ジュビロ川島永嗣が示す真のプロフェッショナリズム。こだわり抜いた“基準”でチームをさらなる高みに

2010年以来の国内復帰を果たした40歳のベテラン守護神・川島永嗣(磐田)。彼の14年ぶりのJリーグ初戦となったのが、2月24日のJ1第1節・ヴィッセル神戸戦だ。

かつて日本代表で共闘した大迫勇也、山口蛍、酒井高徳、井手口陽介らがズラリと並ぶ昨季J1王者に対し、昇格組の磐田がどこまで戦えるのか。川島がチームをどう引き上げるのか。そこが大いに注目された一戦だった。

だが、激しい守備と縦への推進力を前面に押し出す相手に、磐田は序盤から苦しんだ。開始早々の5分には、右CKの流れから汰木康也にミドルシュートを決められ失点。今季に個人昇格してきた平川怜も「やっぱりプレースピードとかはJ2とは全然違う」とギャップを感じたという。

そういうなかで、川島は全くブレることなく声を出し、チーム全体を落ち着かせようとした。汰木のクロスに佐々木大樹が頭で合わせた至近距離のシュートには、鋭いセーブでゴールを死守。神戸が度重なる横からのボールで猛攻を見せた前半20~30分の時間帯も守備陣を鼓舞し、粘って2点目献上を阻止し続けた。

さらに41分には、扇原貴宏の長いボールを右手で弾いてピンチを救った。こういった一挙手一投足を通じて、川島は「強い相手に委縮することなく真っ向から対峙することの重要性」「先手を取る守備の大切さ」を示そうとしたのだろう。

だからこそ、後半立ち上がり49分の2失点目は本当に残念だった。

レオ・ゴメスのパスを扇原にカットされ、大迫にボールが出た瞬間、佐々木が一気に前線に抜け出し、そこに絶妙のスルーパスが通った。次の瞬間、川島は佐々木と1対1に。何とか駆け引きをして止めたかったが、相手の冷静さが上回り、股抜きで決められてしまった。

「ボールを失うことを恐れていては何もできないと思いますけど、やっぱり失い方っていうのは考えなければいけない。ああいうところで簡単にボールを奪われてしまうと、失点に繋がってしまうのは確か。時間帯を考えてプレーすることも必要だと思います」

川島は厳しい表情でコメントしたが、レオ・ゴメスが失った局面、佐々木に飛び出された局面を含め、リスク管理がしっかりできていたのかを磐田は再検証し、次に活かさなければならない。それがJ1残留、強豪復活の重要ポイントと言っていい。

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長年、プレーの細部にこだわり、高みを追い求めてきた川島の姿勢は、チーム全体にとって大きな助けになるはず。彼と同じ基準や目線で戦えるようになって初めて、磐田は大きな目標を達成できるのだ。

結局、磐田は昇格初陣を0-2で苦杯。J1王者の強度やスピード、攻守の切り替え、個々のタレント力を見せつけられる格好になった。

ただ、開幕戦で最高レベルを体感したことは、今後のJ1への適応を考えると大きなプラス。それは川島も強調していた点だ。

「僕が何かを言うよりも、今日、自分たち自身がピッチ上で感じたことが一番。フィジカル的なところや当たりだったり、プレッシャーの速さを目の当たりにして、どんな判断ができるかは非常に大切なこと。そこで自分たちを伸ばしていかないと、より厳しい戦いになってしまう。賢く戦わなければいけない部分は確実にある。試合を通して成長していかなければいけないと思います」

百戦錬磨の守護神の発言は、平川や大卒ルーキーの植村洋斗らJ1経験の少ない面々も痛感した部分ではないだろうか。

「熊本時代は自分がキャプテンをやって、チームの結果に対しての責任も感じながらプレーしてきたので、ここでももっともっと責任感を出してやっていく必要があると思います」と平川が言えば、植村も「去年のJ1王者といきなりやれて、課題も自信になった部分もあった。自分は失うものがないと思うので、どんどんチャレンジして成長していきたい」と前向きな姿勢を示していた。

彼らを筆頭にチーム全体がJ1基準に気づき、ピッチ上で体現できるようになれば、残留も見えてくる。そこは改めて肝に銘じるべきだ。

川島はキャンプの練習時から一番大きな声を出してチームを盛り上げ、プレーの厳しさを示してきたという。コンディション維持や準備、ケアなどオフ・ザ・ピッチの部分でも真のプロフェッショナリズムを見せている模様だ。そういった「生きる模範」を間近で見ることは、磐田の面々にとって最高の学びになるに違いない。

数々の修羅場をくぐってきた男を中心に、磐田が目に見えるレベルアップを遂げ、シーズン終盤には上位とそん色ない戦いができるチームになっていれば、横内昭展監督にとっても理想的。まずは3月1日の次戦・川崎フロンターレ戦に期待したいところだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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