同い年の夫逝去→年金が「月6万円」に減額、窮地の70歳妻…ある日届いた、年金機構からの「緑色の封筒」に救われたワケ【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

終わりの見えない物価高。暮らしに欠かせないものが大きく値上がりしているため、特に年金が頼りの高齢者への影響は多大なものでしょう。本記事ではAさんの事例とともに、そんな年金生活者をわずかながらサポートする制度について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

高齢期の生活を支える年金が少ない…

公的年金は、「2階建て年金」といわれています。日本に住所を有する20歳から60歳の人は、国民年金の第1号から第3号のいずれかに属しています。国民年金の第2号被保険者である、会社員や公務員などの人には、上乗せである厚生年金保険に加入し、2階建て部分も受け取ることができます。

国民年金第1号被保険者である、自営業者やフリーランスの人と第3号被保険者である、専業主婦(夫)、第2号被保険者の被扶養配偶者には上乗せの年金はありません。2023年度の老齢基礎年金(国民年金)の満額は年額79万5,000円(月額6万6,250円)です。物価高が続くなか、老齢基礎年金のみでの生活は難しい状況だといえるでしょう。

食堂を営む夫婦を襲った悲劇

Aさん夫婦は、2人とも70歳で同い年。Aさん夫婦を知る人はみんな口をそろえて「おしどり夫婦」といいます。その理由は、20代のころ自宅の1階で大衆食堂を開業し、長い年数、夫婦が力を合わせたことで、知る人ぞ知る煮物料理が特に美味しいと評判の、地元で愛されるお店へと育て上げたからです。

さらに、お店に入ったときの夫婦の明るい笑顔、入店時「いらっしゃい~」、退店時「また来てね。行ってらっしゃい」と明るい声が店内に響きわたります。提供される定食は、日替わりのメインのおかずだけでなく、数種類の小鉢のサービスがあるのも嬉しく、また何度でも来たいという、常連らでいつも賑わっているお店です。

そんなある日、食堂のシャッターに「しばらくお休みします」の張り紙が……。

近所の人や常連らは、心配していました。そして張り紙が出されてから少し経ったころ、悪い予感は的中し、実はAさんの夫が心不全により、突然亡くなったことが知らされたのでした。

夫婦で切り盛りしていた食堂。夫を突然亡くし、Aさんは放心状態です。それでも容赦なく時間は流れていきます。

これからの年金収入はAさんの、公的年金である老齢基礎年金である年額約72万円(月額6万円)となってしまいました。夫は個人事業主だったため、遺族年金はありません。

持ち前の明るい性格と頑張り屋さんのAさんは、夫とのお店をなんとか守っていこうと、お店を再開します。近所の人の応援もあり、夫と築いたお店を続けていくことで、Aさんの生活はなんとかやりくりできています。

さらなる追い打ち

Aさんが1人でお店をきりもりするのは大変です。経営状態的に新しい人を雇う余裕はありません。しかし、いままで2人でやってきたことを1人ですべて賄うのには限度があります。さらに物価高により、材料費等が嵩んで経営を圧迫していきます。

そのような折、無理がたたってか、腰痛が酷くなり、Aさんは仕事が思うようにできなくなりました。

夫と一緒に少しずつ貯めた貯金がどんどん減っていく通帳を見ながら、やりがいも収入も奪われて、いったい今後どう生きていけばいいのか……。Aさんは途方に暮れます。

今回ばかりは、Aさんの落ち込みは相当なものです。精神的にも気丈だったAさんでしたが、腰痛が長引き、厨房に立つことができなくなりました。しばらくお店を休んで治療とこれからのことについて考えることにしました。ひとり静かに過ごす日常は、とても寂しく辛いことです。亡き夫を思い出し、気が付くと涙が溢れてしまいます。

自宅ポストに届いた「緑色の封筒」

そんなある日、自宅ポストに「緑色の封筒」が届きました。

「なにかしら?」差出人は日本年金機構。すでに年金は受け取っているのにと、封を開けてみると「年金生活者支援給付金請求書」が入っていました。Aさんは中身を読んでも内容がよくわからなかったので、近くの年金事務所を訪れ、説明を聞いてみることにします。

職員からの説明によると、65歳以上で年金を受給している人で、下記の支給要件をすべて満たしている方が「年金生活者支援給付金」の支給対象とのことでした。

(1)65歳以上の老齢基礎年金の受給者
(2)同一世帯の全員が市町村民税非課税
(3)前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が878,900円以下

ただし、上記の要件に、障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれません。なお、77万8,900円を超え87万8,900円以下である人は、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます(2023年度額)。

年金生活者支援給付金は、消費税が10%にあがったことを機に始まった年金受給者の生活を支援するための制度です。

Aさんは、収入が低下したことにより、新たに年金生活者支援給付金の支給対象となったため、届いたようです。

年金生活者支援給付金で受け取れる額

年金生活者支援給付金は原則、請求した翌月から受け取ることができます。Aさんも早速、請求しました。給付金はふた月に一度、老齢年金と同じ日に振り込まれ、Aさんは年額6万1,680円(月額5,140円)受け取ることができます。

Aさんは、「ありがたいです。少しでもいただけると助かります。落ち込んでいては夫が心配しますね。頑張って徐々にお店を再開させます!」と前向きな気持ちを語ります。

今後、仕事を本格的に再開すると、支援金は所得情報等により、支給されなくなる可能性があります。「支給されなくなるということは、それだけ元気になったということなんですよね」と、夫とのお店を守るためにAさんは元気を取り戻し、前向きに進もうとしています。

<参考>

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

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