佐々木麟太郎、進学するスタンフォード大学はIT分野で世界最高峰…実はスポーツのマンモス校でもあった

米スタンフォード大への進学が決まった花巻東高の佐々木麟太郎

高校歴代最多の通算140本塁打を放った、岩手の花巻東高校の佐々木麟太郎内野手がスタンフォード大学への進学を決めたことで、アメリカ有数の名門として知られる同大への関心が高まっている。

2月20日、報道陣の取材に応じた佐々木は、同大への進学を「一瞬の喜びより一生の喜びを」という意思を持って決断したと述べた。この言葉の意味を、同大大学院で学んだ実業家で、情報経営イノベーション専門職大学教授の江端浩人氏がこう説明する。

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「NPBのドラフト1位が確実視されながら、スタンフォードへの留学を決めた。素晴らしい決断だと思います。野球だけに専従せず、将来的にはビジネスとの “二刀流” が視野にあるということでしょう。佐々木君が起業家として成功すれば、大谷翔平の契約金額1000億円を超えるのも夢ではないかもしれません」

1891年創立の同大は現在、各世界大学ランキングで2位ないし3位の座を占め、とりわけ工学部の情報工学・コンピュータ科学分野では最高峰に数えられる。江端氏はその理由をこう語る。

「多くのビジネス成功者を生んでいる、シリコンバレー地域の真ん中にあるからです。パソコンやプリンタの最大手ヒューレット・パッカードは創業者2人が出身者で、この大学から生まれたといっても過言ではありません。

ほかにも、Yahoo!共同創業者のジェリー・ヤン、Google共同創業者のセルゲイ・ブリンにラリー・ペイジなどが大学院で修士や博士課程を修了しており、あのイーロン・マスクも2日間だけ学んでいます」

東部のアイビー・リーグ諸校と比べて歴史が浅く、西海岸の開放的な文化土壌に立脚する同大は、「ダイバーシティ(多様性)を重視する傾向にある」とも江端氏。

「入学の際は社会貢献など、勉学以外でもいかに情熱を燃やしたかが問われます。一芸に秀でるというか、どの分野でも1位の学生を取りたがるんですね。そうやって多ジャンルをミックスさせたほうが、環境の活性化に結びつきますから。

成績のつけ方も、ハーバードなんかは下位5%は必ず落第させると聞いていますが、スタンフォードではそんなことはなく、より将来的な成長性を評価します」

しかし、アメリカの大学は一般的に、日本と比べて入りやすいが卒業しづらいと言われる。出席しているだけでは単位もくれないし、奨学生といえど、学業の年間規定を守る必要がある。いかに佐々木が勤勉でも、部活動との両立は果たせるのだろうか。江端氏はそこにも「日本とアメリカの環境の差」があると指摘する。

「アメリカの部活はシーズン制なので、一年中活動しているわけでもない。元から “文武両道” が原則なんです。それでいて、スタンフォードはスポーツのマンモス校とも言えます。

リオ五輪では水泳のケイティ・レデッキーら、学生と卒業生を含め、10種目で11人が16個の金メダルを獲得しました。これは全米チームの総金メダル数の20%を占め、日本の金メダル数12を超えています」

ゴルファーのトム・ワトソンが卒業し、タイガー・ウッズもプロ転向までは通ったのがスタンフォード。江端氏は留学時、広大なキャンパス内にある、大学所有のゴルフコースでウッズと遭遇したこともあったという。

MLBで活躍する出身者もかなりおり、もっとも知られるのはオリオールズからヤンキースへと渡り歩き、通算270勝をあげて野球殿堂入りも果たしたマイク・ムッシーナ投手だろう。超一流大だからこそ、スポーツ分野でも手抜かりはない。

佐々木自身、入学の決め手は同大野球部の「コンディショニングとサポート」の充実にあった、と20日の取材でも語っている。WBCでの優勝やMLBでの大谷翔平の活躍で、スタンフォード側も日本の高校球界に今まで以上に注目していたのだろう。

佐々木の場合、2年生を終えた段階でMLBのドラフト対象となるので、それまではいかに水が合わずとも、ホームシックにかかろうとも、「石の上にも三年」で耐えねばならない。逆にそこに至れば、卒業する必要もない。とはいえ、ドラフト待ちの腰かけにするには、スタンフォードはあまりに優れた大学なのだ。

『【スタンフォード式】世界一やさしい パラレルキャリアの育て方』という著作もある江端氏は、「ドラフト上位にかかれば、すぐにもメジャー入りするだろう」と佐々木の将来を予測しつつ、学業との二刀流を貫くことを期待する。

「アメリカの大学は日本と違い、少しずつ単位を取って、何年もかけての卒業が可能なところもあります。ただ、ほかの学生スポーツでも、3年生からプロ入りする際、中退してしまう者がほとんどでしょう。

しかし、少数ながらとりあえず大学に籍を残しておく学生もいるようです。スタンフォードは累積8クオーター(四半期)まで休学できるので、佐々木君もプロ入り後は可能であればオンラインやオフシーズンに集中的に講義を受けたりして単位を取得し、しっかり卒業してほしいですね」

せっかく約5000万円という全額奨学金を得たのだから、佐々木には真の文武両道に徹し、多面的な「一生の喜び」を追求してもらいたいものだ。

文・鈴木隆祐

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