どういう防衛力を備えるか、中身も財源も見えぬまま、「金額ありき」の議論に危うさを禁じ得ない。
防衛省は、防衛力強化に関する有識者会議の初会合を開催した。政府が2023年度から5年間に投じる防衛費総額約43兆円のさらなる増額を求める意見が委員から上がった。
大幅な円安や物価高、人件費の高騰などで防衛装備品の調達価格が想定より上昇しているとし、座長の榊原定征・経団連名誉会長は「見直しをタブーとせず、本音ベースで議論すべき」と主張した。
政府は閣議決定した43兆円規模内で抜本強化する、と見直しを否定するが、具体策を語らないままだ。
安定財源の裏付けを欠いた防衛費増額に、「有識者」の声を背にした膨張圧力がかかる形だ。
どこまで必要なのか、身の丈を超えないか、持続可能なのか、国民から理解を得られる議論こそが問われる。
政府は22年末に決定した防衛力整備計画で、新たに敵基地攻撃能力を持つ長距離射程のミサイルや航空機、艦艇などの27年度までの調達数と経費を総額43兆円とし、岸田文雄首相は「必要な防衛力を積み上げた」と説明していた。
ところが、為替相場は予算作成時の1ドル=108円から現在は150円前後の大幅な円安に振れている。米国から買い付けるステルス戦闘機の価格は1機当たり100億円の見積もりが、134億円に跳ね上がっている。
岸田氏は国会で問われても、購入の見直しなどを否定した。単価高騰で購入できる装備は限られるのに、どういうことか。
「機密」をたてに中身の詳細を隠してきたが、防衛費「倍増」は数字ありき、という実態が浮き彫りになったといえよう。
本来なら国会で議論すべきなのに、有識者会議を通じて予算の上積みと防衛増税に対するお墨付きを得ようとしているようにしか見えない。
会議は初回の冒頭以外、個別テーマを話し合う部会も含めて原則非公開で進められる。防衛問題とはいえ、密室のみの協議は許されない。有識者会議の提言をもとに、さらなる増額に踏み出せば、国民の安全保障に対する不信を広げるのではないか。
メンバーには、防衛装備関連最大手の三菱重工業のトップや自衛隊OBらが並んでおり、利益相反が疑われる。政府は国会で説明する必要がある。