【井口基史のスカウティングレポート】やっぱり気になるお金について(後編)「トップチーム人件費」ランキング2022年度版

今回で4シーズン目となるクラブ決算概要レポート。皆さまのおかげで続けさせて頂いています。いつもありがとうございます! 今回は2023年11月22日に発表された「B.LEAGUE 2022−23シーズン(2022年度)クラブ決算概要」をもとに、マイチームとリーグの現在地を知っていただければ幸いです!
※現在進行しているシーズン決算ではなく、昨シーズンの決算についてのレポートです。ご注意ください。

文=井口基史

「やっぱり気になるお金について(前編)「営業収入」ランキング2022年度版」はコチラ

◆■人件費トップはアルバルク東京

各クラブの人件費のどれくらいの規模で、順位はどうなっているのか。2022−23シーズンの人件費ランキングは以下のとおり。

人件費ランキングは12.7億円でアルバルク東京が昨シーズンに続き、唯一の10億円オーバーでトップ。昨シーズンのBリーグチャンピオンの琉球ゴールデンキングスは8.4億円であり、A東京よりも少ない額で優勝を勝ち取ったわけです。ちなみにこの金額にはコーチングスタッフやチームスタッフ人件費も含まれるとされていますし、ゲームの勝敗にはいろいろな要素が含まれていますので、人件費=強化費という認識はやや乱暴かもしれません。

一方、近年クラブを悩ませるのは為替問題、いわゆる“円安”です。外国籍や帰化選手にはドル建て精算される(年俸を支払う)ことが多く、為替レートが円安に大きく振れたことで、クラブにとってはそれ支払額が多くなっているのです。純粋な選手への評価と為替レートの増額分がチーム負担にのしかかります。

◆■三遠と滋賀の違和感

公開された数字からしか読み取れませんが、B2降格した滋賀レイクスの営業収入が13.2億だったのに対して、トップチーム人件費は4億円しか使われていませんでした。これはクラブライセンス維持のために純資産を増やしたかったからだと思われますが、利益を約1.5億計上しています。

一般企業と違いライセンスと健全経営のため以外に利益を出すことがオールOKとはいえないのがプロスポーツのクラブ。利益が出るなら勝つために使うべきという議論もあり、降格したシーズンでしたので、ほかに手がなかったか…。今後に生かす教訓が隠れていそうです。

反対に三遠ネオフェニックスには真逆の心配があります。営業収入が9.4億円に対して、トップチーム人件費8.1億円と明らかにバランスを欠いた収支に見えるからです。営業費用では17.2億円を使い切っており、単年で約7.6億円の赤字を計上と、あまり見たことのない数字と言えます。

◆■ファイナンシャル・フェアプレー

サッカー界にはファイナンシャル・フェアプレーという選手年俸などの支出が収入を上回ることを禁じたルールがあり、違反すると罰金、カップ戦出場権剥奪、選手登録人数の制限などの制裁が科されます。これは海外だけの話ではなく、日本でもJリーグとクラブを発展させる基盤になる重要な概念であると合意されているのです。

今回の発表はBリーグでも極端な決算数字が出たと言えるかもしれません。それだけに今後はファイナンシャル・フェアプレーのようなルール整備の必要性への議論があるかもれしれません。

◆■残留にかかる人件費の目安は?

降格した滋賀レイクスが4億円、新潟アルビレックスBBは3.1億円でしたので、トップチーム人件費が4億円以下になると降格リスクが非常に高くなり、警戒が必要です。ただし4億円以下だった仙台89ERS、信州ブレイブウォリアーズはサバイブ(回避)しており、両クラブにとってはやり繰りで工夫し凌いだかを評価されていいシーズンだったと言えるでしょう。

◆■昇格にかかる人件費の目安は?

今シーズンB1に昇格して奮闘中の佐賀バルーナーズと長崎ヴェルカ。B2だった昨シーズンは佐賀が2.6億円、長崎が3.6億円の人件費での昇格です。一方、現在もB2で戦うアルティーリ千葉が5.1億円、越谷アルファーズが3.6億円、ライジングゼファー福岡が3.2億円、熊本ヴォルターズが2.8億円と、佐賀よりも人件費をかけて戦っていたことがわかります。これを見ても、B1昇格が簡単ではないことが見てとれます。

お金のことをより知ることで、普段ご覧になっているホームアリーナの景色がどうあるべきか見えてくるかも。そろそろ選手年俸が報道されてもおかしくない時代にきていますので、もっとオンタイムでトップチーム人件費を知る時は近いかもしれません。

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