『光る君へ』猫・小麻呂が愛おし過ぎる! かわいいだけではない物語を動かす役割も

NHK大河ドラマ『光る君へ』で源倫子(黒木華)が飼っているキジシロの猫・小麻呂の人気が急上昇中。登場するたびに、その存在感が増している。第7回放送「おかしきことこそ」では、倫子に連れられ、平安貴族がたしなむ球技・打毬の観戦にも出かけた小麻呂。

招待されたまひろ(吉高由里子)とききょう(ファーストサマーウイカ)、つまり紫式部と清少納言と同じ場所から近い将来、左大臣家の婿となる倫子の一目惚れの相手、藤原道長(柄本佑)の見事なパフォーマンスを小麻呂も見ていたことになる。

競技が始まるまではおとなしく、いつものように赤い紐で結ばれ倫子の傍らにいたのだが、途中でまひろのそばに自ら移動して甘える小麻呂。その後雨が降りだし、雨の中逃げ出した小麻呂を探すまひろは、藤原道長や藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)らの会話を偶然聞いてしまった。まるで『源氏物語』の「雨夜の品定め」を再現するかのような、上から目線で女性についでの感想、好みを語り合う男子同士の会話のシーンに導いてくれたのは、小麻呂の功績だ。

ちなみに、紫式部は『源氏物語』全54帖のうち、どこから書き始めたのか諸説あるが、この五月雨の夜に貴族の男子が女性について語り合う「雨夜の品定め」が冒頭にある「帚木三帖」からという説が有力視されている。物語に登場するヒロイン空蝉と紫式部との共通点(身分は低いが教養もプライドもあるなど)が多く、貴族男子に品定めされる女性たちのエピソードはこれから始まる物語の予告編のようにも響く。

第5回放送「告白」の左大臣家のシーン。関白の藤原頼忠(橋爪淳)と右大臣の藤原兼家(段田安則)、左大臣・源雅信(益岡徹)が密談しているところに小麻呂が軽やかに現れたかと思ったら、「小麻呂」と声をあげながら倫子が通りすぎた。すぐに非礼を詫びたが、気遣いができて柔軟な対応のできる倫子らしくない行動に「右大臣への、あえての顔見せ(アピール)か?」という疑問も残した。

平安時代の高貴な姫は、日常において殿方に姿を見せることもなく、『源氏物語』の第34帖「若菜上」で小さい猫が逃げた勢いで御簾が捲れ上がり、女三の宮が柏木に姿を見られてしまう場面が印象的だ。本作の場合、物語が大きな動きを見せるきっかけとなる重要な場面には、小麻呂がかわいらしく存在している。まるで、主人公を誘うように不思議な魅力を発しているのだ。

いまの日本で猫が多くの人の心を癒し、深く愛されているように平安時代の貴族は中国から渡来した猫を唐猫と呼び、愛でていたようだ。紫式部も『源氏物語』に猫を描写し、清少納言も『枕草子』に猫について書いている。日本最古の猫にまつわる日記を残したのは倫子の曾祖父の宇多天皇。小麻呂が紐につながれているとはいえ、あんなにも自由に堂々と平安貴族の暮らしを楽しめているのは宇多天皇から引き継がれる猫を愛する魂のおかげなのかもしれない。

また、成長した一条天皇(塩野瑛久)も大切にしていた猫のことを「命婦の御許(みょうぶのおとど)という高い身分と敬称で呼ぶほどの愛猫家だった。一条天皇と藤原定子(高畑充希)の猫にまつわるエピソードも残っているので、今後も猫好きの心もがっちり掴まれる展開が待っていそうだ。まずは、小麻呂のますますの活躍とナチュラルすぎる才能あふれる演技に期待したい。

(文=池沢奈々見)

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