働きかたの多様化を受け、倉敷市内にも次々とコワーキングスペースが誕生している今日この頃。ビル内にあったり、古民家を改装していたり、それぞれ特徴はまったく違います。利用するひとは、場所や設備、雰囲気などでどこへ行くか決めているでしょうか。
多種多様な施設があるなかで、2023年11月に他にはない珍しいコワーキングスペースが誕生しました。夜のみ営業の珍しいスタイルです。場所も意外。天文台の敷地内にできました。
夜に、家以外で働きたいひとにとって、痒い所に手が届く存在の「Coworking Space ASTRO(コワーキングスペース アストロ)at 倉敷天文台」を取材しました。
倉敷天文台について
Coworking Space ASTRO at 倉敷天文台(以下、ASTRO)がある倉敷天文台は、日本初の民間天文台です。1926年に元倉敷町長の原澄治(はら すみじ)氏により設立されました。倉敷天文台の主事を務めたのが世界的アマチュア天文家の本田實(ほんだ みのる)氏です。彼はこの地で多くの彗星や新星を発見しました。
5mのドームを備えた天文台の建物を原澄治・本田實記念館として公開しています。2階には天文台設立時にイギリスから購入した32cm反射望遠鏡が展示されています。
同敷地内にある、本田氏の住まいは現在、カフェ「星の光の澄みわたり」となりました。連日、カフェは多くのひとでにぎわっています。
店内には天文にまつわる書物や置物がたくさん。非日常を感じられる造りのため、天文に興味がないひとでもわくわくする空間となっています。
日中カフェとして利用されるこの建物が、夜にはASTROへと変貌。がらりと雰囲気が変わり、より天文の魅力を感じられるようになります。
Coworking Space ASTRO at 倉敷天文台のようす
コワーキングスペースとして使える部屋は3つ。それぞれ紹介します。
部屋
入り口からもっとも近い部屋は天文関係の書物にぐるりと囲まれています。照明は、暗くなるとより天文の世界を彷彿(ほうふつ)とさせるものに。テーブルはパソコン作業や書き物をするのにちょうどよい高さです。
月の置物が置かれていました。日中は光がついていないので白色の丸い置物のように思いますが、夜になると一瞬で月だと分かります。
ソファとローテーブルの部屋もあります。この席は作業をするより、打ち合わせをするのに向いているかもしれません。テーブルよりソファに座ったほうがリラックスできて、会話が盛り上がるのでは。ASTROでは、おしゃべりOKなので、会議をしても大丈夫です。Wi-Fiが完備されているので、オンライン会議も気軽にできます。
ソファ席の向かい側には、縦長の部屋があります。横幅が狭く、先に紹介した2つの空間よりクローズな造りなので集中力を高めたいひとにおすすめ。
低めのテーブル席と、壁に沿って作られたカウンター席があります。他の部屋からの視界も遮られるので、周りのひとがより気にならない造りです。
観望室
ASTROを利用するひとは別棟の観望室にも入れます。ここで仕事ができるわけではなく、息抜きとして使う場所です。「仕事に疲れたら、星を観てリフレッシュしてほしい」との想いから追加料金なしに利用できます。
観望室は通常閉まっているため、利用時には店長のジョルダンさんに声をかけましょう。星の解説もしてくれますよ。
ぼーっと星空を眺めたり、望遠鏡で観察したり思い思いの時間を過ごしましょう。天文台ならではのうれしいサービスです。
実際に使ってみました
実際にASTROで仕事をしました。昼のカフェのようすとはがらりと変わり、夜は落ち着いた雰囲気がただよっています。
仕事に集中できる環境
筆者は狭く暗めの場所が落ち着けるので、縦長の部屋へ。一番奥のテーブル席を選びました。
必要最低限の照明で視野に制限がかかることで集中しやすい環境です。手元はしっかり照らされているので作業には困りません。
延長コードを貸し出してくれるので、どの席に座っても電源が取れます。コンセントを気にせず、場所優先で席を選べるのはうれしいですね。
ふだん家で仕事をしている筆者にとって、誘惑がないのも大きなポイントですが、おしゃれな空間で働くことでやる気が一段と湧きました。「この場所好き!」と思える空間で働くのは、効果的なようです。仕事と良い環境はやる気に密接につながっていると実感しました。
リフレッシュしに観望室へ
せっかくなので観望室も案内してもらいました。建物は弧を描いた天井で、仕切りのないひと部屋です。
星を観察するときは天井を手動でスライドさせながら開けます。重い天井がゆっくりと動き、星空が顔をのぞかせたときは思わず「おー!」と声がもれました。
写真にはうまく写せませんでしたが、月以外にも輝く星があちらこちらに。倉敷の町なかでも星が見えるのだと初めて知りました。
望遠鏡は2つあります。ジョルダンさんがあらかじめ焦点を合わせてくれるので、簡単に星を観察できます。
まず1つ目の望遠鏡で月の観察を。クレーターをしっかりと捉えました。見慣れた月より迫力を感じます。
もう1つの望遠鏡では土星を観ました。土星の輪がくっきりと見えて、また「おー!」と感嘆の声がもれました。
ふだん夜空を眺めることはよくありますが、肉眼では見えないものを目にすると特別感を味わえます。日常では意識しない宇宙を間近に感じられる感覚も味わいました。仕事の息抜きにぴったりのサービスでした。
まさか倉敷の町なかで星の観測ができるなんて。それも仕事の合間に。ASTROでしか味わえない特別な体験です。
唯一無二のASTROを運営する店長のジョルダンさん。どのような想いでコワーキングスペースをオープンしたのか、どのように利用してほしいかなどを聞きました。
倉敷の町なかにある倉敷天文台。敷地内には夜のみ営業するコワーキングスペースの「Coworking Space ASTRO at 倉敷天文台」があります。
店長のジョルダンさんこと大浦翔太(おおうら しょうた)さんに、自身の経歴も含めASTROの話を聞きました。
店長のジョルダンさんの経歴
──ジョルダンさんの経歴を教えてください。
ジョルダン(敬称略)──
もともとは前職で旅行会社に勤めながら、個人で映像制作の仕事をしていました。旅行会社には6年務め、主に海外旅行の手配の担当でした。
会社員時代は広島での勤務からスタートし、のちに岡山市に転勤しました。
岡山市に住んでいると、だんだんと岡山が好きになっていって。退職後もそのまま残って住んでいました。
そして奬農土地(しょうのうとち)の原浩之(はら ひろゆき)さんとご縁があって出会い、インバウンドに着目したTAKAHASHIGAWA TRAVEL(高梁川トラベル)の立ち上げに携わり、今に至ります。
日中は旅行業の仕事をし、倉敷天文台を活用するためASTROを開かせてもらいました。
──なぜ「ジョルダン」と名乗っているのですか?
ジョルダン──
名前が将太(しょうた)なんですが、イギリスに留学していたときになかなか覚えてもらえなくて。イギリスにも馴染みのある名前の「ジョルダン」と名乗ることにしました。
SNSの名前もジョルダンで活動しているので、本名よりそちらのほうが浸透しています。
夜に営業する理由
──なぜASTROを作ったのですか?
ジョルダン──
岡山市に住んでいたときは、コワーキングスペースをよく使っていました。倉敷に引っ越ししてからは、自分好みの静かで集中できる場所が少ないなって思ったんです。環境は良くても、駐車場がないコワーキングスペースもあり、不便でした。
良い場所がないかと探すなか、天文台とコワーキングスペースは相性が良いと気づきました。仕事に疲れたら、星を観てリラックスできるからです。
建物を有効活用することもASTROを始めた理由のひとつですね。現在、カフェの「星の光の澄みわたり」に訪れるかたは多いですが、毎日営業はしていません。たまに夜も営業しますが、休みの日と夜間は誰も建物を使わない状態です。
昼間はTAKAHASHIGAWA TRAVELで働いているので、仕事終わりの夜しか開けられません。このため、夜間営業のみですが、建物を有効活用できているかと思います。
天文台ならではの使いかた
──どのようにASTROを利用してほしいですか?
ジョルダン──
夜に自宅以外で働く場所を探しているかたに使ってほしいですね。黙々と作業をしても、打ち合わせをしても良いですし、Wi-Fiがあるのでオンライン会議もできます。
町なかにあるので、塾帰りの子どもを待つお父さん・お母さんに使ってもらうのも良いですね。ただ待つだけにも使っていただけます。ドリンクがあるので、カフェのように使っていただけたら。
帰宅ラッシュ時には道路が混んで、渋滞に巻き込まれると時間がもったいないですよね。その時間を有効利用するためにここで仕事をして、道が空いたときに帰る、という使い方もおすすめです。
長時間使うかたは、周りに飲食店があるので、途中で抜けて食事をしてきても良いですね。持ち込みもできるので、買ってきてこちらで食べても良いですよ。
いろいろな使い方があるので、自分好みに利用していただきたいです。ASTROをとおして、倉敷天文台を知っていただければうれしいですね。
おわりに
町なかにある天文台で夜のみ営業するコワーキングスペースは、全国的にも非常に珍しい存在です。星を眺めてリフレッシュできるのも天文台ならでは。
コワーキングスペースですが、仕事だけでなく待ち合わせやカフェのように使うのも大丈夫なのもうれしいポイント。倉敷中心部ですが、駐車場があるので駐車料金を気にする心配もありません。仕事場として、ちょっとした居場所に気軽に利用できそうです。