【元受刑者に聞く】刑務所などで35の俗語がNGに…「ガリ」「ガラ」以外にはどんな言葉が使われている?

小泉龍司法相(写真・時事通信)

2月15日、法務省が受刑者の「呼び捨て」を4月から全面的に廃止し、名字に「さん」をつけた呼称を用いることを発表。賛否を呼んだばかりだが、小泉龍司法相は2月22日の閣議後記者会見で、刑務所の刑務官らが使っていた35の俗語や隠語について、廃止を指示したことを明らかにした。

「法務省によると、これまで刑務所などでは、散髪を指す『ガリ』や、食後の食器を下げる『空下げ』など、刑務官らが職員同士でしか通じない俗語が使われていました。

しかし、意味がわからない人との間で『コミュニケーション不全の原因となっている』『排他性を促進している』といった指摘があったことや、あっせん収賄罪で受刑経験がある鈴木宗男参院議員(無所属)が国会で『社会復帰させたいなら一般に使われている言葉を使うべきだ』と求めていました。

これらの指摘を受けて、『ガリ』や身柄を表す『ガラ』など、35の言葉は一般社会では使わない不適切な言葉だとして、2月9日付けで使用をやめるよう各施設に通知したそうです」(事件記者)

「ガリ」や「ガラ」以外に、35の言葉のなかに、どんなものがあるのかまでは公表されていないが、ほかにはどんな言葉が使われているのだろうか? 昨年まで甲信越地方の刑務所に服役していた元受刑者Aさんに聞いてみた。

「いろいろありますけど、受刑者としての生活がスタートすることを『アカオチ』、私語のことを『ペラ』、どんくさいヤツのことを『モタ』なんて言いますね。ほかには、懲役中に懲罰をくらって懲罰房に行かされることを『飛ぶ』とか『上がる』と表現するんですけど、使い方としては、誰かが懲罰をくらって懲罰房に行かされるとするじゃないですか。で、『あいつ、どうしたの?』って話になったときに『作業中にペラ回して上がったらしい』なんて使い方をします」

また、刑務所でのご飯は麦飯が基本だが、ご飯にまつわる言葉は多く、

銀シャリ(白い米)
甘シャリ(おしるこやぜんざいなど、甘いもの)
シャリ上げ(人の食べ物を取り上げること)
シャリ詰め(人に無理やり食べさせること)
もっそう(物相)麦飯を入れるプラスチック容器のこと
ばっかん(大人数のおかずが入れられる樽状の容器のこと)
割菜(わりさい。配食係が1人分ずつ、おかずをわけること)

などがある。ほかには見張りのことを「シキテン」と言うそうだが、受刑者が見張りをつけるときはどんなときなのだろうか?

「体を拭く行為は『シキシン(拭身)』と言うのですが、これは時間が決められているので、指定の時間外にシキシンをしたり、舎房の水道で頭を洗ったりするのは懲罰対象となる不正行為なんです。ほかにも不正行為はありますが、まだ中にいる仲間に迷惑がかかるので、ここでは控えます(笑)。とにかく、そういった不正を親父(刑務官)の目から隠すために、ほかの受刑者に『おまえ、テン切っといて』なんて言い方をするんです。これがシキテンです。

ほかだと、性犯罪や性犯罪者のことは『ピンク』、用を足すことを『用便』、消灯してからこっそり本を読むことを『闇本』と呼んだり。あと、手紙は『ガテ』、外部の人間に隠語混じりの手紙を送ったり、中の人間に工場でこっそりメモを渡したりすることを『ハト』と言ったりもしますね」(前同)

今後は、刑務所の刑務官らが使っていた35の言葉が禁止されるというが、Aさんがあげた言葉の中に該当する言葉はあるのだろうか?

「刑務官だけが使っている隠語に関しては、僕らにもわからない言葉があるかもしれません。一方で、受刑者側が刑務所の中で日常的に使っている言葉のなかには『反目』とか『チンコロ』とか、不良がシャバで普通に使っている言葉も多いんですよ。今回の禁止が刑務官側の隠語だけなら、35の俗語にどれが該当するかまではわかりません。

ただ、僕の立場でいえば、シャバで刑務所用語を普通に話す人間がいれば、『こいつ、刑務所にいたのかな』って察しはつきますよね。そういう意味で、鈴木宗男さんが言ってることもわかりますけど、逆にムショ用語に気付く人は、元受刑者か、それに近しい人間の可能性が高いわけですよ(笑)。だから、刑務官が隠語を使わなくなったとしても、中の受刑者は何も変わらないと思うんですけどね」(前同)

35の俗語NGで、はたして何かが変わるだろうか。

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