タミル語映画界のスター俳優アジット・クマールってどんな人?男くさ~いアクション・ラブコメ『兄貴の嫁取物語』TV初放送

『兄貴の嫁取物語』© Vijaya Productions Pvt. Ltd.

5人兄弟の体育会系ワイルド田舎ライフ

タミル語映画界のスーパースターの一人であるアジット・クマールが主演したアクション・コメディ『兄貴の嫁取物語』(2014年)をご紹介します。

舞台はタミルナードゥ州中西部のティンドゥッカル(ディンディガル)地方。小さな村に住む5人の兄弟は、アジット演じる長男のビナーヤガを家長として私企業を経営する家のメンバーです。ビナーヤガは公正明大で、不正をはたらく者がいると鉄拳で制裁する硬骨漢。それに倣って腕っぷしを磨くことに余念のない弟たちもあわせて男5人だけの家庭は、自然と体育会的雰囲気に。ビナーヤガは軟派な色恋沙汰など視野になく、実はそれぞれに秘密の恋人がいる弟たちはそれを言い出せずにいます。

彼らが考えたのは、とびきり魅力的な女性と引き合わせ、兄を先に結婚させるという作戦。天の配剤のようにそこに現れたのは、村にある寺の美術品を修復するためにやってきたコーペルンデヴィという女性。朴念仁のビナーヤガは彼女を前にしても動じませんでしたが、時間がたつにつれて二人の関係は徐々に深まっていき、ついに相思相愛の仲に。しかし、コーペルンデヴィの父に結婚の許可をもらうために列車で出かける二人に、謎の刺客たちが迫ります。ここからストーリーは、だんだんとハードなアクションに移り変わっていきます。

アジット・クマールってどんな人?

主演のアジット・クマールは、1971年生まれの52歳(本作公開時には42歳)。以前に『ビギル 勝利のホイッスル』(2019年)で紹介したヴィジャイよりも3歳ほど年上ですが、ほぼ同世代で、どちらも1990年代前半にデビューし、後半にブレイク、そして2000年代からは押しも押されぬ大スターとしてしのぎを削ってきました。

現在のタミル語映画界には、別格の大御所としてラジニカーントとカマル・ハーサンという二大巨頭がおり、それを追う40~50代の働き盛りのスーパースターたちがいます。スーリヤやヴィクラムなども含むこの先頭集団の中で、アジットとヴィジャイは特別なライバル関係にあると周囲からみなされ、現地のファンたちもお互いを激しく意識し合っています。

二人ともデビューからしばらくはロマンス映画に主に出演していましたが、2000年代に入り、南インド映画全体がアクション指向に転回するのに合わせてアクション中心になったのも似ています。ヴィジャイの冠タイトルが「タラパティ(司令官)」であるのに対して、アジットのそれは「タラ(お頭)」です。しかし類似点はそこまでで、それ以外では対照的な芸風を築いてきました。

ヴィジャイの方は、長身・やせ形の体に現在49歳とは信じられない童顔のコンビネーションが年齢不詳でユニーク。一方アジットは、デビュー前にはモデルをしていたほどの、1990年代型の若干クシャっとしたところもある甘いマスクで出発しましたが、アクション作品の比重が増えるに従い、マッチョな魅力を前面に押し出すように変わってきました。

俳優業と並行してカーレーサーとしてF2などに出場を続けたこともそのイメージを補強しました。そして2011年、40代に入った年からは白髪交じりの髪をチャームポイントとするようになり、またアクションのキレはそのままに、どっしりとした中年体型を打ち出すようになりました。

アジットとシヴァ監督の信頼の絆

こうしたロマンスグレー路線を確立しつつあったアジットが、新進のシヴァ監督と2014年に初めて手を組んで興行的にも成功したのが、この『兄貴の嫁取物語』でした。マッチョな万年シングルが徐々に恋に目覚めるおかしさと、ウルトラハードなアクションとを巧みに同居させた本作がよほど気に入ったのか、アジットは本作から2019年の『永遠の絆』までの5年間の間に、シヴァ監督と4本ものコラボレーションをしています。

現地ではポンガルと呼ばれる収穫祭のシーズン(1月中旬)に封切られた祝祭映画である本作。社会問題への張り詰めた意識などは一旦脇に置いて、幾重にも繰りだされるコメディとアジットの男っぷりを存分に楽しんでいただきたい一作です。

文:安宅直子

『兄貴の嫁取物語』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2024年2月放送

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