93年黄金カード復活に「感慨」 当時マリノスGK、現コーチの松永成立氏がアップ中に涙を流した日の記憶

ヴェルディ戦への特別な思いを語る横浜Mの松永コーチ=横須賀市久里浜のF・マリノススポーツパーク

 リーグ草創期を彩った「黄金カード」の復活だ。サッカーJ1横浜F・マリノスは25日、16年ぶりに昇格した東京ヴェルディと東京・国立競技場で対戦する。開幕戦ではヴェルディが川崎を本拠としていたリーグ初年度以来、実に31年ぶりの再戦。横浜MのGKコーチで、当時マリノスのゴールを守った元日本代表の松永成立氏(61)は「立場が変わってもこの雰囲気を味わわせてもらえるのは感慨深い」と胸を熱くしている。

 1993年5月15日。高揚感は鮮明に残っている。満員のスタンド。華やかなセレモニー。「日本リーグの頃は国立も芝生がない状態で、観客が500人くらいの中でやっていた人間なんで」。ウオーミングアップ中に涙を流したのは後にも先にもこの日だけだ。

 前半19分、左へ跳んだ松永氏の先でネットが揺れる。リーグ第1号を浴びた守護神はしかし、気高さを漂わせた。

 「勝敗にはそんなにこだわっていなかった」。なぜか─。突如訪れた夢のような日々は、新リーグが共感とともに継続されるかという先行きへの不安と背中合わせ。だから、「あのゴールを見に来た人たちが記憶にとどめ、リピーターになってくれないかなとしか考えていなかった」

 身震いするほどの熱狂から31年。世代は移り変わり、リーグの人気は安定したものとなった。

 「あの開幕戦を見てサッカーやキーパーに興味を持ったという声は結構聞いた」。掛け替えのない価値とともに、こうも思う。「悪いことではないが、選手がヨーロッパに行くようになった。今度は流出しないように、選手の質をキープしながら試合のレベルを上げていかないと」

 93年は日本サッカー界の大きな転換点に間違いはない。ただ、「僕らより昔から苦労された方たちがいたからこそ。その思いを後進に伝えていくことに意味がある」。木村和司氏、水沼貴史氏、金田喜稔氏…。先人らの名を挙げ、託された者の使命をかみしめる。

 三浦知良(ポルトガル2部・オリベイレンセ)、ラモス瑠偉氏、柱谷哲二氏らスター集団を相手に、31年前は2─1の逆転勝ちだった。「僕らがしのぎを削ったように、今度は新しいを歴史を築いていってほしい」。トリコロールと緑の競演には、独特の雅趣がある。

© 株式会社神奈川新聞社