社説:GDP4位 株高より真の豊かさを

 「豊かさ」の中身を問い直す契機とすべきだろう。

 日本の国内総生産(GDP)が昨年の名目値でドイツに抜かれ、世界4位に順位を下げた。

 円安でドル換算額が目減りした影響が大きいとはいえ、「経済大国」としての国際的な存在感の低下を危ぶむ声が上がる。

 一方、きのうの日経平均株価は約34年ぶりに史上最高値を更新し、数字上は「バブル経済期超え」を果たした形となった。

 ともに歴史的な節目ながら、多くの国民にとって実感が乏しいのが本音ではないか。二つの相反する事象は、長期の日本経済の低迷と「いびつさ」を表していよう。

 日本は高度成長期の1968年に旧西ドイツを抜き、米国に次ぐ世界2位に。2000年以降は巨大な人口を抱える中国が台頭し、10年に追い越された。

 日独の半世紀ぶりの再逆転は、大幅な円安に加え、日本の倍近い物価上昇率6%でドイツの名目値がかさ上げされた要因もある。

 ただ、ドイツの人口は3分の2程度である。バブル崩壊後の「失われた30年」と呼ばれる日本経済の停滞、低成長がもたらした結果なのは明らかだろう。

 根底にあるのが、GDPの半分以上を占める個人消費の弱さだ。

 バブル不況や金融危機を通じ、日本企業はアジア市場など海外展開で稼ぐ一方、国内は人や設備への投資を抑える「コストカット」を続け、長期デフレを招いた。

 労働規制の緩和と相まって、低賃金で不安定な非正規雇用は働き手の約4割に拡大。アベノミクスでも輸出大手や富裕層に恩恵がとどまり、消費回復の広がりと力強さを欠いた。

 大量の「金融緩和マネー」は実力以上に株価を高め、企業のイノベーション(革新)を妨げている面もある。目先の景気指標を取り繕う政策運営が、円安と物価高を招いて家計を圧迫し、経済の足腰を弱らせているのは否めない。

 直近でも実質賃金は21カ月連続で目減りが続き、消費の鈍化から昨夏以降のGDPはマイナス成長が続く。今春闘で物価上昇を超える賃上げが大企業のみならず、約7割が働く中小企業に広げられるかどうかが焦点だ。

 すでに日本は人口減時代に入り、人手不足が生産や流通、サービスでも制約要因となりつつある。規模の成長を追うばかりでなく、人材や資源を効率的に活用し、働きや暮らしの格差を埋めて「分かち合う経済」を考えたい。

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