東京公開初日の満席に製作陣も驚き HTB初製作のドキュメンタリー映画 上白石萌音のナレーションに子どもたちも笑顔

HTB北海道テレビ放送が製作した開局55周年記念映画『奇跡の子 夢野に舞う』が2月23日から東京で初上映となった。

1月の北海道先行公開では札幌の劇場で満席が続いたものの、「ドキュメンタリー映画の世界はそれほど甘くない」と思っていた製作陣。

だが、劇場で目にしたのは300席以上の満席だった。

舞台挨拶に立った沼田博光監督は万感の思いでこの日を迎えたー。

それは、公開初日の2日前だった

2月21日午前。

「奇跡の子 夢野に舞う」のプロデューサーである私は、2日後に控える東京での公開初日を前にPRなどの準備を進めていた。

その9時間前、深夜0時から劇場のウェブサイトでインターネットでのチケット購入が始まっていた。

「チケットの売れ行きが良いらしいよ」

出勤してそう耳にした私は早速、インターネットで席を確認した。

示された表示には、もう8割ほどの席が埋まっていた…。

東京・銀座の丸の内TOEIのスクリーン2は一般席で350席がある。

東映の本社に位置する由緒正しい老舗の劇場で、広く映画ファンに親しまれている。

そもそもハードルの高いドキュメンタリー映画の世界で、公開初日とは言え、この劇場にどれくらいのお客さんが来てくれるかはわからない。

広く声をかけてPRしているので、何とか半分以上が埋まってくれれば良いが…。

そう思っていた矢先の嬉しい知らせだった。

緊張が少し和らいだ。

そして数時間後、ふたたび劇場のウェブサイトを確認した。

目を疑った。

「満席」

ウェブサイトではもうすでに初日のチケットが買えない状態になっていた。

ラストシーンを求めていたー

2日後。迎えた公開初日。

上映を前に控え室で打ち合わせを行なった沼田監督は気もそぞろな様子だった。どことなく顔も紅潮している。

いよいよ、その時がやってきた。

上映後、舞台に上がった沼田監督は満場の拍手で迎え入れられた。

2015年から取材を始め、7年にわたりカメラマンらとともにコツコツと撮影を続けてきた。

ローカルテレビ局が映画を製作し、集客で成功するのはごく一部なのが現状だ。

映画製作が決まるまでに社内を説得すること1年。

さらに様々な交渉と紆余曲折を経て、ようやく完成にこぎつけ、ここまで来た。

とは言え、硬派なラインナップが居並ぶ、競争が激しいドキュメンタリー映画の世界。

東京の集客はずっと気にかかっていた。

目の間に広がる光景を前に、沼田監督とともに私も万感の思いだった。

会場では沼田監督から作品の裏話が語られた。ここでは詳細を伏せるが、田んぼに響く1カットの「音」にすら、長沼町が起こした奇跡の原石があったことを明かした。

また、ラストカットは映画の編集が始まってからも、ずっと狙っていたことが語られた。

「あのシーンが撮れて、ようやく、完成できると思った」

沼田監督はそう語った。

上映後のトークゲストとして登壇したのは、沼田監督と取材を通して20年来の付き合いがある猛禽類医学研究所代表で獣医師の齊藤慶輔氏だった。

札幌や釧路でもトークイベントを重ねた2人。

2人の軽妙なトークに会場が沸く。

北海道の野生生物に目を向けてきた2人だからこそ、その話の説得力にはこれまで積み重ねてきた実績が伴っていた。

世界初の快挙と「共生」の課題

この作品では、北海道の長沼町を舞台に、治水対策の遊水地を自然豊かな湿地に変え、道東にしか生息しなかったタンチョウを町に飛来させることに成功するまでの様々なトラブルや農家の葛藤が描かれている。

タンチョウが生息していない地域で、人工的に造られた施設にタンチョウが生息して繁殖したという事例は、世界初の快挙と言われる。

これを映像に記録した本作品に対し、環境省は17年ぶりに映画作品に対して「推薦」を出した。

齊藤氏は長沼町の取り組みの意義を語る。

「この奇跡は1つの雫だ。これが波紋のように広がるのを期待する。長沼町に落とした雫の波紋が周囲の市町村にも広がり、タンチョウの生息地が広がれば、その土地に住む皆さんが豊かな自然環境を保全して野生生物とともに生きることにつながるはずだ」

作品を見た観客からは、自然環境を豊かにしながらも自分たちの故郷をより良いものにしていこうという長沼町の農家の姿勢に賞賛の声があがった。

ナレーションを担当した俳優・上白石萌音はこう話す。

「北海道の大自然の美しさはもちろん、人と動物が土地を分け合う、共生するというのはどういう事なのかという大切なテーマが、ありのままに映っている。私自身もとても勉強になった」

作中、ドキュメンタリー映画では意外なスパイスがナレーションとして含まれている。

その表現について彼女は「北海道の人のおおらかなイメージを意識した」と、はにかんだ。

上映後、小学生ぐらいの子供たちに話を聞くと「あの(シーンの)ナレーションが面白かった!」と笑って話してくれた。

そうした遊び心の要素もこの作品の見どころの一つとなっている。

「奇跡の物語の裏に実は何があったのか。野生と共生するためのきれいごとではない課題を感じ取ってもらえたら」と沼田監督は話す。

人と野生生物は共生し得るのか。

この作品は問う。

作品の終盤。

主人公はある選択をする。

その選択に、あなたは何を思うのか。

それは、劇場で見て考えてほしい。

(文:「奇跡の子 夢野に舞う」統括プロデューサー 坂本 英樹)

奇跡の子 夢野に舞う

公式ウェブサイト:https://www.htb.co.jp/kisekinoko

上映館

◆2月23日(金・祝)~ 東京・丸の内TOEI

◆2月24日(土)~ 苫小牧 シネマ・トーラス

ースタッフーー
ナレーション:上白石萌音
監督:沼田博光
統括プロデューサー:坂本英樹
プロデューサー:四宮康雅 堀江克則
撮影:小山康範 石田優行
編集:上田佑樹
音楽:中村幸代
音楽制作:中脇雅裕
宣伝プロデューサー:泉谷 裕
製作・配給:北海道テレビ放送
宣伝・配給協力:東映エージエンシー

カラー / 5.1ch / 16:9 /1時間37分

令和5年度 文部科学省選定「少年向き」「青年向き」「成人向き」
環境省「推薦」
文化庁文化芸術振興費補助金 (映画創造活動支援事業)
札幌市映像制作補助金

沼田監督のこぼれ話【幕間のつぶやき】シリーズの過去記事をご覧いただけます。

https://sodane.hokkaido.jp/author/000493.html

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