「もう一回、フルで戦いたい」 身体の変化と眠れぬ育児から/宮里美香インタビュー(後編)

ママゴルファーとなってツアー復帰する宮里美香。育児との両立を目指して奮闘中(撮影/村上航)

宮里美香が“ママ”になってツアーに戻ってくる。かつて想像すらしなかった34歳の“いま”について語った前編に続き、後編は出産によって起きた体型の変化や育児に奮闘する日々、競技ゴルフを続ける決断への経緯を聞いた。(取材・構成/石井操)

「やること全部しんどい」

2022年12月に出産した4カ月後には、復帰に向けて活動を再開した。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の規定では、産休制度を利用できるのは出産日から36カ月間。シード選手として迎えた22年に産休に入った宮里は、当時の資格のままシードを保持することができた。

「規定では3年間も休めるけど、私は30歳を過ぎている。年齢的な部分もあるので産休をフルに使わずに、復帰するならできるだけ早めにと。出産後に家族と相談して復帰は1年半後に」と、早期の再スタートを心に決めていた。

まずは体づくりに注力(撮影/村上航)

まずは体を動かすことから。「トレーナーさんと『体を戻そう』と。やること全部しんどかったですね。基本的には動いているけど、実際に動画で見ると動けていない。体を戻さないとどうにもならない。ゴルフは後々だって」。1時間前後の筋力トレーニングの回数をこれまで以上に増やして、産休前の体に近づけた。

「まだ状態は戻っているわけではないけど、瞬発系のトレーニングを増やしたりしてだいぶキレは出てきたかな。人それぞれだと思うけど、私はずっと積み重ねてきたからか、やり始めたら体が覚えているというか。そこは大きいけど、体型の変化は大きい」

クラブを握り、愛しい息子を包む手でもある(撮影/村上航)

体が動くようになるにつれてクラブを握る回数も徐々に増やしていったものの、「フィーリングでは感じていなかったけど、実際に打つと『全然違う』というのはある。ラウンドしながら歩くのもすごく重たく感じる。なかなか速く振れないです」。出産を経て復帰する大変さが身に染みた。

もう一回フルシーズンで戦いたい

出産してしばらくは「息子が3、4時間おきに起きるからまともな睡眠は取れなかった」と、初めての育児に苦労する日々だった。「私は寝るのが好きなので大変だった。想像以上に忙しくて。今は落ち着いてきたけど、世の中のママって本当にすごい。前まではだらーんと過ごすこともできたけど、この1時間をどれだけうまく使えるか。そういう風に考えるようになりました」。これまで持てていた一人の時間が子ども中心になったことで、生活リズムも大きく変わった。

世の中のママたちに感心する日々(撮影/村上航)

結婚と出産を機に、競技の世界からフェードアウトする女性アスリートは少なくない。しかし、「けがとかしていたら『やめよう』となっていたかもしれないけど、やめる理由にはならなかった。あまりゴルフに対しての悩みもなくて。だから、やめようにもやめられなかった」と振り返る。

2018年までプレーした米ツアー時代に「モチベーションを一回落とした」としながらも気持ちを奮い起こし、初めて本格参戦した日本ツアー。19年に賞金ランキング34位に入ってシードを獲得し、「いざ2年目」と臨んだ20年は新型コロナウイルスが大流行。次々と試合が中止となり、21年シーズンとの統合という事態に見舞われた。

もう一回、ツアーでフルシーズンを戦いたい(撮影/村上航)

同シーズンはメルセデスランキング50位に入り、辛くもシードを確保した翌22年。宮里は、5月「ブリヂストンレディス」の出場を最後に産休に入った。「3シーズン目という時に妊娠が分かって。もう一回、ちゃんとフルでワンシーズンを戦ってみたいという気持ちになった」と回顧する。

2つ年上でレーシングドライバーの夫・中山友貴さんが同じアスリートであったことも、復帰へ前向きになれた理由だったという。「ジャンルは全然違うけど、デビュー年が同じでプロ歴は一緒。ほかのスポーツ選手に会うこと自体が刺激になるけど、向こうは命が関わるスポーツ。彼との出会いは私にとって本当に刺激が強くて、こういう世界があるんだってめっちゃ勉強しました。私は楽にやっていたかも、もっと真剣にやった方がいいのかなとも(笑)」

ゴルフと育児 両立できるかはこれから

今年に入って5日間のタイ合宿を行った。「息子とこんなに長く離れたのは初めて。泣くかなと思ったんですけど、大丈夫でした。まだ1歳だからというのもあるのかな。離れても問題はなさそうという予行練習はできた」。共働きを選択する上で、切り離せない問題にも向き合う必要がある。

「お互いに週末は試合という時もあるので、お母さんに預けたりもして。両立できるかはこれから始まる。どうなるかはちょっと分からないけど、それも楽しみにやらないと」。育児と仕事、不安がないわけではない。

「うまい具合に子どもの成長は見たい。(育児を)やりながら違う将来のビジョンも見えてくるかもしれない。解説とか、去年はプレー以外のゴルフの仕事をさせてもらう機会があった。そういう風にシフトしていかないといけないのかも、と思うときはあるけど、復帰するって決めたからには自分のゴルフがどこまで通用するかをもう一回見たい」

マイペースに。子供の成長も見守っていく(撮影/村上航)

復帰初戦は、29日(木)に開幕する「ダイキンオーキッドレディス」(沖縄・琉球GC)。故郷での再スタートはうれしさがある反面、緊張もあるという。「とりあえず体力が持つかが不安。ちゃんと試合を消化できるのかもあるけど、しっかり(出場8大会連続中の)予選通過は続けたい。優勝というのは一番上の目標だけど、そんな簡単ではないと思うし。まずは体が試合に慣れていければ。マイペースにできたらいいかな」

ゴルフ以外にも、家庭において新たな願望も生まれた。「正直、子どもはもう一人欲しい。年齢的なことを考えると40歳までにはというのがある。そこらへんがひとつ、自分の中の基準にはなるけれど」。母として、プロゴルファーとして。宮里美香の新章が、これから始まる。

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