別府市のウクライナ避難民、8割が「帰還は3年以上先」【大分県】

ウクライナ帰還の見通しと実際の帰還意思
通訳の山口英文さん(左端)から日本語を学ぶウクライナ避難民=21日、別府市内
日本語教室のテキストに書き込むウクライナ避難民
別府市内で就労したデニス・クラリカウスカスさん。「母国には戻らない」という=別府市馬場の別府表具センター

 ロシアのウクライナ侵攻で別府市に身を寄せた避難民の成人21人のうち少なくとも8割が、母国への帰還までに今後3年以上かかると考えていることが、大分合同新聞のアンケートで分かった。侵攻開始から24日で2年となり、終結や生活環境再建はいまだ見通せない。滞在のさらなる長期化や定住を見据え、自立支援の継続が必要になりそうだ。

 アンケートは今月9~21日、18歳以上の21人を対象にウェブで実施。19人が回答した。翻訳は支援団体のNPO法人ビューティフル・ワールド(BW、同市)の協力を得た。

 帰還を期待できる時期は、「5年以上先」と「3、4年以内」が合わせて17人に上った。帰還する意思は「将来できれば」が8人。戻らないと決めた人が4人いた。今後1年の予定は「別府市にとどまる」が過半数の12人で、残る7人は「不明、未定」だった。

 大半の人はロシアに近い南東部の戦地周辺から逃れてきた。自宅が破壊されたか状態が不明と答えたのは12人。一時帰国ができた人は3人いた。

 就労・就学状況は11人が「雇用されるか自営」、3人が「学生」で、社会への定着が進む。懸念や不満は「日本語」「ウクライナにいる親族、友人の安全」「住居」が上位に並んだ。

 BWと情報交換している難民支援団体パスウェイズ・ジャパン(東京都千代田区)の石井宏明理事(63)は「今の場所で暮らしていく覚悟が固まりつつあるようにみえる」と分析する。

 自立して地域社会の一員だと思えることが重要とし「誕生日会に呼んだり、行事で活躍の機会を設けたりする支援の形もある。特別視ではない目配りが大事だ」と話した。

<メモ>

 別府市や支援団体によると、同市内にいるウクライナ避難民は15世帯28人(21日現在)で、うち未成年は7人。県によると、日田市に逃れた避難民6人は昨年6月までに全員帰国した。

■生活資金援助が1年後に終了、日本語習得が急務

 別府市にいるウクライナ避難民へのアンケートで、最大の懸念事項に挙がったのが「日本語」だ。民間団体による手厚い生活資金援助が1年後に終了するのを前に、経済的自立のため習得が急務になっている。

 「いま かいしゃに います」

 21日夜、市内の集会場。ロシア語通訳の山口英文さん(61)がホワイトボードに平仮名を書き記した。今月から始めた日本語教室の3回目。ペンを握るオレーシア・ツビリュークさん(40)は「次は漢字」との指示を聞いて顔をしかめた。

 アンケートで日本語は「懸念、不満」のトップで12人が挙げた。支援団体のNPO法人ビューティフル・ワールド(BW、同市)によると、特に大人世代が苦労している。「次に挑戦したいこと」でも習得を望む声が多かった。

 BWは以前も教育を試みたが、うまくいかず棚上げになっていた。大半が同じ市営住宅に住み、互いの会話は普段使っているロシア語で済む。「日常生活で日本語能力は自然と伸びる」との見込みは外れた。

 転機になったのは、日本財団(東京都港区)による最長3年間の生活費給付が来年春から順次終わることだ。給付額は年間100万円。大きな収入がなくなるため、生活基盤の確立を急ぐ必要から学習の再開が不可避になった。

 在留資格は入国時の「短期滞在」から、就労可能な「特定活動」に移り、現在は難民に準じる「補完的保護対象者」への転換が進む。定住者の扱いを受けられるようになる。

 同市馬場の別府表具センターで働くデニス・クラリカウスカスさん(46)は故郷ドネツク州が戦地になった。アンケートには「母国以外の全世界をゾンビが襲わない限り、戻らない」とユーモア交じりに答えた。

 職場ではスマートフォンの翻訳アプリや身ぶり手ぶりで意思疎通を図る。日本語を上達させ、空き家に住んでみたいと夢を描く。

 BWは当初から避難生活の長期化を想定し、運転免許の取得を支えるなど自立を促してきた。スタッフの小野一馬さん(37)は「自立をスピードアップさせたい。しっかり稼ぎ、しっかり税金を納める市民になってほしい」と語った。

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