山へ移住してよかったこと【穴澤賢の犬のはなし】

八ヶ岳に移住して3ヶ月が経った。といっても、知らない環境に飛び込んだわけではなく、2017年から始めた鎌倉と八ケ岳の2拠点生活を山に絞っただけなので、勝手知ったるで困ることは特にない。どこへ行くのも車が必須で一番近いスーパーで片道10分ほどかかるが、慣れればなんてことはないし、そんな不便さも生活リズムに組み込まれる。

山の家暮らしと外出の機会

標高1400メートルの冬は気温が低く、朝夜はマイナス15℃くらいになることがある。ただそれも風がないから不快さはなく、室内には寒冷地仕様のFFストーブを入れているから凍えることもない。日中晴れれば暖かく、夜は出歩かなくなる。そもそも飲みに行くような店もほとんどない。

たまに山の友人たちと、近所の犬OKの居酒屋軒ペンション『MIC HOUSE 』か、小淵沢の犬OK席のあるイタリアン『 マジョラム』に行くくらいだ。鎌倉市腰越にいるときも、大福に留守番させて外食することはほぼなかったからあまり変わらない。

唯一、少し困るのは、たまに雪が積もると運転とか雪かきが大変なことくらい。でも私が暮らす長野県諏訪郡原村は標高は高いが雪国ではなく、そんなに頻繁には積もらない。積もっても数センチ程度で数日で消える。

ただ、ひと冬に何度か膝くらいまで積もることがある。ちょうど先日、それくらい積もった日があり、別荘地内は除雪車が入るが、自宅前の通路を確保するためと車が出入りできるように雪かきをしなくてはならない。膝レベルで結構大変なので、雪国で暮らす人の苦労は相当なものだろうと思う。

また、雪が積もった翌日から数日は、昼のうちに溶けた雪が夜凍るので、運転が怖い。ひどいとツルツル滑って歩けないくらいになるので、そういうときは事前に食材を買い込んで数日間出なくていいように準備しておく。

犬が喜ぶ山の暮らし

人間にとっては何かと面倒な積雪だが、大福にとっては絶好の雪遊びチャンスである。これまでは、山の家にいるタイミングで雪が積もればいいが、そうでないことも多く、心ゆくまで雪遊びできたことはそんなになかった。けれど今は雪が積もればいつでも遊べるのだ。

都心で暮らしていたときも、数年に一度くらい積もることはあったが、雪質が違う。平野部ではボタ雪だが、八ケ岳の雪は粉雪でフカフカなのだ。福助はなぜか鼻から雪に突っ込む通称「鼻ズボ」が好きなのだが、少なくとも20センチ以上積もらないと出来ない。でも先日は30センチ以上積もったので、鼻ズボやり放題である(そのときの動画は『インスタ』にアップしたのでそちらをご覧ください)。

大吉は鼻ズボをやらないが(それが普通なのか)、フカフカの雪の上は楽しいらしく、夜もナイターで雪遊びしていた。それだけ積もった日は、晴れたら少し仕事を中断して30分くらい雪遊びに付き合ったりしていた。こういうことができるのも、完全移住したからだなと思う。『富士丸』にもこれくらい雪遊びを堪能させてやりたかった。

そんなわけで、移住してからそれなりに楽しく山で暮らしている。これでも八ケ岳の四季の中で、冬が一番厳しい季節である。春から秋にかけては最高なことを知っている。なんたって真夏でもエアコンがいらないくらい涼しいのだ(そもそも付いていない)。

腰越で暮らしていた頃のように、夏になると朝5時起きで大福に「なんでこんなに早く起こすんだよもう」と迷惑そうな顔をされながら慌ただしく散歩に行かなくていい。昼間はエアコンのきいた部屋に閉じ込めて、夕方になると「そろそろじゃない?」と催促してくる彼らに「まだ暑いから、もうちょっと待って」となだめすかさなくていい。そう思うと、移住してよかったと思う。春が待ち遠しい。

<お知らせ>

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※売り切れている場合は次回入荷までお待ちください。

引用元:「犬の笑顔が見たいから」(世界文化社)楽天ブックス

プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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