2024年3月16日(土) いよいよ延伸! 北陸新幹線の“開業のウラ側”をインタビュー

北陸新幹線の金沢~敦賀間がついに開業! JR西日本 金沢支社のお二人が語る開業に関わるお仕事内容とは……?

北陸新幹線の金沢~敦賀間がいよいよ開業。首都圏と福井県が直結するほか、京阪神や中部地方から北陸の各都市へもスムーズに移動できるようになります。開業に向けた準備は実にさまざまですが、そんな準備に携わる方々にインタビューし、ダイヤの工夫や新たに開業する駅の魅力などを語っていただきました。

『JR時刻表』×トレたび 連動企画です。

列車の運転に欠かせない「車両運用計画」とは?

北陸新幹線をはじめ、全ての列車はあらかじめ作成されたダイヤに従って走ります。このダイヤは、列車の速度や加速・減速の性能、駅間の距離などをもとに作られますが、それとともに重要なのが、「どの車両を使うか」というものです。

「たとえば、敦賀駅を9時58分に発車する〔はくたか560号〕という列車がありますが、この列車は敦賀駅近くの車両基地にいる車両を使うのか、9時25分に敦賀駅へ到着した〔つるぎ11号〕の車両を使うのか、あるいはもっと別の車両を使うのかということを、あらかじめ決めておく必要があります。これを『車両運用計画』と言います」
そう教えてくれたのは、JR西日本 金沢支社 新幹線運輸課の福間健太さん。福間さんは、この車両運用計画の作成業務を担当しています。


新幹線運輸課の福間健太さん

「列車の時刻は、『この時間に着きたい』というお客さまのご要望や『この時間帯はご利用が多い』という混雑度などをもとに決めていきますが、そのタイミングで使用できる車両がなければ列車を走らせることはできません。また、列車を安全かつ快適にご利用いただくためには、車両検査のタイミングや車内清掃の時間なども考慮する必要があります。車両運用を計画する際には、1本の列車を線として追うのではなく、どこにどの車両がいるかを面として広く見渡し、最適な答えを導き出すようにしています」

こうしてできあがった車両運用計画やダイヤグラムには、さまざまな思いが込められており、各列車の時刻や停車駅にも、それが表れています。
「JR西日本では、北陸新幹線が開業することで『地域にどう貢献できるか』や『当社の事業としてどうあるべきか』を考え、ダイヤに反映しています。〔かがやき〕や〔はくたか〕の停車駅もその一つで、ビジネスや観光でご利用になるお客さまの利便性を確保できるようにしました。たとえば、加賀温泉駅や芦原温泉駅は首都圏からの観光に便利なよう、午前中に首都圏を出発した人が観光してから宿に入り、翌日も宿を出て観光した後に首都圏へお帰りいただけるような時間に〔かがやき〕を停車させています」


実際に使用されたダイヤグラム

一方で、北陸新幹線には関西エリアや中部エリアと北陸の移動をスムーズにするという役割もあります。
「〔つるぎ〕は、大阪からの特急〔サンダーバード〕や名古屋からの特急〔しらさぎ〕と、敦賀駅で接続するダイヤとしています。〔サンダーバード〕や〔しらさぎ〕が遅れた場合、〔つるぎ〕も遅れて敦賀駅を発車する可能性がありますが、そんな場合でも、そのあとに折り返し敦賀駅へ向かう〔つるぎ〕が遅れないよう、車両運用を工夫しています」

車両をより快適な状態に維持する「車両特別清掃」

福間さんが担当している業務にはもう一つ、「車両特別清掃の計画作成」というものがあります。
「通常、列車は終着駅や車両基地で車内清掃を行ったり、車体の汚れを洗浄したりしますが、これでは対応できない汚れを落とすのが『車両特別清掃』です。車両特別清掃を行う際には、作業時間を確保するために、車両を使う順番を変えたり車両基地にいる予備の編成を使用したりするなど、車両運用を変更することもあります。延伸開業後は車両の数も増えることから、特別清掃を行う回数も必然的に増加させる必要がありますので、特別清掃の体制や施工タイミングを見直すなど、お客さまに新幹線を快適にご利用いただけるよう当社グループ一丸となって取り組んでいます」


北陸新幹線 車両特別清掃の様子(写真提供=JR西日本)

既存区間もダイヤ調整でより便利に

金沢~敦賀間開業によって、北陸エリアと首都圏・中京圏・関西圏をスムーズにつなぐ存在となる北陸新幹線。新たな開業区間だけに目がいきがちですが、今回のダイヤ改正では既存区間のダイヤも改良が図られています。
「たとえば、朝の東京行き〔はくたか〕はこれまで長野駅で後続の〔かがやき〕を待ち合わせしていたものがありましたが、改正後は東京駅まで先着するようにしました。これにより、北陸エリアから首都圏へ乗り換えることなくご旅行ができます」

ちなみに、開業区間では9月23日に試験車両が初めて走行し、9月26日にはW7系を使った試験走行が始まりましたが、これらの試運転ダイヤも福間さんが携わったそう。
「新幹線初入線の際、沿線でたくさんの人々が出迎えてくださったのを見て、みなさまのご期待の大きさを実感しました」

延伸区間の施設は“JRの持ち物”ではない!?

ところで、今回の北陸新幹線の開業区間は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」)が高架橋や駅などの施設を建設し、開業後も資産として保有。JR西日本は鉄道・運輸機構から施設を借り受けて管理・運営するという形が採られます。そのため、JRが施設に機器を設置したり開業の準備をしたりする際には、鉄道・運輸機構とさまざまな調整が必要に。それを担当しているのが、JR西日本 金沢支社 地域共生室 北陸新幹線敦賀延伸準備課の尾上忠正さんです。


地域共生室 北陸新幹線敦賀延伸準備課の尾上忠正さん

「鉄道・運輸機構の所有物である駅の中には、当社だけではなく、地元自治体が機器を設置する場合もあります。たとえば、敦賀駅の在来線ホームと新幹線改札口をつなぐ連絡通路には“動く歩道”が設置されていますが、こちらは福井県が設置し、資産として保有するものです。また、既に開業している金沢駅や今回開業する小松駅では、地元自治体の保有する伝統工芸品などが展示されています。これらを設置する際、自治体と鉄道・運輸機構の間に入って調整するのも私たちの仕事です」

ちなみに、現在は鉄道・運輸機構の建設工事が完了しており、昨年12月10日から施設の管理がJRに引き継がれていますが、それ以前はJRが施設のチェックや開業に向けた準備をする場合でも、鉄道・運輸機構に許可を得て立ち入る必要があったそうです。


敦賀駅外観。既存の在来線こ線橋と、新設された“動く歩道”を持つ連絡橋がつながっている(写真提供=JR西日本)

「誰が・どの施設を保有するか」の“調整役”

尾上さんが手掛ける業務としてもう一つ、「施設譲渡の協議」があります。
「もともと北陸本線は国鉄が建設・運営し、分割民営化後はJR西日本とJR貨物が施設を保有・使用してきました。今回、北陸新幹線が建設されたことで、そうした敷地の中に鉄道・運輸機構の資産を設置する、あるいは建設に際してJRの資産を移設するといったことが起こっています。また、開業後は北陸本線の並行在来線区間を第三セクター会社が運営するため、一部の施設を移管する必要もあります。そこで、開業後にどの施設を誰が保有・管理するかという調整を行っています」

これに類する業務としてあげられるのは、西松任(にしまっとう)駅の建設に伴う調整です。
「西松任駅は北陸本線の加賀笠間~松任間に設置される新駅ですが、JR西日本としては営業を行わず、国や地元自治体などが建設費用を負担して、3月16日にIRいしかわ鉄道の駅として開業します。ただし、それまではJRがすぐ横で列車を走らせていますから、IRいしかわ鉄道や自治体が駅を建設することはできません。そこで、自治体から依頼を受けてJRが駅を建設し、自治体へと引き渡した後にIRいしかわ鉄道が使用するという形になります。JRとしては、自社駅として1日も営業しない駅を造るわけで、珍しいケースといえるかもしれません」


西松任駅のイメージ図(画像=IRいしかわ鉄道提供)

調整役、と聞くと大変そうなイメージがありますが、尾上さんによると「それほど苦労した印象はない」そうです。
「『沿線の方々に喜んでもらいたい』『お客さまがより使いやすい施設にしたい』という点では、関係者全員が同じ方を向いて進んでいますので。ただ、関係する人が多く、説明や承認に時間がかかることが多いので、スケジュール管理には気を遣いました」

ちなみに、尾上さんは北陸新幹線の長野~金沢間が開業した際、駅の設備やオペレーションの計画に携わっていたとのこと。
「その開業日は事務所での業務だったため、駅での盛り上がりを見ることができなかったのですが、金沢~敦賀間開業に向けた2023年10月1日の試験走行記念イベントでは敦賀駅で皆さんの喜ぶ姿を見ることができ、感動しました。3月16日の開業日も、どこかの駅で盛り上がりの様子を見られたらいいなあと思っています」

お二人以外にもさまざまな人が携わり、長い年月をかけて準備を進めてきた金沢~敦賀間開業。最後に「開業後にぜひ見てほしいポイントは?」と伺ったところ、偶然にもお二人の答えが福井~芦原温泉間に架かる「新九頭竜橋」で揃いました。
「日本で初めての『新幹線と道路の併用橋』ですので、これまでの新幹線とは違った景色が楽しめます。他にも、試運転を担当した運転士から『敦賀行き列車で新北陸トンネルを出た後の、敦賀の街並みが美しい』とも聞いていますので、ぜひ見てみてください」(福間さん)
「各駅のデザインも、地元の文化を盛り込んだ風情あるものになっていますので、できれば各駅で降りてゆっくり味わってほしいです」(尾上さん)


金沢~敦賀間で唯一、既存駅に併設しない形で新設された越前たけふ駅。外観には越前瓦が使用されている(写真提供=JR西日本)


「これまで北陸を遠く感じておられた方も、近くなった北陸にぜひお越しください‼」

北陸への距離をぐっと近くしてくれるだけでなく、これまでと違う新たな風景を私たちに見せてくれる、北陸新幹線の金沢~敦賀間。多くの人が待ちわびたその開業まで、あとわずかです。

皆さんもぜひ乗車し、各駅のこだわりや沿線の魅力に触れてみてはいかがですか?


著者紹介

伊原 薫

大阪生まれ・大阪育ちの鉄道ライター。『鉄道ダイヤ情報』をはじめとする鉄道雑誌や『JR時刻表』、旅行雑誌やwebメディアなどで執筆するかたわら、テレビ番組出演やイベント・トークショーでの講演、公共交通と街づくりに関するコンサルティングなど幅広く活躍する。生まれた時からの鉄道好きで、乗り鉄・撮り鉄・模型鉄・呑み鉄……と鉄道のさまざまな楽しみ方を知ってもらうべく奮闘中。

『JR時刻表』2024年3月号 巻頭特集「北陸新幹線 金沢~敦賀間開業!」もあわせてチェック!


JR時刻表2024年3月号

3月16日(土)JRグループダイヤ改正号!

今月号は3月16日に実施されるJRグループのダイヤ改正にあわせ、ダイヤ改正後の全時刻を掲載しているほか、巻頭カラーページ「JRグループダイヤ改正トピックス」では、改正の主なトピックスを紹介しています。
また、巻頭特集は「新幹線が北陸を結ぶ 北陸新幹線 金沢~敦賀間開業!」をお届けします。敦賀まで延伸する北陸新幹線のダイヤや新規開業駅などの魅力について、開発に携わる方々に取材しました。
好評連載中のリレーエッセイ「十人十鉄~だから、鉄道が好き」には、芸人の友近さんが登場します。

【JR時刻表とは】
JR線の全線全駅を掲載。主要駅の構内図、私鉄、国内線航空ダイヤも収録。駅の旅行センター・みどりの窓口でも使われている時刻表です。
見やすい2色刷り/JR6社共同編集/JR6社の主要ニュースを掲載

●本記事はJR時刻表2024年3月号との共同企画です。


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  • ※取材・文・撮影=伊原 薫
  • ※掲載されているデータは2024年2月1日現在のものです。

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