『薬屋のひとりごと』壬氏役・大塚剛央のすごさはどこにある? 名場面で振り返る声の色気

放送が終わるたびに、SNSに多くの感想が投稿されるアニメ『薬屋のひとりごと』。

美形の宦官・壬氏が発するTVアニメならではの魅力といえば、書籍ではなかなか感じ取れない“声”だろう。

壬氏を演じる大塚剛央は、『【推しの子】』アクアや『風が強く吹いている』蔵原走を演じた実力派。

この記事では、『薬屋のひとりごと』のシーンと大塚が過去に担当したキャラクターを挙げながら、壬氏を彩る大塚の演技の魅力を探っていく。

●不相応さの見事な表現

女性にとって恋愛対象となりづらい宦官でありながら、その美貌で後宮の人々を虜にしている壬氏。

アニメにおける壬氏の大きな特徴として挙げられるのが、わずかに芝居がかった甘い吐息だ。

代表的な場面は、TVアニメ第12話の妓楼に帰った猫猫を壬氏が迎えに行くシーン。猫猫の唇に指をあて、自分の唇にその指をあてた壬氏の得意げな微笑みと吐息には、猫猫も赤面するほどの妖艶さがあった。

そして、この吐息が完全に自然なわけではなく、ちょっと不自然、大げさになっているのもまた良い。

絶妙な拙さの演技によって、後宮で実年齢よりも上の年齢を装う壬氏の大人びた行為のなかに、良い意味での幼さを感じられたように思うのだ。

そして、この壬氏に似た特徴を持つキャラクターとして考えられるのが、大塚が演じた『【推しの子】』アクアだ。

壬氏とアクアはどちらも自分の精神的な年齢と外部に公表している年齢が一致しておらず、そのちぐはぐさを有した行動を大塚は見事に演じていた。

『【推しの子】』において、アクアは元天才子役・有馬かなや、現在進行形のスター女優・黒川あかねを恋に落としている。

アクアが2人から惚れられたのは美形であることも要因だろうが、恋心の発端には“復讐に利用するため”に2人に近づく意図的な行動も影響していた。

アクアも演技が完璧ではなく、黒川や有馬と比べれば技術は素人。

見た目は高校生のアクアから大人びた心が見え隠れする様子にはミスマッチな雰囲気があり、その違和感は実年齢よりも大人に振る舞わなければいけない壬氏にも共通している。

国が傾倒するほどの見た目と言われる壬氏の、甘くわずかに不器用な吐息。猫猫を赤面させるほどの姿には、一国を賭けてでも手にしたいほどの破壊力があるのではないだろうか。

●壬氏に通ずる誠実キャラたち

恋愛小説的な甘い魅力がある一方で、壬氏は猫猫や周囲に対する誠実な側面を持っている。

第19話、気を失いかけた猫猫を必死に起こそうとする壬氏。猫猫を思うがゆえの悲壮な声には、大塚の代表作といえるキャラクターたちの面影が感じられた。

大塚が演じた代表的なキャラクターの一人が、大学駅伝を描いたアニメ『風が強く吹いている』の蔵原走。

走ることに真剣で、不器用ながらも周囲と思いを通わせていく蔵原の声には、猫猫に向かって叫ぶ壬氏にも通ずる必死さがあった。

なお、壬氏に似た大塚の担当キャラクターとしては、過去が重すぎるとして話題の人物『アイドルマスター SideM』の眉見鋭心にも言及したい。

眉見は文武両道の生徒会長からのアイドルデビュー、というハイスペック人物なのだがその過去が重く、エピソードが公開された際にはネットで大きな話題を呼んだほど。

正義を貫く誠実な面と重い過去を抱えた演じるのが難しい人物に、大塚は真っ直ぐな声をあてていた。

人には話せない秘密を抱えながら、後宮で宦官としてひっそりと生きる壬氏。彼のなかにある子どものような実直な心は、大塚だからこそ表現できたのではないだろうか。

『薬屋のひとりごと』において、王子キャラとしての絶対的な立ち位置を担う壬氏。壬氏の声には自分を完璧に見せようとする芝居気と隠しきれない誠実さがあり、テキストだけではわからない壬氏の性格を表していた。

(文=三山てらこ)

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