ティモシー・シャラメとジョニー・デップ、まるで別人な2人の“ウォンカ”徹底比較!

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ティモシー・シャラメ主演の映画、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。原作となった児童書『チョコレート工場の秘密(Charlie and the Chocolate Factory)』に登場する天才ショコラティエ、ウィリー・ウォンカの“前日譚”を描く物語だ。ウォンカといえば、原作を同じくする映画『チャーリーとチョコレート工場』のジョニー・デップが演じる姿が目に浮かぶ人も多いのでは? 実は、ティモシーが演じたウォンカとジョニーが演じたウォンカは“別人”といってもいい。本コラムでは、2人のウォンカを深掘り比較し、それぞれの魅力について再確認していきたい。

本作は、ティモシー・シャラメ主演で贈る、歌と魔法と感動のファンタジー超大作。夢見ることを禁じられた町で、亡き母と夢見た世界一のチョコレート店を作ろうと奮闘するウォンカの姿を描く。

原作小説はこれまで何度か映画化されてきたが、その中でも日本でよく知られているのは前述した2005年公開の『チャーリーとチョコレート工場』(以下『チャリチョコ』)。しかし、ティモシー演じるウォンカが、この『チャリチョコ』のウォンカの若かりし頃だと思って観ると、「あれ、こんな人だっけ」と戸惑う人も多いのではないだろうか。筆者自身、子どもの頃に『チャリチョコ』を何度も見た世代なので、ティモシー・ウォンカにはいろいろな意味で驚かされた。実はティモシーはこの『チャリチョコ』の過去ではなく、あくまで原作に登場するウォンカの過去なのだ。とはいえ、2作品に登場するウォンカはどちらも非常に魅力的。ここからは、私たちを魅了する2人のウォンカについて比較しながら紐解いていこう。

■そもそも“チョコ職人になった理由”が正反対!

『チャリチョコ』のウォンカは、歯医者の父からお菓子を厳しく禁じられていた。あるハロウィンの日、幼きウォンカがもらったお菓子を父は無情にも暖炉に放り込むが、ウォンカはチョコレートが1つだけ燃え残っているのを見つける。それが、ウォンカとチョコとの出会いだった。大人になってからも、ウォンカは「家族」の愛がなかなか理解できずつらい思い出として時折フラッシュバックする。ウォンカにとってショコラティエになることは、父への反抗だったのだ。

一方で、今作でのウォンカがショコラティエとなる理由は「母との夢を叶えるため」。『チャリチョコ』とは正反対といってもいい。貧しい中で母が作ってくれたチョコの味に感動したウォンカは、自身でもチョコを学び、母と夢見た自分たちの店を持つことを目指して都会へとやってくる。母は彼が幼い頃に亡くなってしまうが、彼女が作った最後のチョコをウォンカはずっと大切に持っていて、夢を叶えた時きっと再び母に会えると信じている。大人にしてはかなり無邪気であるという部分については『チャリチョコ』版ウォンカと一致するが、今作のウォンカにとってチョコレートは家族の絆を意味するものだ。

■どちらもカリスマで天才、でも“性格”は全く違う2人のウォンカ

チョコレートの持つ意味が大きく異なる『チャーリーとチョコレート工場』と『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』だが、そのせいか2人のウォンカの性格や考え方に至るまでまるで違うことにも驚かされる。

『チャリチョコ』ウォンカは、ティム・バートン監督のテイストも相まって、陽気な仮面の裏にどことなく冷たさや狂気を携えていた印象だった。子どもたちをチョコレート工場に招いておきながら、子ども嫌いがにじみ出てしまっているような…世間からの評価は得たいと願うが分かり合うことを諦めているような寂しさも感じた。主人公・チャーリーと出会うまでのウォンカは「孤高」、しかし「孤独」な男に見え、その二面性が醸す人間性に惹かれる。

一方、母の愛を知っている本作のウォンカは、どこまでも明るく優しく希望にあふれ、人を信じることが大得意なお人好しという印象。都会に出てきた途端になけなしの金をむしり取られて初日から野宿を強いられることになっても、騙されて超ブラックな労働環境に放り込まれても、軽くため息をついて次の希望へと歩み出す。ついでに自分に関わる人々もまとめて幸せにすることを当然だと思っているような節がある。商売人として必要な狡猾さこそ皆無だが、コミュニケーション能力に関してはティモシー演じるウォンカに軍配が上がるだろう。

2人のウォンカに共通するマインドもある。それは、自身の作るチョコレートへの絶対的な自信だ。いつの時代でも、ウォンカは自身のチョコが最高品質であり誰しもを魅了できることを信じている。そんなチョコレートの夢溢れる描写にも2作品には違いがあり、『チャリチョコ』ではティム・バートン監督らしいサイケデリックな色彩と、少々残酷な表現もちらつきながら、夢の詰まったチョコレート工場という異世界が表現されていた。一方本作では、美しいヨーロッパの街並みの中にウォンカが降り立つことで、現実世界に魔法がかかっていくようにきらめきだす。ティモシー演じる純真なウォンカにぴったりな美しい世界観は、「ハリー・ポッター」シリーズを手掛けたチームが作り出しているという。

■一度“食べ”たら忘れられない2作品、じっくり見比べたい

2作品のウォンカを比較してきたが、共通して言えるのは2人ともものすごく魅力的なキャラクターであるということだ。彼が作るチョコレートと同じように一度味わえばその魅力に取りつかれ、何度も見たくなってしまう。個人的には、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のラストに近いとあるシーンで『チャリチョコ』のチャーリーを思わせる描写があったことに思わずグッと来た。2作品は別の世界線でありながら原作を共にする、いわば兄弟作品であることを思い出させてくれた。

本作ならではの魅力という意味では、ミュージカルシーンも必見。『チャリチョコ』でも多くの劇中歌が登場するもののウォンカ自ら歌うことはなかったが、ティモシー・ウォンカは、歌うし踊る。日本語吹替を担当したDa‐iCE・花村想太の澄んだ歌声も、しなやかなティモシーのダンスにマッチしている。字幕版・吹替版それぞれで楽しみたい。その他、『チョコレート工場』にはかかせないウンパ・ルンパや、ウォンカを取り巻く人々にコミカルな悪役たちも見逃せない。2つの『チョコレート工場』を見比べて、そのチョコレートの魔法にどっぷりと浸かってみてはいかがだろうか。(文:小島萌寧)

映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はデジタル配信中。

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