82歳 ガーデナー 長塚のり子さんの楽しい暮らし。「今、やりたいことを懸命に。いつか必ず形になるから」

森に続く広大な庭で花がらを摘んだり、枯れ葉を掃除 したり。春に向けての準備が始まっています。

日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、ガーデナー 長塚のり子さんを2回にわたって掲載します。

PROFILE
ガーデナー
長塚のり子さん(82歳)
静岡県在住。夫婦ふたり暮らし
神奈川県出身。プレスやショップの店長等さまざまな仕事を経験。夫・誠志さんとともに27年前に静岡県へ移住。現在の住まいは、8年前に新築した戸建て。日々ガーデニングに励みつつ、年に数回、自宅の多目的ルームを開放し、仲間内で楽しむためのイベントの開催も。

55歳で新天地へ移住。 一歩踏み出すために待っていたのは“楽しむ”気持ち

雲ひとつないきれいな青空。いつにも増して、この光景にうれしさが募るのは、ここが名峰・富士のふもとだから。「庭のいろいろなところから見られるのよ」と、長塚のり子さんが指差した先に、雪帽子をかぶった富士山が見えました。

ふもともそろそろ冬模様。初霜が降りたばかりの庭の隅には、夫・誠志さんが割った薪が積み上げられ、煙突からは、水色の空にとけていく薄い雲のような煙が。最後に数本残っていた深紅の花々は、薪ストーブの前の柱に彩りを移し、室内をあたたかく染めています。

東京・青山で暮らしていた長塚さんご夫妻がこの地に引っ越してきたのは27年前のこと。そもそものきっかけは、カメラマンとして活躍していた誠志さんのオープンスタジオをつくることでした。車の撮影ができる広い土地を探していたところ、知人を介して巡り合ったのが、この山の中。

「田舎暮らしがしたいとか、そういうことを思っていたわけではなく、ふと流れに乗ってしまっただけなんです。山暮らしに備えて知識を身につけたり、具体的に何かを準備したりということも、恥ずかしながらありません。ただ、あったのは、おもしろそうという思いだけ」

誠志さんは、家具をつくったり、よりよい住み心地をめざして内装に手を加えたり。のり子さんは、庭や室内に季節ごとの美しい彩りを添えたり。それぞれやりたいことを“生活”という舞台で実践しながら、月日を重ねてきました。

「そのとき、そのときでやりたいことを集中して、それがようやくまとまってきたな、と思うんです」

ここに至るまで、アートや食、アパレルなど、仕事面でもいろいろな経験を積んできたのり子さん。誠志さんはその様子を隣で見ながら「経験は必ず役に立つ」と口癖のようにつぶやいていたそうですが、今になり、その言葉の意味を実感できるようになったといいます。

日々を暮らす、小さな楽しみ

山の中での夫婦ふたりの生活は「Let’s Music」が合言葉

テレビをつけると手が止まってしまうから、この家に引っ越してからはテレビのない生活に。シーンとするのも嫌だから、“レッツミュージック”が合言葉なのよ(笑)。いちいちCDやレコードをかえるのも大変なので、近頃はYouTube Musicアプリで好みの曲を自動再生しています。

“自分にできること”でつながるご近所さんとのコミュニケーションを大切に

田舎暮らしのいいところは、堂々と気持ちのやりとりができること、たとえば野菜をいただいた際には、その方の包丁を研いでお返しするんですが、こういった人と人とのつながりが大事だなと思うんです。お金を使わない暮らしっていうのもなかなかいいものですよ。

なんでもない日にも“好き”を身につけて今日一日を気分よく

おしゃれは披露するものではなく、自分の気持ちを元気づけてくれるもの。好きなものを、その日の気分で身につけるのが楽しいです。服はベーシックなものが多く、20年、30年と着ているものもあるので、アクセサリーは華奢なものより、着こなしのアクセントになるようなものが好きですね。このシルバーのネックレスやピアスはイスラエルの彫刻家・イラナグーアさん作。

庭は季節のキャンバス。室内にも四季折々の彩りを

こちらに引っ越してきてから独学でガーデニングを始めました。わたしにとって庭はキャンバス。形というよりは、咲いたときの色を想像しながら種や苗を植えています。特に大好きなのは白や青の花。育った植物でリースをつくり、季節ごとに部屋を彩るのも大好きな作業です。

音楽やアートなど心に触れる体験を仲間とともに

わたしたちがこの自然の中でつくりたいと思ったのは、自分たちだけで暮らす家ではなく、友人や仲間、家族と過ごせる場。そんな場づくりのために、家の中のひと部屋を音楽会やワークショップを行える自由な空間にしています。音楽会はプロのミュージシャンを招いて。古代文字のワークショップは夫の仕事仲間の方が先生です。部屋の真ん中に飾っているのは生徒みんなで書いた「集」という字。

後編に続きます。

撮影/清永洋

※この記事は『60代からの小さくて明るい暮らし』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。


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