『仮面ライダー555』半田健人、熱く語る。AVIOTの“ファイズイヤホン”はコラボモデルの「上の上」

2023年の年末。AVIOTから『仮面ライダー555』コラボイヤホンが発売されるというニュースが舞い込んできた。

真っ先にリリース記事化に手を上げ、その詳細を見てみると「あ、これ“わかってる人”が作ってるわ」というこだわりぶり。まるで作品世界にありそうなデザインは言うまでもなく、『仮面ライダー555』で主人公・乾巧(いぬいたくみ)を演じた半田健人さんを音質チューニング担当として招聘しているのだ。ただの「作品の周年記念」アイテムではこの領域に手が届かないと思う。

一見すると「役者さんがイヤホンのチューニング?」と、なるかもしれないが、半田さんは自身で楽曲制作を行い、宅録でアルバム作品を作り上げる程のお方なのだ。

大の特撮マニアを自認する記者。義務教育時代から『仮面ライダー555』を好きで居続け、半田さんのオーディオ活動を多少なりとも知る者としても、AVメディアならではの立場で切り込めないか……と、コラボモデルについてAVIOTさんに打診してみたところ「アクセルフォームか」という速度感で半田健人さんへの取材が決まった。作品にまつわる想いはもちろん、「TE-D01v-555」をフィーチャーしながら半田健人さんにオーディオに対する様々なことを伺ってみた。

「TE-D01v-555」

───本日はよろしくお願いいたします。半田さんはSNSプロフィールに趣味「オーディオ」と書かれていますが、今回のコラボモデルのお話が来た際の心境を改めて教えて頂けますか?

半田健人さん(以下:半田) 「予想外」ですよね。作品の20周年で映画(Vシネクスト『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』)をやる。関連する新しいキャラクターグッズはいくつか出るだろうって予感はしてたんですけど、一見関係ないようなイヤホンが来たっていうのはまさかという感じでした。

───東映さんの特撮作品で◯周年記念作品というのも珍しい話ではなくなりましたが、仰る通りイヤホンのコラボレーションモデルが出るというのはレアなケースです。

今回のコラボモデル「TE-D01v-555」 は「完全ワイヤレスイヤホン」という商品形態ですが、AVIOTの公式YouTubeチャンネルにアップされている「スペシャルインタビュー」では、「昔はワイヤレス否定派」だと仰っていました。「ワイヤレス、いいかもな?」と考えを改めるキッカケになった理由を詳しくお話しいただけますか?

半田 ワイヤレスがいいというより、僕、ある時期までサブスクを一切やってなかったんですね。もう音楽を聞くといえば、レコードとか、CDとか。ソフトありきで聴いてて、外で音楽を聴く時もウォークマン。レコード屋巡りも好きなので、そこで買ったCDをその場で聴くために、ポータブルのCDプレーヤーもカバンに入れていたりします。そういう聴き方をしてるとイヤホンの選択肢がワイヤードになる。

そんな中ちょっと仕事で「Spotifyのプレイリストを作ってくれ」とお願いされて、その流れでサブスクを始めたんですね。そうなってくると自ずとスマホで音楽を聴く。最初のうちはスマホにケーブル挿して音楽を聴いていたんですけど、自分の中で違和感があって……。こう、新しいものと、古いものの組み合わせに漠然と違和感が(笑)。

あと、Lightningコネクタとステレオミニの変換を噛ませてしまうと、使っていたイヤホン本来の音が鳴らない印象でした。いろんなメーカーのやつを試したんだけど、僕が今まで他のプレーヤーから出した時に聴けるような音で聴けなくて。原因は分からずじまいだったけれども、サブスク音源、スマートフォンとワイヤードとの相性が悪いんだな、という肌感がありました。

以前、友達のワイヤレスイヤホンをちょこっと借りた時にケーブルがないだけでね「あー、いいんだな」という便利さはわかったんですよ。そこで5〜6000円ぐらいのやつを試しに買ったのが最初でね。煩わしさから解放されましたけど、やっぱり音質が良くなくて。

時期的なものもあったのかな。コロナ禍の前くらいに買ったので、その頃のワイヤレスって、今とだいぶ技術の差がありましたからね。当時の上位機種と言われるものでも試したんですけど、やっぱり有線にはかなわなかった。それだったら安いモデルでもいいやと諦めていた覚えがあります。

───諦めていたところから……?

半田 そう、諦めていたところから。やっぱり使っていくと、サブスクの便利さっていうのを実感してくるわけですよね。外で音楽を聴く割合が日に日にサブスクによるものが多くなっていくんですよ。

僕は昭和の古い曲が好きなんですけど、サブスクを使い始めた2020年くらいのときは「何でこの人が配信されてないんだよ」みたいに抜けがありました。でも、最近では網羅し始めて「本当にサブスク便利!」みたいな状況になってきた。

その中でもう少しリスニング環境を良くしたいという気持ちも芽生えて、何個かイヤホンを試していく中で、「ワイヤレスイヤホンも日進月歩なんだな」というのを実感しました。サブスクで音楽を聴くツールとしては「ワイヤレスイヤホンの方が良いだろう」という考えに変わって行きましたね。

ただ、相性の問題もあると思います。実際ワイヤードを否定するつもりはないですし。本音を言うと今もワイヤードの方が良いんですけど、出口の問題なのか、ソースの問題なのか、 (スマホとの接続で)イヤホンの良さが発揮されないんですよね。特に抵抗値が高いものなんかになるとですね、パワーが足りなくて全然駆動できない。イヤホン本来のカラーが出ないんですよ。

───ポータブルオーディオマニアの方は、有線イヤホンを使う際にスマホとの間にポータブルアンプを噛ませていたりますね。

半田 一時期、僕もウォークマンにボタアンをつけていた時期もありました。そのこだわりも、趣味として楽しいところはあるんですけど、やっぱり外で音楽を聞くっていうのは、僕の中では、ある程度割り切りが大事だなと。

───ご自宅でオーディオ楽しむ際には、どのような機材を使われているか教えてください。

半田 ヘッドホンで聞くことは多いです。もう10年くらい「家ではずっとこれ」というのがSTAXの機材ですね。現行品では無いですけどアンプが「SRA-3S」ヘッドホンが「SR-3」。ともに昭和43年(1968年)の発売で、これが僕の中では完璧。ヘッドホン環境では未だにこのシステムを超えるものは無いですね!

───物はそろそろ60年選手という機材ですが、どれくらい前にこのシステムに行き着いた形でしょうか?

半田 最初に買ったのはね、もう10年ぐらい前かな。SR-3の前モデルにあたる「SR-1」(1960年発売の世界初となるコンデンサー型ヘッドホン) も持っているんですけど、これは良い感じの「古い音」が鳴る。これはこれで味が出ますけど、今使っているSR-3の方が現代的ですね。とはいえこんな古い物なんですけど、本当に「今の機材、頑張って」って言いたいですね。「じじいに負けてるよ!」みたいなね(笑)。

───ちなみにSTAXの新しいモデルを試したことはありますか?

半田 現行品も試しましたよ! 一時期買おうとしていたんですけど、その買おうかなというタイミングでヴィンテージ品を手に入れて「こっちの方が好きだな」ってなりまして、結局今のモデルは買えてないんですよね。今のモデルもすごく良いですけど、カラーが違いますよね。真空管アンプとの組み合わせは、僕の聴く音楽にはあうんですよね。

───聴こえ方というのは人によると思いますが、真空管というのは「ウォーミー」という表現がされるようなイメージが多いです。

半田 SRA-3Sはそんなことないですよ。フィルターのスイッチが付いていて、切り替えることでそういうテイストの音にすることもできますけど、それはオフにしています。むしろ、真空管の音はウォーミーというよりハイファイですよ。ちゃんと抜けるとこは抜けてるし、きちんとバイアス調整したものすごくキレもありますよ。

ヘッドホンも平面駆動特有の音と言っていいのかわからないですけども、「表現に誇張がない」という風に感じています。音源により忠実でね。ただモニターヘッドホンを聴いて感じるような固い=忠実ともまた違う感じがするので、モニターライクな音かと言われるとそうでもない。リスニングという範囲内で最もフラットな音を出している機材かな、という印象です。

このSTAXのシステムで聴いていい音であれば本当に良い音だし、これで聴いて良く無ければ良くない。っていう、リファレンスではありますね。僕は自分でも音楽を作りますから現場で聴くモニターの音っていうのが1番好きなんですよ。要するにクリエイターが狙った音っていうのが自宅に持って帰っても同じように、できるだけそれに近い音で再生してくれる機材が1番良いと思う。

でも、仰るように古い機材なので維持がもう大変ですよ。アンプは1つしか持ってないですけど、ヘッドホンだけは予備にあと3つ持っています。SR-3だけで合計4つ。イヤーパッドも予備をたくさん準備して、着用後はちゃんと皮脂を落とす。あと「NEW SR-3」(1971年発売)というのも2つ持っていて、こっちは僕に言わせると音にちょっと雑味がある。

ただ、ロックを聴くならNEW SR-3の方かなあ、元気よく鳴らしてくれる。歌謡曲とかクラシックとかジャズとか、そういう 生の音楽ってのは、やっぱりSR-3の方が似合います。

───ご自宅でのリスニングに相当なこだわりを伺えましたが、外で使うイヤホンについてもこだわりをお持ちだったりしますでしょうか?

半田 新しいイヤホンを買って最初にすることが、イヤーピースをコンプライの物に変えること。純正を推奨するメーカーさんには申し訳ないんだけど、ウレタンタイプの低反発の物が好きなんですよね。フィット感というよりか、着けていて足音を拾わないところを重視していますね。シリコンだと歩きながら聴いた時にどうしても踵から来る振動が気になっちゃう。音楽以外の成分を省きたいという思いが強いです。

───「音楽以外の成分」という単語で気になったのですが、完全ワイヤレスイヤホンに標準搭載されることが多くなってきた「ノイズキャンセリング機能」というのは半田さん的にどうでしょうか?

半田 あくまで僕自身の考えですけど、音楽を聴くという用途に限ればオフにしたいかなと。ただ、喫茶店や鉄道、飛行機など周りの喧騒を和らげるという意味では耳栓代わりにノイキャンが役立ちますから、ケースバイケースですよね。

「『仮面ライダー555』はコラボにうってつけ」。半田さんの語るコラボモデルの在り方とは

───ホームオーディオ、イヤホンと、音の出口についての話をこだわりいっぱいに聴かせて頂いたところで、半田さんの趣味の一つに「宅録」とあります(全曲宅録で構成されたアルバム『HOME MADE』をリリース)。

音の収録は出口あり気だと思いますが、音源を収録する際、再生機器をどこまで想定していますか?

半田 再生機器というか、僕、ミックスの最終確認をモノラルでやるんですよね。ステレオでミックスTD(トラックダウン)して、 ある程度バランス取った後にモノラルで確認するんです。

例えば、ポータブルなBluetoothスピーカーにしても、スマホも一応ステレオではありますけど、2対のスピーカーの距離が離れていないから、感覚的にはモノラルで聴いているようなものだと思うんですよね。

なので、モノラルで鳴っている時のバランス、何が引っ込んで何が前に出るかっていうのをチェックするので、音の出口よりも音の定位、TDの各楽器の音量の方が僕は重視しますかね。

僕もこの10年ぐらいで色々音楽作ってきて学んだことではあるんですけど、好きだから自分でTDやったりマスタリングもしちゃうんだけど、やっぱり餅は餅屋、専門家に任せた方が結果がよくなる。 ある程度はやりますけど、やっぱり最終工程に関しては、その筋の専門家の言うこと聞いとくのがいい。というのを特にここ数年の作品で解りましたよね。昔の方がなんか変なこだわりありましたよ(笑)。

───今回コラボモデルを発売するAVIOTは、意欲的なオーディオプロダクトでユーザーから高い評価を獲得しているメーカーです。半田さんから見て、AVIOTの完全ワイヤレスイヤホンで気になるモデルなどがありましたら教えてください。

半田 色々と聴かせて頂くと、それぞれモデルは違ってもカラーに統一性があるんですよね。

どこかを誇張しているわけでもないし、低音の迫力よりも、高音の美しさに重きを置いているな、という印象はあったので、そこは僕との相性がすごく良い。嬉しい出会いでした。

その中で気になるモデルといえば「TE-ZX1」ですね。これが5年前にあれば僕のワイヤレスイヤホンに対する印象は180度違いますよ(笑)。 最初聴いた時は「良い音だ」を通り越して、ビックリしたっていうか。理屈はわからないけども、スマホとサブスクという組み合わせならワイヤードでもこの音は出ないと思います。

「TE-ZX1」。計3種・5基ドライバー構成による新開発「トライブリッド・5ドライバー」システムを採用する、AVIOTの新フラグシップモデルだ

ただ、音の良し悪しは結局好みの世界で、食の世界と一緒だと思います。その上で、本当に僕が一番望んでいる、誇張していない中で、正確なリリース音。音のカラーも僕が最も好みな音でしたね。本当にど真ん中で、安心して聴いていられます。

良い音と「良い音風」は明らかに違う。でも、世の中に溢れているのは、「良い音風」がほとんどなんですよね。スタジオで音を作っている時を基準に考えると、変な言い方ですけど、スタジオ制作の音よりも派手な音。いわゆる化粧したような音で聴かせてくるものが多いんですよね。自分の楽曲を聴いてもイヤホンによっては「俺、こんな音作ってないから」って鳴らし方をするものもあります。

サブスクやワイヤレスでスタジオの音を再現すること自体が無理だとは思うんですけども、せめてテイストは近づけて頂きたい……! そんな中で、ミュージシャンの狙った音を鳴らしてくれるTE-ZX1みたいな商品がもっと増えて、幅を効かせてくれれば消費者の意識も変わると思うんです。

僕も全部のメーカーを全部聴いているわけじゃないので、あまり大きなこと言うのもよくないとは思います。ただ自分が今まで聴いてきたワイヤレスイヤホンの中では、 どこのモデルよりもいいと思いますよ。これはもう忖度無しで言えちゃいますね。ニューモデルというよりもう、ひとつの発明品という感じですね。

取材中にも「TE-ZX1」を試す半田さん

───そんな半田さん大絶賛のTE-ZX1を生み出したAVIOTから発売される今回のコラボモデルのアピールポイントをお願いします!

半田 イヤホンに限らずですね、コラボ商品を出すからには「やるならもっとちゃんとやればいいのに」とつい、思っちゃうくらいには世の中には惜しいものが多いですよ。コラボするという実行力は大変評価するんだけども、モノが追いついてないというか。

その点今回のAVIOTさんはベースモデルの「TE-D01v」がしっかりしていますから。デザイン的にファイズファンの方に刺さるのはもちろんなんだけど、それを抜きにしてもいい機材ですよ。

仮面ライダーファイズと仮面ライダーカイザを配した両面スリーブを付属

ただ、僕なんかは好きだから2万(コラボモデルの販売価格:税込19,800円)くらいはすぐに出しちゃいますけど、イヤホンに高いお金を払う感覚が無いという方は躊躇してしまう額かもしれません。でも、イヤホンに限らず、日常的に使う物ならやっぱり長く満足いく物にした方がいいです。

そういった意味では今回のコラボモデルはベースモデルが優秀だと思う。月並みな表現かもしれないですけど、 “ファイズイヤホン” でワイヤレスイヤホンデビューとかする人なんかは、このモデルをきっかけに生活がちょっと変わるかもしれない。

家の中で着けると結構良いんですよ。イヤホンは外で使うもの、みたいなイメージがあるかもしれないですけど、例えば、スマホをテーブルの上置いといて掃除する時とか、 部屋の中うろうろするじゃないですか。そういう時に、イヤホンだけっていうのはフレキシブルでいいんです。僕はイヤホンを着けながら風呂掃除なんかもやっているけど、最近のモデルは生活防水だから、カランとシャワーを間違えて頭からお湯をかぶっちゃってもなんとかなる(笑)。

───『仮面ライダー555』が好きという方が初めてワイヤレスイヤホンを手に取って、新しい扉開けるようなアイテムに仕上がっているのは良いですね。

半田 僕のファンの方にもいましたよ、「ワイヤレスイヤホンデビューしたらすごく便利だった」って反応を寄せてくれた人がね。先ほども言いましたけど、普段こういった物を買わない人からすると値段が高く感じるかもしれない。でも「良い物を買った」と思える感覚を持ってもらえると思います。

あと、デザインですよね。コテコテじゃないところがかっこいい! この感じが、ファイズっぽい。ファンだとわかると思う。僕の演じる乾巧というキャラクターも、おおよそヒーローらしくないヒーローですよ。最初はもう戦うことを放棄していましたからね。

そんな感じで『仮面ライダー555』という作品自体がちょっと冷めたところがあるので、そのクールな感じにすごく合っているんじゃないかなと。あと「スマートブレイン」てのが都合のいい会社なんですよ。劇中でもスマートブレインはあらゆる物を作りますからね。ファイズのベルトもそうだし、物語の中でも電化製品も強い。

「スマートブレイン」ロゴがクールなインナーパッケージ。内側には同企業を想起させる「モルフォ蝶」がインサートされるなど、こだわりたっぷり。硬質ウレタンに置かれたイヤホンとケースがまさに「ライダーズギア」の風格

実際にファイズの世界で、こういったオーディオ機器をスマートブレインが作っていても全然不思議じゃない。「スマートパッド」なんてアイテムも登場していましたから、イヤホンやヘッドホンだって絶対あると思います。なので、コラボモデルを手にして「こういうものも作っていたんじゃないかな」っていうのをイメージして、作品世界の広がりを楽しんでもらうのもありだと思います。デザインってやっぱり大事ですよ。

───とても大事だと思います。それこそ製品に作品のタイトルロゴを載せるだけでも、その作品との「コラボモデル」にはなってしまいます。

半田 そう。例えば充電ケースに『仮面ライダー555』ってタイトルロゴが入るとテイスト変わっちゃうんですよね。それはそれで、アリかもしれませんが、恐らく大多数が求めているものは違う。

たまたまファイズにスマートブレイン社っていう企業が出ていたからこういったデザインに仕上がりましたけど、そういうのがない物語だとね、タイトルロゴが入っちゃうかもしれない。コラボには打ってつけの作品です(笑)。

半田健人のおすすめの『仮面ライダー555』楽曲はまさかの……?

───コラボモデルを手に取った方々に聴いて頂きたい『仮面ライダー555』楽曲を教えて頂けますか?

半田 ファイズの曲だったら「Justiφ's」は絶対ですよね。それ以外だと、僕が最近個人的に音楽として好きなのは芳賀さん(芳賀優里亜、園田真理役)と加藤さん(加藤美佳、長田結花役。現在の芸名は我謝よしか)が歌っていた「太陽の影 月の夜」。当時はデモテープで音源を渡されて1回聴いたくらいなんだけど、今聴くと結構良くてね。

芳賀さんにしても、加藤さんにしても、別に歌手志望でもないわけで、芳賀さんに至っては当時15歳とかですよ? 15歳の歌手志望じゃない女の子にしては、ちゃんと歌ってるんですよ。僕と同い年の加藤さんにしても、素朴なんだけども決して下手ではないと思うしね。

こういうキャラクターソングみたいな埋もれがちな曲がサブスクで聴けてしまうのはいい時代ですよね。僕の家にはテープでも再生機がありますけど、昔みたいにカセット渡されても普通の人の家にカセットデッキはもう無い(笑)。そういえば去年『昨日とちがう今日だから』というアルバムを出した時に芳賀さんに渡したら、受け取ったはいいけど家にCDプレーヤーが無いと。カセットどころではない。

それで仕方なくDVDプレーヤーにCD入れて、子供が寝てからテレビのスピーカーで聴いたそうです。もうそんな時代です。

───ノートPCからもディスクドライブが撤廃されたり、渋谷のTSUTAYAがレンタル取り扱いをやめたりとフィジカルメディア派にはちょっと悲しい時代です。

そんなサブスク隆盛の時代での完全ワイヤレスイヤホンの使い道として「移動中に動画を見る」というユースケースもあると思います。そこで、今回用意したタブレット内に劇場映画『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』を入れております。半田さんの気になるシーンをチェックいただいて、イヤホンならではの音の聴こえ方について触れて頂けますでしょうか?

半田 イヤホンつけてこの作品観るのは初めてですね……(ファイズvsオーガの場面、劇伴「クライマックスE」が流れるシーンを再生)音楽お金掛かってるなあ(笑)。あと声が若いよ。僕に子供が居たらこんな声してるんじゃない?

(シークバーを動かしながら、ひとしきりしっかり観る半田さんの様子を窺いつつ…)───いかがでしたでしょうか?

半田 まず映画って映画館で観るのがベストだと思うんです。何故かっていうのはやっぱり音の良さってのもあるわけですよね。 極端に古い映画じゃなければちゃんとマルチチャンネルになっていますし、作者の狙う音響を反映させた環境で観た方がいいですよね。

でも家に映画館があるわけじゃないから、それを疑似体験するっていう意味では、イヤホンで作品を観るっていうのも、臨場感を高めたりとか映画本来の効果を感じられるんじゃないかって気がします。

───セリフの聴こえなどはいかがでしたか?

半田 音響的なセリフの聴こえでは無いけど、この頃の声はやっぱりもう自分の声じゃないみたい。お芝居も若い。これまでは『パラダイス・ロスト』にしてもTVシリーズにしてもね、観ると思い出として「懐かしい」って気になっていたんですよ。

ところがまあ20年経ってみると結構他人事というか客観的に観られるようになってきて、作品として自分たちが立派な物をちゃんと作っていたんだなっていうのを思えるようになりましたね。

だから監督が良いって言ったんだから、良いんでしょうけど、今の自分だったら「やり直し!」って言いたい(笑)。 ただ、やり直さない方が多分良くて、この時の狙ってないフレッシュさみたいなのがね、たぶん評価されているから恐らくこれで良いんですよ。本当いい映画だったし、たぶん今作れないですよね。田崎監督(崎はたつさきが正式)もスタッフの皆も気に入ってる映画だって言ってますよ。

ただ、そういう「いい映画」を観る上で、タブレットとかスマホって画面が小さいじゃないですか。それを音で補うっていう意味では、イヤホンで観るっていうのは効果的だと思います。音だけでも受ける感覚が変わりました。

───もうお届きになったというファンの方もこのイヤホンを着けて「パラロス観るか」となると思います。

半田 このイヤホンは起動音(ファイズフォンの起動音)がかっこいいから。ファイズを象徴する音が流れると気分も上がると思います。AVIOTさんの動画内でも言ってますけど、ベルトに関する音をイヤホンでしっかり聴くということはあんまり無いですからね。「こういう音してたんだ」って新鮮な気持ちになりましたよ。

話を訊くと企画した方が「自分が欲しい物を作っている」と仰ってましたが、それでこそ企業だと思います。オーディオも嗜好品じゃないですか。ソニーのウォークマンだって当時の社長が新幹線での出張中にクラシックを聴きたいというところがスタートだっていいますからね。

コラボモデル「半田健人チューニング」で聴いてもらいたい楽曲とその理由

───半田さんが手掛けたチューニングが「歌謡曲を聴くにはすごくよいチューニングができた」とインタビュー動画内でも仰っていました。そこでコラボモデルを手に取って頂いた方に聴いていただきたい歌謡曲の楽曲、その聴きどころについて教えていただけますか?

半田 店頭でイヤホンを試聴する時にリファレンス楽曲があったりして、まず自分の曲ってのは大事。何度も言ってますけど、スタジオで作っているから自分の曲がどう聴こえるかっていうのはひとつの目安です。自分以外の曲、特に歌謡曲でいうとリファレンスに当たるのが野口五郎さんの「私鉄沿線」ですね。

───野口五郎さんの「私鉄沿線」。

半田 野口五郎さんについては、もうご本人から気持ち悪がられるくらい知っているんですけれども(笑)。野口五郎通の僕があえて何故「私鉄沿線」なのかというとね、あの曲は音が良すぎず悪すぎずの普通なんですよ。

五郎さんって音楽マニアで、キャリアが進むに従って海外レコーディングしたりと、音楽への追求がすごい人です。ある意味では歌謡曲離れしたような音楽をやり始めるんですね。

でもね、1975年ぐらいの五郎さんっていちアイドル、歌謡歌手って位置付けの時です。「私鉄沿線」は洋楽のテイストはほとんどなくて、本当に歌謡曲のど真ん中。歌が中心にある。筒美京平先生が編曲をされているんですけど、録音やミキシングの精度とかも、言い方が難しいですけど、取り立てて良いものではない。もちろん悪いところは別に無いけれども。僕は小学校6年生の頃からずっと聴いているので、そんな「私鉄沿線」の聴こえ方を知り尽くしているわけです。

だから新しい機材で聴いた時にね、著しくイメージから逸脱したものであれば、僕は選択肢から外すんですよ。「『私鉄沿線』をこんな鳴らし方するのはけしからん」と。飽きるほど聴いてきたものを改めて聴いて、そこに感動があれば、それは良いものなんです。

何百回何千回と聴いてるもんだから新鮮さはないはずなんだけど、聴いた時に「あっ」と思う、思わせられる物ってのは、やっぱりいい機材ですね。

───ということは、今回のコラボモデルのチューニングに際しても「私鉄沿線」をリファレンスに使用したのでしょうか?

半田 実は聴けなかったんです、「私鉄沿線」。チューニングするサウンドメイク現場で曲が指定されていて、僕の作ったアルバム『HOMEMADE』の「東京タワー〜親父たちの挽歌〜」という曲を使い「流行りの音と逆行する音」を目指して調整を掛けていきました。

チューニングについては、全部のメーカーがとは言わないですけど、全体的に低音が誇張された、派手な音を鳴らすようなワイヤレスイヤホンが多いように感じます。

最近の流行りなのか解らないですけど、真ん中(中音域)が削がれているチューニングが多いように個人的に感じていて、「無いなら作ってしまえ」と。このように自分の音へのこだわりを反映しているので、半田のチューニングが「モニターに忠実か」と言われたらそうではない。もしかすると、一聴すると平たいというか、もさっとした音に聴こえるかもしれないですけど、20〜30分聴いてもらうと、ボーカルや音楽の主役になるパートが聴きやすいとわかってもらえると思います。

───ありがとうございます。これが「歌謡曲を聴くにはすごくよいチューニング」ということですね。

半田 そうですね。歌謡曲ってね、やっぱりボーカルが主役の音楽なんですよね。当時のディレクターは楽器の音をあまり優先させなかったそうです。流行歌は歌ありきだから「この曲、後ろのベースがかっこいい」みたいな場合でも、ベースやドラムの音を下げろ、歌を出せっていう時代です。

和田アキ子さんの「どしゃぶりの雨の中で」という和製R&Bの曲がありますが、最初ミキサーが当時の標準的なミックスをしてたんですよ。そうすると、歌謡曲のバランスに仕上がる。ところが、ディレクターであった方は「これはR&Bなんだからもっとリズムを出したい」と意見したそうです。歌謡曲のバランスでドラムとベース引っ込んだら、R&Bっぽさが無いわけです。

そこでミキサーに「ドラムとベース上げてもらえますか」っていうとね、ミキサーエンジニアが嫌な顔したって。当時はエンジニアが凄く偉くてディレクターであってもスタジオの長にしたら「お前何様だ」って不穏な空気になってしまう。でもものは試しでやってみたらエンジニアの方も「そういうことか!」って納得したという逸話があるんです。

あと、チャンネルが少なかったんで、今みたいにスネアだけを上げるとか、キックだけを上げるみたいなことが出来なかった。全部のチャンネルが上がってしまう。だったらもうボーカルをメインに考えるかっていう方法論なんですよね、あの時代は。

当時は家にステレオ環境を備えていた人も少ないそうですし、ヘッドホンで聴く人はもっと少ない。そこで自分が愛用しているSTAXの何が凄いか、という話になるんですけれども、「SR-1」は1960年の発売で、その時代にヘッドホンで音楽を聞く文化を提唱したところなんですよ。当時はイヤースピーカーという名前で売り出していましたけどね。

無線を聴くとかチェッカーという意味では耳に当てて音を聴く機械はありましたけど、音楽を楽しむ時に、耳にスピーカーを当ててっていう文化がないんです。レコーディングの時も昭和47年(1972年)ぐらいまで、ヘッドホンでモニターしながらではなく、小さいスピーカーからレコーディング用のマイクが拾わないような小音でオケを流していた。

そのぐらい日本ってヘッドホン文化がなかった。 歌謡曲は卓上ラジオとかで楽しむ音楽で、そうした時に、ベースとかドラムとか、楽器にこだわっても所詮再生されない。だったらもうボーカルを前にドーンと出すみたいな方法論が制作現場では優先だったんでしょうね。

───自称されるだけあって本当に昭和40年に生きていますね。(半田さんは1984年、昭和59年産まれ)。当時の楽曲制作や音楽についての造詣が凄まじいです。

半田 でもちゃんとですね、証言として逸話を聴いてきていますから。この時代の話をして下さる語り部の方々がどんどん鬼籍に入られているので、僕の知っている知識はこうやって発信していきたいです。

───録音や歌謡曲も広くオーディオとするのであれば、その語り部として半田さんはお若いです。

半田 若いでしょ? でも、オーディオというと僕も偉そうなこと言えなくて。家に高級なシステムがあるわけじゃないし、世代的にオーディオといえばチェンジャー付きのコンポぐらいで「ピュアオーディオ」には行かない。もっと下の世代になるともう家にコンポすら無くなっちゃいますよね?

ただ、自分の父くらいになると、初任給でダイヤトーンのスピーカーを買うとか、「初任給でステレオを月賦で!」という世代。その世代の方々が文化を支えてくださるからこそ、秋葉原のダイナミックオーディオみたいな専門店があるわけですよね。

ハイエンドな機材っていうのにももちろん憧れますけど、立派なスピーカーやアンプを導入するには、まず家からです! そういった意味でイヤホンって面白いのが自分の耳だけで、ある程度のハイファイ環境を完結できる。夢が叶えられるツールですよね。

とにかく555ファンにコラボモデルを買ってほしい。その理由とは!

───とても素敵な言葉をありがとうございます。今回のコラボモデルについて「待ち望んだ仕事」と仰っていましたが、その縁で我々のようなオーディオビジュアル媒体のメディアも取材をさせて頂いています。そんな半田さんがオーディオの分野でトライしてみたいことはありますでしょうか?

半田 オーディオが大好きなので、僕ができることであればなんでもやってみたいです。聴力には自信があって、耳鼻科で検査した時に「不正してるのか、あなたの年じゃこの音聴こえるわけない」と言われ「聴こえるんだって!」と、先生と押し問答になりました(笑)。

40になるという年齢ですが、高音域がまだ聞こえるみたいで。だから、 耳の良さを役立てられる仕事があればやってみたいなと思うし、僕自信もまだ勉強中だけども、先ほどお話した歌謡曲の音作りの現場の話は、言い伝えていきたいってのはありますよね。

ミキサーエンジニアの方も、ここ数年で亡くなってきていますが、本人の口からはもう聞けない。書籍を残されている方もいるけど、それだとその本人に興味がある人しか手に取らないじゃないですか? だから、僕みたいな人間が語り部になることで、先人の知恵とか工夫と当時の現場の様子を今の世代のミュージシャンにも伝えたい思いがあります。

───脱線したかと思えばそうでなく、きちんとトークテーマに帰結させる含蓄ある面白い話を聞かせて頂きました。

半田 実際僕もまさかこのタイミングでこういう仕事が回ってくるとは思わなかった(笑)。

でも本当にね、こういうのは無理だと思っていましたよ。何故かっていうと、やっぱり僕のパブリックイメージってね、俳優であり、仮面ライダーの俳優さん。音楽をやっていることすら浸透してないから。だからこういうお仕事となかなか巡り会えない。イヤホンのレビューを雑誌とかで読んでいると「俺にやらせてくれないかなー」みたいなことも思いました。

弊社発刊のオーディオ雑誌「analog」を手を取る光景も

僕は根っからの趣味人間なので、こういうことから楽しく仕事に繋がれば嬉しいですよね。

───言質が取れました。そういう仕事を半田さんに振れるように編集者として邁進したいところです。

改めまして、『仮面ライダー555』ファン、オーディオファン双方に、AVIOTさんから発売される「TE-D01v-555」について、その魅力をひとことお願いいたします。

半田 ファイズファンの方はね、とにかく手に入れてほしい一品ですね。実用的で毎日使えるものだし、コストパフォーマンスも抜群だと思うので!

玩具やコレクションアイテムのような嗜好品って、興味ない人からすると「そんなの買って何になるの」と意見する人が居ると思うんです。別の取材で「それだけは言わないでくれと。趣味とはそういうもんなんです」といった旨のことを言わせて頂きましたが、その点イヤホンはそういう意見が出ないものだと思います。

本体や充電ケースには、劇中に登場する巨大企業「スマートブレイン」社のロゴを配置。劇中の世界観にマッチしたデザインに仕上げた

通話マイクも備えていて仕事にも使える。ですから、ファイズファンの方には漏れなく手にとって貰いたいですね。

そしてこのコラボモデルをきっかけにAVIOTというメーカーを知ってもらって、他のモデルも試してもらいたいですね。で、イヤホンってね、本当、ハマると、 今風に言うと「沼」っていうんですかね? 本当にキリがないんです(笑)。

で、なんでキリがないかっていうと、不満があるから次を買うわけではなく、好きだからバリエーションが欲しくなる。だから、何個あってもゴールはない。カバンの中に複数のイヤホンが入ってる人も、イヤホン好きには珍しいことじゃないですもんね。そういう意味では今回のコラボモデルもコレクションのひとつとして加えてくださるとすごく嬉しいです。

そしてイヤホンファンの方にはベースモデルの話になりますが、3Dプリンターで成形した本体の装着感がすごく良い。さっき手に取ったTE-ZX1なんかだと、音を本気で楽しみたいという僕みたいな人は「どんとこい!」という感じだけど、構造上サイズが大きい。けど、こっち(TE-D01v-555)はシンプルに誰にでもあうのかな、という形状ですよね。ケースのサイズ感も含めてバランスちょうどいいですよね。ぜひ一度試してもらいたいですね。

───本日は本当にありがとうございました……!

いかがだったろうか。AVIOTさんの「スペシャルインタビュー動画」内でもその片鱗に触れることができるが、半田さんの「オーディオへのこだわり」が本記事を通してお伝え出来たのなら幸いだ。

そんな半田さんお墨付き、チューニングモードを搭載する完全ワイヤレスイヤホン「TE-D01v-555」は現在AVIOT ONLINE MALLにて4月以降順次発送で注文受付中だ。なお、一次出荷分は既にユーザーのお手元に届いていて、担当の方曰く「非常に好調な売れ行き」とのこと。

まさしく “上の上” というべきこだわりが詰め込まれた本コラボレーションモデル。いちファンとしてもさらに強く推したい。

(C)石森プロ・東映

■作品情報

『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』

『仮面ライダー555』放送20周年を記念し製作される、2024年2月2日から公開中のVシネクスト作品。舞台は『仮面ライダー555』物語終了後の世界、主人公 乾巧(いぬい たくみ/演:半田健人)は進化した変身ベルト「ファイズドライバーNEXT」を使用し「仮面ライダーネクストファイズ」に変身する。

2024年2月2日(金)より期間限定上映。2024年5月29日(水)Blu-ray&DVD;発売予定。

■半田健人アーティスト情報

半田健人オフィシャルオンラインストアにて最新アルバム『昨日とちがう今日だから』のダウンロード販売他、CDやアナログレコードの音楽作品も販売中。

https://kentohanda-official.stores.jp/

また、Apple Music、Spotify等サブスクでも過去作品を配信中。

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