65歳までに「2,800万円」貯めると100歳までに「4,000万円」使える驚きのカラクリ【メガバンク出身のコンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

長寿化が進み「人生100年時代」と言われる現代、老後の不安を軽減させる資産形成は大切です。しかし、資産形成に力を入れすぎた結果、貯めたお金を“使わないまま”亡くなってしまう人も。そこで実践したいのが「今ある資産を有効に使うこと」だと、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)著者の大杉潤氏はいいます。その具体的な方法をみていきましょう。

「ゼロで死ぬ」という人生設計は「資産活用」の技術がポイント

人生の全体像を見える化し、「トリプルキャリア」という考え方で長く働き続けて生涯現役のライフスタイルになると、できることがあります。それが、「ゼロで死ぬ」という人生設計です。

ビル・パーキンス氏が書いた『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社)という本があり、資産形成ばかりを考えるのではなく、形成した資産を使い切ってこそ豊かな人生になると説く人生の指南書です。

資産形成やそのための投資や節約に関する本は世の中に溢れていますが、資産を使い切って死ぬためのノウハウを書いた本はほとんどありません。そうした中で、2020年にこの本に出会って衝撃を受けました。

確かに日本人は、死ぬ直前に資産額が最大になっている人が多く、それで果たして幸せな人生と言えるのでしょうか? 深く考えさせられる本でした。

ずっと長く働き続けて、年金を繰り下げ受給して金額を増やすことができれば、資産を使い切って日々の生活を充実させるという選択がやりやすくなります。終身で受給できる増額された年金にプラスして、わずかでも働いて得た収入があれば、生活費の不安が消え、資産を取り崩して使うことに心の抵抗がなくなるからです。

ビル・パーキンス氏の本から3年を経て、2023年に日本人が書いたとてもいい本が出版されました。私も全面的に共感して自ら実践してみようと思わされた本。それは、野尻哲史氏が書いた『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)という本です。

野尻氏は、「老後2,000万円問題」がメディアを騒がせることになった金融庁レポートを作った金融審議会市場ワーキンググループの委員を務められた専門家です。

野尻氏によれば、今ある資産を有効に使っていくために必要なのは、「資産を取り崩しながら、同時にその寿命を延ばしていく」包括的なアプローチ、すなわち「資産活用」の技術だ、ということです。

そもそも「資産活用」とはなんなのか

「資産活用」という言葉は、みなさんも聞きなれないと思いますが、この本では「退職後の生活の満足度を引き上げるため」の行動として、次のように定義しています。

1.生活費をコントロールすること

2.長く働くこと

3.年金を効率的に受け取ること

4.運用しながら資産を効率的に引き出すこと

以上のすべてを含む包括的なアイデアで、今ある資産の寿命を延ばす賢い「取り崩し」の技術が何より重要になる、と著者の野尻氏は述べています。

現役時代と定年退職後の生活では、お金に対する考え方が異なります。それぞれ次の式で表すことができます。

■〈現役時代〉勤労収入=生活費+貯蓄・資産形成

■〈退職後〉生活費=勤労収入+年金収入+資産収入

つまり、退職後は、3つの収入の合計(これを「リタイアメント・インカム」という)で生活費をまかなうという考え方になります。

3つの収入の中で、最も柔軟性のある「資産収入」をどう増やすかが退職後の生活にとって大切だ、というのがこの本の要旨です。

人生100年時代の全体像を俯瞰した時に、とくに60代からの資産「使い切り」法が大切なのですが、多くの人は将来の生活費が不安で、資産を適切に取り崩すことができず、生活費を切り詰める方に走ってしまうそうです。それで果たして豊かで幸せな人生といえるのでしょうか?

一方、勤労収入がずっと続いている、すなわち長く働き続けていたとすればどうでしょうか。年金にプラスして少しでも勤労収入があれば、資産収入をどうコントロールするかという判断が冷静にできるのではないかと思います。

この本で野尻氏が自らも実践しようとしている結論は、できるだけ資産寿命を延ばしながら豊かな生活を送っていくために、資産の取り崩しは、たとえば年4%引き出しなど「定率引き出し」を原則とし、人生の最終段階(80歳になってから)では「定額引き出し」に切り替えるということです。

何歳まで生きるかはだれにもわからないため、最初から「定額引き出し」をするのは危険なのです。

65歳までに2,800万円貯めると100歳までに4,000万円使える?

100歳から遡る「逆算の資産準備」の考え方というのが紹介されていて、80歳からの20年間は「公的年金のほかに毎月10万円ずつ資産を引き出して生活費に充てたい」と計画すると、80歳の時点で2,400万円=10万円×12か月×20年)あれば、預金に金利が付かないとしても、この計画が達成できることになります。

次に、80歳で2,400万円を残す計画ですが、資産運用を続けていることを前提にして、65歳から80歳までの15年間は、「毎年3%で運用して、資産残高の4%を引き出す」ことを想定すれば、65歳時点で2,800万円の資産があればいい、ということです。

野尻哲史氏の本では、169ページにわかりやすい図も掲載されています。私が驚いたのは、資産運用を続けながら、定率引き出しを行うことで「収益率配列のリスク」を避けることができ、資産を減らさずに引き出し総額を増やすことができるという点です。

この例では、資産の引き出し総額は、65歳から80歳の15年間で1,560万円、80歳から100歳までの20年間で2,400万円となり、約4,000万円を使うことができるということです。

「収益率配列のリスク」というのは簡単にいうと、資産運用の収益率が毎年均等ではないため運用パフォーマンスの波によって生じるリスクのことです。

それにしても、65歳時点で2,800万円の資産があれば、「資産活用の技術」を駆使することで、100歳までの35年間で4,000万円ものお金を引き出して使える、というのは驚きでした。

大杉 潤
経営コンサルタント/ビジネス書作家/研修講師

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