「全然違いを見せられてない」代表定着も見据え、佐野海舟が鹿島でやるべきこと。知念慶とのボランチコンビには確かな手応え

大分トリニータ、FC町田ゼルビア、FC東京とJリーグの3クラブを渡り歩いたランコ・ポポヴィッチ監督率いる新生・鹿島アントラーズ。彼らの初陣となったのが、2月23日に敵地で迎えた2024年J1開幕戦・名古屋グランパス戦だ。

名古屋は長谷川健太監督体制3年目。だが、守備陣が大幅に入れ替わっている。しかも、主力級のハ・チャンレ、河面旺成が負傷欠場。三國ケネディエブスと井上詩音という新加入コンビが最終ラインに陣取ることになり、多少なりとも不安もあっただろう。

鹿島はそんな相手のウイークを確実に突いた。序盤15分頃までは5バックで守備ブロックを敷いてきた相手に苦しみ、逆に縦パスをカットされてキャスパー・ユンカーにビッグチャンスを作られるなど、一抹の不安も拭えなかった。が、19分に右CKの流れで仲間隼斗が鋭い飛び出しから先制弾を叩き出すと、チーム全体が落ち着きを取り戻したのだ。

そこからの鹿島は強度の高いプレスと奪ってからの切り替えの速さ、縦への推進力を発揮。新指揮官が目ざす強度の高い攻撃的スタイルを体現していった。

後半開始2分には新FWチャヴリッチが安西幸輝の浮き球のクロスに合わせて2点目をゲット。彼をマークしていた三國が被り、井上も競り負ける形になり、圧倒的な個の強さを見せつけた格好だ。

そして62分には、チャヴリッチが持ち出してからのクロスに仲間が反応。この日、2ゴール目を奪い、試合を決めた。新体制初陣で3-0と完勝したことで、チーム全体に自信と活力が生まれたのは確かだろう。

そんななか、注目された1人が、日本代表の佐野海舟だ。1~2月のアジアカップ参戦の影響で、チーム合流が10日に行なわれたプレシーズンマッチの水戸ホーリーホック戦直前になったため、本人も「ポポさんとは町田の時にやっていましたけど、チームとして狙っていることと自分のプレーがまだマッチしていない」と危機感を募らせていたからだ。

宮崎キャンプ中に柴崎岳が負傷離脱した後、知念慶がボランチに抜擢され、良い味を出していたこともあって、佐野の開幕先発が微妙になりつつあった。そこで彼はこの2週間、チームへの適応を最優先に考えて取り組み、知念との連係強化に努めたという。

「周りをどう活かし、コミュニケーションを取っていくかを意識して取り組みました。練習も戦術の落とし込みが多かったので、徐々に慣れていった。知念君とはまず距離感を大事にしたし、『両方が前に行くことは絶対にしないように』と監督に言われたので、それを考えながらやりました」

とはいえ、名古屋戦の序盤は相手の中盤がアンカーの稲垣祥とインサイドハーフの森島司、和泉竜司の3枚構成だったため、数的不利を強いられた佐野と知念は良い距離感を取れずに苦しんだ。

視察に訪れた日本代表の森保一監督が「ポポヴィッチ監督が志向するサッカーの中で、中央からバランスを取りながら攻守に絡んでいくというプレーは見られた」と話した通り、とにかくバランス第一という意識は目立ったが、本人の中では「もっと背後を狙うことが必要だった」という反省もあったという。

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早い時間の仲間の先制点が幸いし、そこからはボランチ2枚がより近い位置で連動しながらプレーできるようになった。佐野自身のボール奪取力が光る場面も増えてきた。

「知念君はどっしり構えてくれるんで、自分はもっと前に出ていきたいし、前に出ていく守備もできる。練習から良い感触はあったし、バランスは悪くないと思います」と、佐野は新コンビ確立に大きな一歩を踏み出した様子。町田でポポヴィッチ監督に師事していた佐野は、戦術理解度という部分でアドバンテージがあるのだろう。

「今年のサッカーはハッキリしているので、チームとして迷った時に立ち返ることができる」とも佐野は発言していた。確かにこの日の戦いぶりを見る限りだと、「前へ前へアグレッシブに行く」というコンセプトが両ボランチはもちろん、チーム全体に共有されてきた印象も少なくない。

チャヴリッチの2点目のシーンを見ても、後半から出場した右MF藤井智也が自身のストロングであるドリブル突破を思い切って見せ、右サイドを打開。クロスを入れたところで、仲間がDFとのデュエルに勝ってボールをキープし、安西に流している。

この時の藤井や仲間の前への選択のプレーには迷いが一切、感じられなかった。それは個々の臨機応変な判断に重きを置いていた岩政大樹前監督体制の昨季との大きな違い。ある程度の形を与えてくれる新指揮官のスタイルは、選手たちにとってはやりやすく、浸透度も速いのだろう。

佐野にしても、局面の強さやボール奪取力というストロングを出しやすい環境にあるのは事実。それを研ぎ澄ませることは十分にできるはずだ。同時に、課題の縦パスの精度を引き上げることも求められてくる。最前線に高さ・強さ・決定力を兼ね備えたチャヴリッチが陣取っているのだから、攻撃面をブラッシュアップする絶好のチャンスなのは間違いない。

「本当にあのデカさで柔らかさもあるし、何でもできる凄い選手だと思います。自分も縦の意識を持ちやすい。今はまだ全然違いを見せられてないけど、それを出さないと代表にも選ばれない。しっかりやっていきたいですね」と意気込みを示していた。

来月には柴崎も戻ってくる見通しで、そうなるとボランチの組み合わせや序列にも変化が起きるはず。名古屋戦の終盤のように樋口雄太が入るケースも考えられる。そうなった時も佐野は大黒柱として君臨し続けなければ、代表定着は難しくなる。

遠藤航(リバプール)らの高い基準を体感した男は、2024年の鹿島で確実に進化しなければならない。名古屋戦はその一端が垣間見えたと言っていいのではないか。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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