない災害に備え、理恩さんのケアに必要な物品を常に準備しているという笠間さん。テントなども含めれば、物品だけで車1台分になるといい、移動そのものも課題です。
今回のテーマは、福祉避難所の質の向上。市が準備しているテントの中で、どんな課題があるのか、理恩さんとともに考えます。
入口が狭いため、理恩さんの出入りには、人手が必要なこともわかりました。さらに横にした後も、ケアが欠かせません。
本田医師「避難所生活でこういうふうにずっといると(筋肉などが固まる)拘縮が進んでしまう子が結構いて、予防のマットが非常に大事になる」
今度は背の高い広めのテントに移動。過ごしやすくなったのか、理恩さんも笑顔を見せました。
■避難所の発電機は「わずか2人分」
一方で、大きな課題も見つかりました。医療機器が欠かせない障害児にとって、電源が確保できるかどうかは、命に直結する課題です。しかし……。
笠間さん「湯たんぽとか、電気毛布で保温するのも、お湯を沸かすのも全部電気。1つの発電機で2人が限界かも」
避難所にある発電機では、医療的ケア児の医療機器が2人分しかまかなえないこともわかりました。
笠間さん「一言でいうならやってよかった。実践じゃないと見えないことっていっぱいあるので。今回もガソリンタイプの発電機でも、医ケア児1人か2人入れられるかどうかというところまで計算できた」
■当事者では限界も「存在を知ってほしい」
こうした課題を多くの人に知ってもらおうと、笠間さんたちは今月11日、講演会を開きました。
本田医師「私たちが目指すのは、医療的ケア児の震災対策に取り組むことで、いわき市に住む多くの関係者の方々の考え方が変わることを目指したいと思う」
災害弱者の避難では、当事者の努力だけでは限りがあり、登壇した人たちは地域の住民の協力が不可欠だと訴えます。
笠間さん「私がきょうみなさんに、覚えていってほしいことはここです。地域とつながり合うこと!」
自分の地域に、重症児がいること。それを知ってほしいと、会場で理恩さんとともに訴えました。
「存在を知ってもらうことが基本の『き』『助けて』と子どもたちは自分で言えないんですよね。声は出ても言葉としては『助けて』とはなかなか言えない子どもたちなので」
■私たちは子どもたちを守る「仲間」
2019年の台風19号で一時、孤立した経験から、町内会の活動に参加するなど、地域との関わりを積極的に持つようになった笠間さん。最後に集まったおよそ100人を前に、呼びかけました。
「きょう参加いただいたみなさんは、もう障害児の生活なんて、障害児の避難なんてわからないとは言わせません。積み上げてきたことが武器になります。私たちは一緒に地域を守り、子どもたちを守り、育て、次の世代につないでいく仲間です」
少しずつ動き始めた災害弱者を守るための動き。いざという時、自分たちに何ができるのか。地域を守る「仲間」と呼びかけられた私たちが考える番です。
「個別支援計画」作成完了はわずか4自治体
笠間さんたちの取り組みには、もう1つ大きな目的があります。「災害時の個別支援計画」の作成です。これは災害のとき、障害者や介護が必要な人が、どのような経路で、誰が支援して避難するのかなどをあらかじめ立てておく計画です。
この作成は2021年から、市町村の「努力義務」となりました。ところが、福島県内では去年10月現在、作成が完了した自治体は、わずか4つに留まっています。
いつ起こるかわからないのが災害ですが進まない理由について、福島県の担当者は「高齢化などで、地域で支援する人が不足している」と説明しています。改めてここでも、災害弱者の支援は「地域」の課題だということが改めて浮き彫りとなりました。
個別支援計画の作成について、笠間さんたちは、まずはいわき市で100%、そして県内で100%となるような未来を目指しているということで、やはり、地域一人ひとりの理解と協力が不可欠ではないでしょうか。