ハワイやグアムが「高嶺の花」に…日本経済の衰退で「国内旅行がやっと」になった日本人

世界的なインフレによる物価高騰、それに拍車をかける円安、いくら働いても上がらない給料…日本人が海外旅行に行くハードルは大きく上がっています。本記事では、山田順氏の著書『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)より、海外旅行と日本経済の関係を抜粋してご紹介します。

物価高・円安・上がらぬ給料が「旅行」に与えた影響

なぜ、日本人は海外旅行に出なくなったのか?

その理由は、いたってシンプルだ。日本人に、経済的余裕がなくなったからである。世界的なインフレによる物価高騰、それに拍車をかける円安、いくら働いても上がらない給料──そんななかで、一般の日本人は、海外旅行に回すおカネが拠出できなくなったのだ。

とくに、エネルギー価格の高騰による航空券の燃油サーチャージ価格の高止まりの影響は大きい。2024年1月の時点で、たとえば、JALは欧米往復で9万7200円、ハワイ往復で5万6400円が航空券代とは別にチャージされる。

しかも、円安は「安いニッポン」を際立たせる。1ドルが100円だったときと比べれば、1ドル150円では、旅行費用は単純に1.5倍かかる。それに輪をかけるのが、海外の物価高である。

たとえば、ニューヨークでラーメンを食べるとする。ニューヨークでナンバーワンと言われるのはモモフク・ヌードルバーだが、ここのラーメンの値段は最低でも20ドルはする。1ドル150円として3000円になり、これにチップ20%を加えると、ラーメン1杯が3600円になってしまう。日本の4倍以上だ。しかも、モモフクはいつ行っても順番待ちで、案内されるのに最低30分はかかる。

ハワイに行くより、石垣島、宮古島に…昔に逆戻り

日本の安い物価に慣れていると、海外に行った場合、あらゆるものの高さに驚く。

たとえば、日常用品がなんでも100円で買える「100均ショップ」はニューヨークにもある。しかし、「100均」ではない。2019年3月、ダイソーはクイーンズのフラッシングにニューヨーク1号店をオープンさせたが、この店の最低価格帯は1.99ドルである。

いずれも日本でいう「100均」とは名ばかりで、日本と同じ製品が2〜3倍はする。ダイソーはバンコクやクアランルンプールにもあるが、いずれも「100均」ではない。

日本のファミレスのガストやサイゼリアは、一般日本人の外食の強い味方だ。アメリカから来た留学生をこの2店に案内したことがあるが、彼らはすっかり気に入って、「こんなに安くていろいろなものが食べられるところはない」と、大喜び。以来、ガストとサイゼリアの常連になった。

しかし、こんな店はアメリカにはない。日本のファミレスに近い店はあるが、価格は日本の3倍を下らない。そんなにするなら、国内のほうがいいということで、ハワイやグアムから、石垣島や宮古島にビーチリゾート好きの旅行客がシフトした。

ハワイなら4泊の概算で、ホノルル往復航空券が20万円、ミドルクラスホテル4泊で15万円とすれば、その予算で、石垣島や宮古島なら往復航空券が5万円ほどだから、1泊10万円の高級リゾートやヴィラに4泊できてしまう。それに、石垣島や宮古島のビーチは、ハワイ以上だ。

こうして、時代は逆戻りし、海外旅行は日本人にとってふたたび“高嶺の花”となった。

思えば海外旅行が大ブームになったのは1980年代だった。成田空港の開港やプラザ合意後の円高、そしてバブル景気がブームを加速させ、日本人の出国者数は1980年の390万人から1990年には1000万人を超えた。以後も年々、増え続け、コロナ禍前の2019年にはついに2000万人に達した[図表1]。

[図表1]日本人出国者数の年度別推移 出典:出入国管理在留庁「出入国管理統計」

しかし、もう2度と2000万人を超えることはないだろう。

今の日本経済は1980年代の半分の実力

海外旅行が“高嶺の花”になってしまったのも、海外での日本の存在感が薄れているのも、日本経済が衰退を続けているからだ。いまの日本経済を見ていると、海外旅行が大ブームになった1980年代の半分の実力しかない。

ところが、日本政府にはその実感がない。岸田文雄首相は、相変わらず、無用な外交を続け、日本がいまも「大国」であるかのように振舞っている。しかし、どう見ても日本は「先進転落国」であり、他国を援助する余裕などない。

2023年2月、日本政府は来日するフィリピンのマルコス大統領との会談で、年間2000億円を超える支援を表明したが、これに対してSNSでは怒りの声が巻き起こった。

《年間2000億円超支援表明? 防衛費の一部1兆円を増税しようとしてもめているのに》

《岸田の海外バラマキ合計18兆円超えたぞ自公支持者と無投票層のせいで日本の貧困が加速して海外が益々潤ってる》

《オレたち、外国を豊かにするために働いてるんじゃねえんだよ》

2024年2月に東京で開かれたウクライナ復興会議でも、SNSには怒りの声が溢れた。

《すでにウクライナ支援に1兆円以上払っているのに、さらに6500億円? GDP世界4位に転落した国がやることか。能登地震復興支援が先だろう》

《この政権は先進国のマネごとしているのか。もう日本は途上国落ちしているというか後進国ですよ!》

《どこにそんなカネがある。「裏金」でも渡すの》

こんな状況を海外から見ている日本人たちが、口をそろえて言うのは、「日本は自滅しようとしているのか」「このまま行くところまで行かないと目が覚めないだろう」である。

日本の状況を見かぎって、海外に出た富裕層、エリート、有為な若者たちは、じつはかなりの数に上っている。そういう人たちに海外で会って話してみると、言うことはほとんど同じだ。そればかりか、最近は、「もう本当に危ないのではないか。猶予はあと2、3年かもしれない」と言う人間もいる。

山田 順

ジャーナリスト・作家

※本記事は『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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