中絶率、鹿児島は全国に比べ高水準 予期せぬ妊娠が背景? 医師「寄り添う社会に」

 人工妊娠中絶をする鹿児島県の女性の割合が、全国に比べ高い水準が続いている。人口当たりの実施率は2022年度までの10年間、1~7位で推移。中絶の背景には、性被害や貧困の絡む予期しない妊娠など複雑な事情も指摘される。中には周囲に妊娠を明かせないことから中絶を選べず、孤立出産の末、事件に発展することもある。

 厚生労働省の統計によると、22年度に県内の女性1652人が中絶をした。減少傾向ではあるものの、15歳以上50歳未満の女性人口千人当たりの中絶件数を表す実施率は6.0と全国7位。20年度は2位、15年度は1位だった。

 医師らが立ち会わない孤立出産などの末、乳児を遺棄する事件も発生している。21年5月、20代無職の女が鹿児島市の自宅で出産した男児の死体遺棄罪に問われた。22年9月には同市西別府町の無人販売所で生後間もない男児が発見された。鹿児島西署は保護責任者遺棄の疑いを視野に調べているが、遺棄した人物の特定には至っていない。

 こうした事件を防ごうと相談体制の充実を図る支援機関は、匿名性の確保と具体的な支援との両立にジレンマを抱えている。

 妊産婦らが対象の県の無料ネット相談「かごぷれホットライン」に携わる鹿児島大学医学部の根路銘(ねろめ)安仁教授によると、相談者は貧困や性被害、虐待経験を抱え、相手を信用するのが難しい人が一定数おり、匿名を強く希望するという。一方で、中絶は基本的にパートナーや配偶者の同意が必要で、費用の相場は10~60万円。手術できるのは指定された医師・病院のみ、妊娠20週を超えればさらに病院は限られる。

 病院探し一つとっても、周囲の支えは不可欠だ。ただ、身元が分からないと具体的な支援につなぐのは難しい。予期せぬ妊娠や中絶に対し「遊んでいる」「軽率」「人殺し」といった中傷も少なくなく、根路銘教授は「社会の偏見が中絶に踏み切りづらい状況を生んでいる」とも指摘する。

 熊本市の慈恵病院は病院担当者だけに身元を明かして出産する内密出産や赤ちゃんポストに取り組んでいる。蓮田健院長は「匿名を望む妊婦はみな、周囲から見捨てられたり、叱責(しっせき)されたりする恐怖に駆られていた」と強調する。

 赤ちゃんポストや内密出産を頼りに鹿児島から慈恵病院を訪れる人もいる。蓮田院長は「新生児の殺人・遺棄事件が起きると、乳児への同情や親への批判に終始しがち。事件の背景を考え、寄り添う社会に変わらなければ悲劇は繰り返される」と警鐘を鳴らす。

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