『鬼滅の刃』遊郭編の鬼・妓夫太郎が貫いた“守るべきもの” 堕姫との兄妹の絆を振り返る

2月24日の21時より、フジテレビ系『土曜プレミアム』枠で『特別編集版「鬼滅の刃」遊郭編』の「遊郭決戦編」が放送される。同エピソードは「遊郭編」の後半部分をまとめた内容となり、鬼殺隊と“上弦の陸”である堕姫、妓夫太郎との死闘が描かれる。

そこで本稿では、この2人がいかなる魅力をもったキャラクターだったのかおさらいしつつ、見どころとなりそうな部分について語っていきたい。

「遊郭編」のあらすじをざっくりと振り返っておくと、炭治郎たちが“音柱”宇髄天元に従い、吉原の遊郭に潜入する話だった。そこで敵として立ちはだかるのが堕姫と妓夫太郎、“2人で1つ”の驚異的な存在として数々の柱を葬ってきた鬼の兄妹だ。

まず妹の堕姫は、圧倒的な美貌と邪悪な性格を併せ持ったキャラクターで、美しく強い鬼であることに誇りをもっており、作中では醜い人間には生きている価値がないと言い放つ場面もあった。

その一方、甘えん坊で子どもっぽい素顔を隠し持っているところが大きな魅力。たとえば宇髄に初めて首を落とされた際には、大人びた態度から一変、大声を上げて泣きながら“お兄ちゃん”に助けを求めていた。なおアニメ版ではご存じカメレオン声優の沢城みゆきが堕姫の声を担当しており、彼女の豹変シーンがより一層衝撃的で、破壊力に満ちたものになっている。

また兄の妓夫太郎は、極端に嫉妬深い性格で、整った容姿をもつ宇髄に対して「妬ましい」と殺意を爆発させていたことが印象的だ。声優・逢坂良太によるねちっこく、耳に粘りつくような演技もインパクトが強い。

その魅力といえば、何よりも妹想いなところだろう。自分とは違って整った容姿に生まれた堕姫のことを誇りに思っており、「かわいい妹」と直球で発言する場面も。宇髄との戦闘中には、堕姫の身を守ることを強く意識しながら戦っており、少年マンガの敵としては珍しい“守るべきもののために戦う男”だと言える。

そして妓夫太郎は妹・禰豆子を守るために戦う炭治郎の姿に、どこか自分を重ね合わせているような節があり、挙句の果てには炭治郎を鬼になるよう勧誘していた。残虐な鬼でありながら人間味を感じさせる部分があるため、そこに惹かれてしまったファンも多いのではないだろうか。

さらに堕姫と妓夫太郎の魅力といえば、やはり“兄妹としての絆”を語らないわけにはいかないだろう。彼らの絆は作中でもトップクラスに強固であり、その理由は人間だった頃のエピソードに関わっている。

2人が生まれたのは遊郭の最下層「羅生門河岸」で、極度の貧困に苛まれながらもお互いに支え合って生きていた過去をもつ。そこで妓夫太郎は醜い容姿、声などが理由で周囲から怪物のように忌み嫌われていた。それに対して人間時代の堕姫、“梅”は容姿に恵まれており、妓夫太郎にとって心の支えになっていたが、遊郭で客の侍に楯突いたことから、生きたまま焼かれるという仕打ちを受けてしまう。

その後鬼となった2人は、自分たちから何かを奪おうとする者を許さず、逆に他人から“取り立てる”側の強者として生きることを決意するのだった。

なお、妓夫太郎が堕姫を大切に想っているのと同じように、堕姫もまた妓夫太郎のことを強く慕っており、何度生まれ変わっても妹になると断言するほど。「遊郭編」の終盤、彼女が胸に秘めていた想いを爆発させる場面は、観る者の心を否応なしに揺さぶってくる名シーンだ。

とはいえ妓夫太郎は、堕姫を自分と同じような生き方に導いたことを後悔していた。彼女にはもっと幸せな人生があり得たのではないかと考え、自分から突き放そうとするのだ。たしかに妓夫太郎が教えた“奪われる前に相手から奪う”という生き様は、ある意味堕姫が不幸になった原因でもあった。

だが堕姫は妓夫太郎と離れることを決して選ばない。たとえ今より幸せに生きる道があったとしても、その決意は変わらなかっただろう。そして最終的に2人は、共に地獄に落ちるという運命を選ぶ……。

禰豆子と炭治郎は過酷な運命のなかで、ギリギリ最後の一線を踏みとどまることができたが、堕姫と妓夫太郎はその一線を踏み越えていった。不幸に生まれ、不幸に生きるしかなかった“もう1つの兄妹”の話を、「遊郭決戦編」であらためて噛みしめてほしい。
(文=キットゥン希美)

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