“王者のスタンダード”を取り戻した神戸。強い縦志向も、後ろからのつなぎも。切り替えがより明確になった

2月24日の開幕戦。昨シーズンのJ1王者であるヴィッセル神戸は、ヤマハスタジアムで昇格組のジュビロ磐田に2-0で勝利し、幸先の良いスタートを切った。

神戸はプレシーズンマッチのインテル・マイアミ戦が0-0(PK戦により勝利)、そして川崎フロンターレとの富士フイルム・スーパーカップでは0-1の敗戦を喫し、今年最初のタイトルを逃していた。

「(スーパー杯の)影響はかなり大きいと思います。自分自身も今週の1週間は修正というか、確認というか。もう一度、選手とみんなで話して、今日のパフォーマンスにつながった」

そう語るのは吉田孝行監督だ。スーパー杯では、川崎が4日前のACLから完全ターンオーバーだったこともあり、神戸有利の声も多く見られた。だが蓋を開けてみると、川崎がエースの大迫勇也をタイトにチェックしたうえで、セカンドボールを拾ったら素早くスペースに運ぶなど、目に見えて神戸対策が反映される試合展開だった。

神戸は川崎の守備を前にパススピードが上がらず、ロングボールも対応されたことで、攻撃が停滞気味になっていた。DF山川哲史も川崎戦については「相手が実際に今年ありそうなヴィッセル対策をしてきた」と振り返る。

開幕戦に向けて吉田監督は「自分たちのやっていたことを再確認した」と語るように、選手たちと確認したのは、本来の自分たちのスタンダードという部分だったようだ。実際に目に見えて変わったのはテンポの早さで、本来パスワークをベースに攻勢をかけるスタイルの磐田から主導権を奪った。

「細かい立ち位置とかもしっかりと、この試合に向けて修正できましたし、今日のピッチでもあったんですけど、そこも選手たちがしっかり確認してゲームで対応してくれた」

神戸と言えば真っ先にイメージされるのは、強度の高いハイプレスとショートカウンターに効果的なロングボールを織り交ぜた、縦志向の強いスタイルだ。しかし、それをひたすら押し通すだけで、多様な相手を全て上回っていくことはできない。

去年も状況によって自陣からつなぐことはあったし、後ろの守備で耐えることはあったが、磐田戦を見ると、そうした切り替えがより明確になっているようだ。

【動画】汰木&佐々木弾で神戸が2-0勝利!

「90分プレッシングというのはかなりきついと思うので、そこは時間帯とか状況によって、コンパクトにするところとプレスに行くところ、そこはうまく使い分けてくれた」

そう振り返る吉田監督は、攻撃におけるポゼッションについて「繋ぐところもピッチ状況を考えながら。相手のプレスの度合いも見ながら、しっかりと良い判断ができたかなと思います」と手応えを語った。

開始5分の汰木康也による得点シーンはセットプレーの流れだったし、49分の追加点は神戸の得意な形である、中盤でボールを奪ってからのショートカウンターだった。

しかし、2センターに左サイドバックの初瀬亮が加わる形で、自陣からボールを動かしながら、サイドチェンジを織り交ぜて、左右のクロスからもチャンスを作るなど、ショートカウンターと大迫をターゲットにしたロングボールだけに頼るのではなく、メリハリのある攻撃の中に強みを出していく意識がはっきりしているのは印象的だ。

磐田もJ1王者の神戸を相手に、自分たちのスタイルをぶつける形で来たところもあり、神戸にとっては開幕戦の相手としてある種、やりやすかった部分もあるかもしれない。

それでも左サイドでスタメンに抜擢された汰木について、「競争心に火がついて活躍してくれたのは、彼にとってもそうだし、チームにとっても本当にプラスになる」と吉田監督が評価するように、ミドルシュートからの得点だけでなく、左のアウトサイドで持ち味を発揮すれば、新戦力の井手口陽介も豊富な運動量を攻守に活かして、神戸に新たなエネルギーをもたらせることを証明したのは大きい。

次節は柏レイソルとのホーム開幕戦、そしてFC東京とのアウェーゲーム、さらに浦和レッズを破ったサンフレッチェ広島戦と続いていくが、開幕戦でしっかりと自信を取り戻した神戸が、着実に上位争いに絡んでくることを予感させる勝利となった。

取材・文●河治良幸

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