<社説>クリントン氏指名へ 格差是正の政策を競え

 米大統領選の民主党候補者選びで、クリントン前国務長官が勝利宣言をした。共和党の指名が確定している実業家トランプ氏との対決の構図が固まった。 初の女性大統領が誕生するか否かの節目だというのに、驚くほど熱気が乏しい。今回の米大統領選が「底辺への競争」であるからだろう。どちらが「より嫌われていないか」を競う、不毛の争いという意味である。

 政治に対する国民の不信が極まっている。国民の信頼を取り戻せるか。その意味でまさに米国政治は岐路に立っている。

 政治不信の起源を考えてみたい。クリントン氏への非難は、最近は専ら私用メール問題に集中するが、そもそも人気が低落傾向となった背景には政治エリートへの反発がある。候補者選びで猛追したサンダース氏は単に大学の無償化を掲げただけではない。金融界の「強欲資本主義」を厳しく非難する姿勢に支持が広がったのである。

 一握りの富裕層がより富を独占する一方、若者は高過ぎる学費に苦しみ、卒業後も不安定な非正規雇用が広がるなど、先の見えない閉塞(へいそく)感にもがいている。その不公正な社会の仕組みへのいら立ちが、エリートとは対極の社会民主主義者に支持を向かわせているのだ。

 その意味ではトランプ氏も同様である。米国有数の資産家だが、彼を支持するのは「プアホワイト」と呼ばれる低所得の白人層が主体だ。貿易の結果、国内産業が衰退し、移民も増えたことで自分たちの職が奪われたと考える人たちだ。

 共和党の候補者選びでも旧来の政治エリートは伸び悩んだ。既得権益の擁護者と見なされたのだ。1980年代以降の共和党の政策が否定されたとも言っていい。レーガノミクス、すなわち新自由主義経済は「トリクルダウン」、つまり富裕層をより富ませれば、貧しい者にもおこぼれがあると説いた。

 だが近年はそれが否定されつつある。新自由主義は富む者をより富ませるだけで、おこぼれなど生じず、格差は第2次大戦後最大級に開いている。この格差社会の広がりと、それに対する反発が両党の選挙戦の底流に流れているのである。

 両党の候補者に望みたいのは、その格差社会是正のための政策を競うことだ。正しい処方箋は世界史的な価値を持とう。そしてそれはまた、日本の政治不信克服の道標ともなるだろう。

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