本格派のバーのような台中『三生有幸』で、こだわりのウイスキーと牛肉麺を堪能【台湾散歩案内】

牛肉麵(ニュウロウミィエン)は、台湾定番の汁そば。台湾人のソウルフードである。汁は八角が隠し味の濃い目の醤油スープが基本で、それに平白麺という、かん水を用いない独特の食感のうどん風の中華麺を使う。ラーメンとうどんの中間ぐらいの料理。日本でも最近は、台湾の有名なお手軽牛肉麺チェーン店『三商巧福』が上陸し、そこ以外でも最近増えてきた台湾料理をかかげる店で、試してみることができる。そんなこともあって少し食べ慣れてきたところで、台中に行った折、地元の友人から面白い高級牛肉麺の店があるよと教えてもらい、修業を積みにでかけてみた。

壁にはウイスキーの酒瓶がずらり

店の名は『三生有幸(サンシャンヨウシン)』。
これは「前世、今世、来世の三世に渡る幸せ」という意味の熟語で、眩(まばゆ)いばかりのとんでもない店名である。幸せのお目こぼしにあずかれるだけで十分ですとかかんとか思いながら、開店直後の昼時に入店。席数が少ないので予約しておいたものの、平日だったせいか空いている。

個人経営の街喫茶サイズの清潔な店内に、ゆったりしたテーブル席3席、向かいの壁に1人掛けが幾つか並んでいる。壁には高級ウィスキーの酒瓶がずらり。目に着く大半が、知る人ぞ知るブランド「スコッチ・ユニバース」という、凝りまくった品揃えである。本格派のバーが、ランチ限定でこだわりの牛肉麺を趣味で出しているようにしか見えない。しかし、看板を見上げて改めて確認してみたが、あくまでここは牛肉麺店である。

主とおぼしき女性が、ニーハオと迎え入れてくれ、テーブル席に着く。卓上に小ぶりのデカンタがあり、琥珀色の液体がワン・フィンガーほど入っている。オシャレな調味料かなと思いきや、何とスコッチである。ちょっとしたおつまみも出てきて、アルコールOKなら飲んでねと店主。つまりこれ、食前酒なのだ。あくまでも食前酒なので、量も泥酔しない程度に抑えて供している模様。かすかなクセとほんのりとした甘味が口内に広がり、飲みやすくてかなりイケる。「很好喝啊〜(おいしいですねえ)」と告げると、店の牛肉麺にマッチする酒を選んでいるとのこと。斜め上をゆくコダワリぶりが、個人的にツボである。しかも真っ昼間だし。

メインの牛肉麺にデザートも付いて、よそでは得がたい満足感

グラスに継ぎ足しちびちびやっていると、メインの牛肉麺が器に蓋をされた状態で登場。箸入れ(葉巻の木箱)から箸を取り出し待ち受ける。

店主が蓋を開き、うやうやしく汁を注ぎいれる。なるだけ麺がのびないうちに食べてもらおうという配慮のようだ。説明書きによると太すぎず細すぎずの0.37㎝の太さにこだわり、絶妙の弾力で供する麺なのだそうな。肉は頬肉とすじ肉を圧力釜で煮込んだもので、噛めばほろりの食感もよし。それらをまとめあげる角のない奥深くてまろやかな汁。食前に飲んだスコッチのほのかに舌先に残る甘味が、汁のうまさをより引き出している印象。品があってさすがにうまい。

デザートはツバメの巣を使った自家製ゼリー。これまたオレンジワインが隠し味に使われているという酒三昧である(酔うことはない)。さっぱりめの味が口をまとめてくれる。

コース仕立ての半筋半肉牛肉麺500元=約2000円なり。お手軽な『三商巧福』だと単品で200元しないから、普段使いにはちと高い。けれど“こだわりのスコッチを軽く飲んでおいしく締めの汁そばを食べました”感には、よそでは得がたい独特の満足感がある。台湾散策で出くわす一食としては断然OKの名品だと思う。

店のある場所は、土庫里(トゥクーリー)というエリア。ここ数年、小さな雑貨店やカフェ、『三生有幸』のようなクセ物美味店がどんどん増えている地元の穴場エリアである。台中観光というと駅前をちょっだけ覗くだけっていうパターンが多いけど、台中はもう一歩中心部に入り込んで楽しんでこそ堪能できる面白い街なのだ。

三生有幸(サンシャンヨウシン) 住所:台中市五權五街82-7號/営業時間:13:00〜21:30(土・日は12:00〜)/定休日:無

取材・文・撮影=奥谷道草

奥谷道草
ライター
東京生まれ。MOOK『散歩の達人 台湾さんぽ』を執筆。都心部の道草散歩歴は半世紀あまり。月刊「散歩の達人」で独特のセンスと経験を駆使し、散歩ライターとして雑貨を中心に、喫茶・エスニックなどの企画を取材執筆。2010 年から台湾に夫婦でハマる。以後二人して中国語を学びつつ、主に首都台北をはみだし、各地方の魅力ある街あるきを模索散策。書籍は15 年『オモシロはみだし台湾さんぽ』、18 年に続編にあたる『もっとオモシロはみだし台湾さんぽ』を上梓。

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