[社説]県民投票から5年 代執行は民意への冒涜

 名護市辺野古の米軍新基地建設に必要な埋め立ての賛否を問う県民投票から5年。あれから何が変わり、何が変わらなかったのか-。

 県民投票の投票資格者は115万3591人。投票率は52.48%で、埋め立てに「反対」は43万4273票(72.15%)に上った。

 反対票は「賛成」「どちらでもない」を合わせた票数を大幅に上回り、県知事が結果を尊重する義務が生じるとされる投票資格者の4分の1を大きく上回った。

 埋め立て反対は沖縄で明確に示された民意だ。

 対して政府は、県民投票の翌日も辺野古への土砂投入を強行した。

 民意を背に玉城デニー知事は軟弱地盤の改良工事に伴う設計変更申請を不承認としたものの、それに対しても「代執行」というかつてない強権を発動した。

 民意を冒涜(ぼうとく)する行為だ。県民投票という沖縄からのボールを、政府は代執行という最悪の手で返した。

 都道府県レベルの住民投票の実施には議会での可決という高いハードルがあり、他県では実現していない。

 一方、沖縄では1996年9月の「米軍基地の整理縮小と日米地位協定の見直し」を争点にした県民投票も合わせ2度実施された。

 背景には、人権や自治権を大きく制約し住民にさまざまな負担を強いる米軍基地問題がある。

 一連の県民投票で示されたのは、この国のいびつな安全保障政策に対する正当な異議申し立てだ。ないがしろにされていいわけはない。

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 しかしこの間、民意を顧みようとしない政府の姿勢は明らかだ。

 新基地建設を巡っては2013年、当時の安倍晋三首相がオバマ米大統領との面談で「辺野古への移設という約束を必ず守る」と話したという。

 以来、訴訟の提起や沖縄振興費の締め付けなど強硬姿勢はさらに強まっている。

 岸田文雄政権下でも地元の懸念を置き去りに自衛隊の配備強化が急速に進む。米軍と自衛隊の合同訓練は激化し、有事を想定した住民避難訓練が相次いで実施されている。

 軍事要塞(ようさい)化する中、安全保障面で重要な施設周辺や国境離島を対象とする土地利用規制法の区域指定で、個人の権利や自由な経済活動が侵害される懸念も膨らんでいる。

 構造的な基地押し付けを前提にした安保政策は、県民生活への侵食の度合いをますます強めている。

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 5年前、困難視された県民投票を実現に導いたのは沖縄の未来を考える若者たちだった。

 その一人、署名活動を主導した元山仁士郎さん(32)は今、新基地建設の是非を問う国民投票の実施に向け国会議員らと意見交換を進める。

 なぜ「辺野古が唯一」なのか。なぜ県外でないのか。辺野古の埋め立てに7割が反対という民意が問う先は、結局のところ国民である。

 それに対しての返答はいまだにない。問われているのはこの国の民主主義だ。

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