【ブギウギ】ライバルキャラとしての描写は激アツ!りつ子(菊地凛子)はスズ子(趣里)の最大のファンであるかに見える

「ブギウギ」第100回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。毎朝、スズ子に元気をもらえる作品「ブギウギ」で、より深く、朝ドラの世界へ!

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趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第21週「あんたが笑えば、私も笑う」が放送された。

「あの子はもう、おしまいね」
りつ子(菊地凛子)の発言が世の中をかけめぐる。ゴシップ誌記者・鮫島(みのすけ)による、今で言う“切り取り記事”のようなものだ。

タナケンこと棚橋(生瀬勝久)の主演映画「タナケン福来のドタバタ夫婦喧嘩」への出演が決まり、撮影現場に愛子を連れていくが、愛子が現場で怪我をして撮影がストップするなど迷惑をかけてしまう。映画撮影、子育てに追われ、歌に向き合う時間がとれないことをりつ子は気にするのだった。小さな子供をもつ女性が一人で働くこと、ネットニュースのような切り取られ方、当時も現代と重なるような部分は興味深い。

りつ子の言うことにも一理ある。自伝の執筆に時間を割いてはというマネジャーの提案を「歌手が歌わないでどうするの!」と一喝するような歌手としてのプライドをもっている。同じ志をもつ歌手としてのライバルなだけに、やはりスズ子にもいい歌を歌い続けてほしい、理解者であり、ある意味最大のファンでもあるようにも見えるところはライバルキャラの描写としては激アツだ。歌を歌ってこそのスズ子であり、歌があるからこその映画出演でもあるわけだ。それは棚橋もよく理解している。

完成した映画の場面が劇中で流されたが、この再現度の高さにも驚いた。ステージのパフォーマンスの雰囲気ばかりでなく、作中での再現度の高さへのこだわりがこのドラマの大きな魅力である気がする。

「ブギウギ第97回より(C)NHK

そして21週のひとつの注目ポイントは、愛子の面倒と家事のために突如福来家にやってきた、家政婦の大野(木野花)である。大野はりつ子が送り込んだ家政婦。対談は鮫島の煽りに憤慨したスズ子が退室する形で終了したが、さりげない気遣いをしてくれるのが、いかにもりつ子らしい。

そして、朝ドラでの木野花といえば、多くの人が「あまちゃん」に登場した“メガネ会計ババア”の名前を今なお思い出すようで、地上波本放送後の「あさイチ」では華丸・大吉がその名をつぶやき、SNS上でもトレンド入り。ネーミングのパンチ力は、ブギウギワールドにも引き継がれて “メガネ会計ババア”と呼ばれる強さを改めて実感した。

「ブギウギ」第101回より(C)NHK

鮫島の誘導で、りつ子に「ブギは終わり」と言われたことに反発し、羽鳥もそろそろ別の曲調の新曲を提案するが、スズ子はあくまでもブギを歌いたいと主張する。しかし、りつ子のブギは終わりという言葉に、「その喧嘩、買おうじゃないか」と触発されアイデアがひらめく。

羽鳥が曲を作り始めたと知り、鮫島に向かって「目障りよ、消えなさい」と言い放ち、スズ子の家を訪れ対談の非をわびるりつ子。そういう強い正義をもつ部分も含め、ひたすら人気キャラの要素をもつ登場人物だ。そしてその言葉に絶句して負け惜しみのような言葉を吐き捨てて去っていく鮫島の小物感も見逃せないポイントだ。

こうして出来上がったのが「ヘイヘイブギー」。驚いたのは、この「ヘイヘイブギー」もまた、これまでのように金曜放送回の終盤にステージで華麗にパフォーマンスを披露するものと思っていたら、愛子に子守唄のようにこの歌を聞かせたことだ。これまでのようにステージで激しく歌って踊るのではなく、穏やかなトーンで最愛の娘に歌いかけるという、「外す」演出の見事さ。

羽鳥は「恋の歌」としてこの曲を作ったが、スズ子は「これはあんたとママの歌やで」と微笑みかける。親子の愛の歌として歌いかけるスズ子。「元気が出る」方向とはまた違う活かし方は、スズ子がまた歌手として新たな武器を手に入れ、違うステージに行ったことを思わせる。

スズ子とりつ子の思い、置かれる状況がそれぞれ大きく掘り下げられ、そこに棚橋の映画、鮫島のゴシップ、羽鳥の新曲と、情報量の多い週だったかもしれない。それを「散漫」と感じたり、そもそも鮫島のゲスさが無理と感じたりした視聴者もいたようだが、詰め込まれた情報の濃密さは突出した週だったのではないだろうか。

「あんたが笑えば、私も笑う」、愛子が朗らかに笑ってくれることが、スズ子の生きる力となる。

さて次週、「ワテ」を主語とする関西弁ブギが、いよいよ登場する。

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