「子どもだけでの留守番は虐待!?」波紋を呼んだ埼玉県の「子ども放置禁止条例案」。子どもの安全をどう考える?ママ・パパから届いた賛否の声

引用元:west/gettyimages

今回のテーマは、「子どもの安全」についてです。少し前に、埼玉県議会で提案され、子育ての実態にそぐわないという理由で、すぐに取り下げられた「子ども放置禁止条例案」も記憶に新しいかと思います。
そこで、「たまひよ」アプリユーザーのリアルな意見とともに、子育てアドバイザーの高祖常子さんに、条例案の問題点や子どもを守るためにできることなどについて聞きました。

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反対の声が多かったものの、「子どもを守るため」に、一部の考え方には賛成という声も…

最初にリアル子育て世代の声を紹介します。

「現実的には難しいと思う」子育ての現状に合っていない!反対の声

「家に子どもを放置してパチンコや飲みに出かけたり…などは、逮捕するべきだと思うけど、ちょっとゴミ出し行くなどは、子どもの安全を確保した状態であれば良いと思う。どうしてもの用事がある短時間の放置も禁止とするならば、そういう時はどうしたら良いのかの対策をセットで教えてもらいたいです」(すず)

「反対!」(にゃんたろす)

「反対です。留守番といっても安全対策をしていたり、何かあった時の連絡先を教えていたりなど、工夫はしているはず。それを一律に罰するのは、親を追い詰めるし、子どもにもしわ寄せがいくと思います」(うきたろ)

「厳しすぎるというのが率直な意見です。みんながみんな、希望の時間に退勤できるわけではないので、可決されると親は働くことができなくなるし、より子どもを望まない人が増えると感じました」(あなご)

「0か100だな~と思ってしまった。もう少し世間の親の意見を聞いてから、取り組んでほしかった。いろんな悲しい事件があるし、条例を作ろうとした気持ちはわかるけれど…」(さこまる)

「夫婦共働きだと、少なからず子どもだけで家で待たせることがありました。低学年だけの登下校もあるので、それが禁止されると仕事にも影響が出てくると思います。田舎と都会の状況(地域の目)の違いもあると思いますが、現実離れした条例が提案されたと感じました」(久しぶりに妊娠したママ)

「言いたいことはわかるけど、現実的ではないなぁと思いました。24時間365日、いつでもどこでもどんな理由でも、無料で迅速に駆けつけて何でもしてくれるシッターさんを整備してくれないと無理だろうと思います」(かず)

「子どもを1人にしないという考え方には共感するが、海外の真似をするにはあまりに周囲の制度が置いてけぼりで、子育てをしたことがない人の意見、もしくは家に常にお手伝いさんや大人の目があって、それが当たり前な環境で育てられてきた人の意見だと思った」(ナム)

「今の日本社会では、なかなか非現実的な条例だと感じた。そこに至るまでの根本的なもの(注目部分)は良かったけれど、子育てをしている人たちの現状と社会の現状がつかめていない内容だった。
また、今の社会であの条例が施行されたら、結果的に子どもの学ぶ機会も奪うことになりかねない。もっと市民の生活の現状を見て、必要な制度や対策を整えた上で検討すれば、本当の意味で子どもを守るための条例になると思った」(ぴよ)

「子どもを守りたい」現実的には厳しい部分もあるが、一部の考え方は理解できる!の声

「一部の内容は実際には難しい項目もありましたが、社会全体で見守れるような構図ができるのは良いことだと思います」(ぽのまま)

「一部の考え方には賛成。子どもを守りたい気持ちからの発案だと思うので、もっと現実に即した形になるように議論すべき」(ぶんぶん)

「一部の考えには同意。夏には車に子どもを放置した事件も発生し、心が痛みました。何かしら手を打って、子どもの放置がなくなるように対策すべきだとは思う。
でも、ほんの数分のゴミ捨てもできないというのは非現実的。何分以上とか、こんな用事はダメとか、細かいルールまで指定することは難しいのも理解できる。禁止にしないと甘く考えて子どもを危険に晒す親がいるので、条例で縛りたかったのも理解できる。
現状では、あの条例は無理があると感じた。時間をかけて、実際に子育てをした人たちの声を聞いて決めたらいいと思った」(かきはる)

「子どもの安全をどのように守るべきか。まずはその議論と環境整備を」と専門家

賛否いろいろな声が届きました。
この条例案は、大人の不注意で子どもを犠牲にするのはやめようという主旨だとは思いますが、現在の日本ではその法律を実際に守ることがむずかしいのも事実。

そこで、子育てアドバイザーの高祖常子さんに、どんな点が問題だったのか、そして子どもの安全を守るためには今後どうしていけばいいのかを聞きました。

「『言いたいことはわかるけど、現実的ではないなぁ』(かずさん)のコメントは多くの方が感じたところなのではないでしょうか。一部の考え方には賛成・同意という意見もあり、みなさん、しっかりと原案を確認したうえでコメントくださっていると思いました。

今回の埼玉の『子ども放置禁止条例案』は、子育て環境が整っていない中で、子どもの安全確保を親にのみ強いるということが前面に出されたことが問題だったと思います。

そもそもベビーシッター利用なども少なく、残業もある共働き家庭が多い今の状態で、小学校が終わる時間に親が迎えに行くということ自体が、不可能と言えるでしょう。

アメリカや北欧などでは、『10歳(または12歳)以下の子どもを家に残す、子どもだけで外を歩かせるなどは、虐待で通報される』と言われています。もちろん法律で年齢を明記して禁止している国や州もあるのですが、すべてではないようです。
ある国に在住している方に聞きましたが、最初『法律で禁止されている』との話だったので、『どの法律に書いてあるか教えて欲しい』と聞いたところ、『具体的な記述がなかった』という返事がありました。たぶんそれは、その国の文化になっていたということなのでしょう。

もちろん、乳幼児を残した状態で短い時間でも外出するということは、その間に災害や事故があったときに子どもをすぐに守ることができません。ただ日本の場合は、小学生になったら子どもだけで学校に行ったり、近所なら遊びに行ったりすることもあります。それは、ここは安全であるということがベースになっているからでしょう。

アメリカや北欧などが、10歳(12歳)までは子どもだけで外を歩かせないということを当たり前にできているのは、ベビーシッターの利用や、親(大人)が送迎することが定着しているからです。ここは親の働き方(残業をしない文化など)の背景もあると思います。

子どもの安全を守るという考え方はとても大事なことです。
ただし、埼玉の『子ども放置禁止条例案』のような考え方の前に、定時で終わる働き方やファミリーサポートの利用、学童保育の充実など、整備すべき事柄がたくさんあります。そのような子育て環境を整えつつ、子どもの安全を守るにはどうしたらいいのかを親の責任だけでなく、社会全体で共有していくことがまずは必要なのだと思います」(高祖常子さん)

「子どもを守る」ために必要なことや問題が改善できるように、今回の条例案が検討された背景などについて、当事者だけでなく、多くの人が知って議論できるようになるといいと思いました。
(取材・文/メディア・ビュー 橋本真理子)

高祖常子さん

PROFILE)
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。保育士、幼稚園教諭、社会教育主事、ピアカウンセラーなどの資格を持つ。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか。全国13万部発行の「育児情報誌miku」編集長として14年活躍。育児誌を中心に編集・執筆を続けながら、子どもの虐待防止と、家族の笑顔を増やすための講演活動、ボランティア活動を行う。3児の母。著書多数。

※文中のコメントは「たまひよ」アプリユーザーから集めた体験談を再編集したものです。
※記事の内容は2023年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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