そば猪口、文様解き明かす 茨城・笠間の愛好家ら事典出版 300点、江戸の文化伝える

所蔵するそば猪口と飯田義之さん=笠間市内の自宅

そばつゆの器としてだけでなく、さまざまな使い方が楽しめる「そば猪口(ちょこ)」。動植物や故事にちなむ多彩な文様が魅力となっている。そうした物語を秘めた文様を解き明かす「そば猪口の文様 絵解き事典」が、茨城県笠間市の愛好家らによって出版された。華やかな色彩の器や呉須の青を基調とした器など、18世紀から幕末に作られた約300点を紹介。古典文学や縁起物を題材にした文様は、江戸庶民の教養や遊び心を伝えている。

本書は、県陶芸美術館友の会理事で焼き物愛好家の飯田義之さん(78)(笠間市)と、そば猪口の文様研究を長年続け、数々の著書を出してきた岸間健貪さん(76)(東京都)の共著。古典文学や歌舞伎にちなむ「物語」、中国や朝鮮の歴史に由来する「故事来歴」、松竹梅や龍(りゅう)を題材とする「植物・動物」、幾何学や俗信・迷信に基づく「装飾文様」-4章で構成している。

例えば古典文学の代表格、源氏物語に関する文様として17点を紹介。このうち二十三帖(ちょう)「初音(はつね)」の巻にちなんだ宝暦様式の器(1770~90年代)は、梅とウグイスが金色や朱で鮮やかに描かれ、平安時代の華やぐ風情が漂う。

装飾文様のうち言葉遊びにちなんだ文様では18点を取り上げている。二つの野菜の蕪(かぶ)を描いた天明様式の器(1780~1810年代)は、おいちょかぶで「九」を意味する「かぶ」を二つ並べることで、「二つの九」、すなわち「ふく=福」を表現。江戸庶民のしゃれ心を伝えている。

著者の一人、飯田さんは都内の大手出版社で30年以上、陶芸を主体に美術書の編集に携わった。陶芸家や評論家と交流する中で、焼き物への造詣を深め、骨董(こっとう)市などで江戸期の器を買い求めたという。本書に登場するそば猪口の約3割は、自身が所蔵する約200点の中から選んだ。

飯田さんは「そば猪口の文様は江戸時代の文化を色濃く反映し、芸術に対する庶民の教養の深さがしのばれる。気になった絵柄の解き明かしに活用していただければ」と話している。

「そば猪口の文様 絵解き事典」は2420円(税込み)。174ページ。問い合わせは講談社編集部(電)03(5319)2171。

★そば猪口 主にそばつゆを付けるために製作された器の総称。1630年ごろの江戸時代にそば食の流行をとともに生産が拡大。多くが有田を中心に肥前の窯で焼かれた磁器食器を指す。逆台形をし、直径が5~7センチ、高さが5~6センチのものが主流となる。「そば猪口」の名称が文献で確認されたのは、明治に入ってからだと言われている。

そば猪口の文様 絵解き事典

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