『離婚しない男』『金曜日の妻たちへ』『昼顔』 不倫とドラマの切っても切れない関係性

ひょんなことから妻・綾香(篠田麻里子)の不倫現場を目撃したことをきっかけに、その証拠を掴み、娘の親権を取って離婚しようと奮闘する渉(伊藤淳史)の姿を描いている『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』(テレビ朝日系)。本作の登場人物のほとんどが強烈キャラすぎて、コメディドラマのような気持ちで観ていたが、第5話では綾香の浮気相手であるマサト(小池徹平)が渉に対して個人的な恨みを持っていることが判明。しかも渉は隣の部屋に引っ越して来たナオミに翻弄され、あれよあれよという間になんだか浮気寸前までいきそうだ。だんだん、笑いが引っ込んでしまいそうな怒涛の展開を迎えている。

そもそも「不倫」という言葉は倫理から外れたこと、つまり、人が従うべきルールを守ることができなかったことを意味していて、最初はそこに恋愛や結婚を感じさせる意味はなかった。それが最近のように、既婚者がその相手以外の人と恋愛することを指すようになった理由として、この言葉がドラマ『金曜日の妻たちへ』(1983年/TBS系)をきっかけに世間に広まったためという説がある。それくらい「不倫」とドラマの関係は深いのだ。だから、一言に“不倫ドラマ”といってもいろいろな作品がある。

男女のドロドロ愛憎劇をめいっぱい浴びたい時は、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(2014年/フジテレビ系)がおすすめだ。主人公の紗和(上戸彩)とその不倫相手である高校の生物教師・北野(斎藤工)は、してはいけないことと分かっているのに、互いに惹かれあってしまい、周囲や自分のことも傷つけながら、その泥沼のような恋愛から抜け出せないでいる。しかも紗和の気持ちは、次第に本気の恋愛へと変化していってしまうのだ。

紗和を演じた上戸彩の熱演はもちろんなのだが、この作品をさらにドロドロとしたものにしているのが、“不倫を嫌がる女たち”。代表的なのが紗和の義母である慶子(高畑淳子)と北野の妻である乃里子(伊藤歩)だ。慶子は、息子夫婦になかなか子供ができないのは紗和のせいだと決めつけ、彼女に「色気がない」などと言うが、紗和の不倫にはいち早く気がついた。乃里子も夫に自分とは別の相手がいることに早々に感づいていた。彼女たちはなぜそんなに早く相手の不倫に気がつくことができたのか。それはおそらく彼女たち自身が「不倫された側」や「不倫した側」、つまり経験者だからだ。慶子は夫が会社の部下と不倫したことをずっと根に持っており、乃里子は以前、奥さんがいる人を好きになったことがあった。一度ハマったら抜け出せない様子がこんなところからも襲ってくるのである。

「不倫は特別な人がするものだ。自分にはあまり関係がない」と思っているなら、コメディチックな『じゃない方の彼女』(2021年/テレビ東京系)がいいかもしれない。大学で准教授をしている雅也(濱田岳)は、才色を備えた妻・麗(小西真奈美)と利発な娘に恵まれてはいたが、自身は可もなく不可もない、普通の人生、つまり特別「じゃない方」の人生を送っていると感じていた。

そんな彼はある日、ひょんなことから自分が務める大学に通う大学生の怜子(山下美月)と出会う。怜子は天然の魔性系女子で、何度も同じ場所で会う雅也に「偶然が3回続くと奇跡が起こるらしいですよ」などと迫って距離を詰めてきた。次第に普通で、特別「じゃない方」の雅也は、怜子と特別な恋、すなわち、「特別『じゃない方』じゃない」恋ができるチャンスに心惹かれていくようになる。でも、普通「じゃない方」というのは、やっぱり危険もあるわけで、麗は夫の様子がおかしいことに気づいていくのだった。雅也を演じる濱田岳が、気弱そうに見えてたまに大胆でドキドキしてしまう。不倫をしてしまったとき、人は「出来心で」なんて言う時があるが、その裏にはこうした「ちょっと特別感がほしい」というような思いが隠されてるのかもしれない。さて、本当に「自分にはあまり関係がない」のだろうか? いつの間にかそんなことを考えてしまう。

最近のニュースを見ると、なんだか不倫をしたら即終了、離婚待ったなしのようなイメージを持ってしまうが、だからこそ見たいのが『あなたがしてくれなくても』(2023年/フジテレビ系)である。主人公のみち(奈緒)は、長年、夫とセックスレス状態にあった。なかなかそれを解消することができず落ち込むみちだったが、ひょんなことから「奥様思い」で知られていた先輩社員の誠(岩田剛典)もセックスレスに陥っていることを知り、以降、2人はセックスレスについて話すちょっと不思議な間柄になる。誠はみちと一線を越えようとするが、寸前でみちが夫のことを思い出したり、誠の妻である楓(田中みな実)が夫婦関係を改善しようと夕飯を作るようになった姿を見て、誠が楓を抱きしめたりと誠とみちの関係が深まっていくと、2組の夫婦の関係がちょっと良い方へ動くことがある。この作品は、夫婦関係はルールがある0か100かのはっきりしたものではなく、とても複雑で繊細なものであるということを教えてくれるのだ。

「不倫」は、決して褒められた行為ではない。だが、ここに紹介した以外にも今までに「不倫」を題材にたくさんのドラマが作られてきているということは、悲しいかな、それだけ「不倫」が多くの人の関心を集め、心を揺さぶるものだということだ。これをきっかけに何かひとつ“不倫ドラマ”を見てみてはどうだろうか。

(文=久保田ひかる)

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