AVOD広告を表現・取引の両面でアップデート 〜TBS・CARTA合弁アドテク企業「VOXX」担当者インタビュー / Screens

ビデオアドソリューション事業を展開する株式会社VOXXは2024年2月20日、動画配信サービス事業者向けのプレイヤー埋め込み型広告クライアントモジュール「ビデオアドSDK™」を開発。株式会社TBSテレビの無料見逃し配信サービス「TBS FREE」に提供を開始した。

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同社は2022年8月に株式会社TBSホールディングスと株式会社CARTA HOLDINGSの合弁で設立されたアドテクノロジー企業。動画配信サービスにおける新たな広告体験の創造と放送業界における収益拡大を目的に掲げ、今回の「ビデオアドSDK™」のほか、運用型広告の配信を最適化するサーバサイドソリューション「VOXX Bid Manager」などを提供している。

本記事では、株式会社VOXX 代表取締役社長・岡野恒氏、同取締役CTO・住友永史氏、同Head of Business Development・黒田岳志氏、同Tech Lead・長島達哉氏にインタビュー。「ビデオアドSDK™」の特徴と開発の背景、今後に向けた展望を伺う。

■スマートフォン上のプリロール広告で「縦型画面」をフル活用した表現が可能に

──今回リリースされた「ビデオアドSDK™」の概要についてお聞かせください。

住友永史氏

住友氏:「ビデオアドSDK™」は、動画広告におけるフレキシブルな表現と特定プラットフォームへの脱依存を目指して開発されたプレーヤー埋込み型の広告モジュールです。オンライン広告の国際技術規格団体・IAB (Interactive Advertising Bureau)が提唱する規格、VAST(Video Ad Serving Template)・VMAP(Video Multiple Ad Playlist)に準拠しており、これらに対応する広告サーバー上で動作します。

──「ビデオアドSDK™」を使用すると、どのような広告表現が可能となるのでしょうか。

住友氏:iOS、Androidスマートフォン上でのプリロール広告において縦画面をフルに利用してダイナミックな動画広告を表示する「縦型広告」や、動画プレーヤーで本編再生時の一時停止画面に広告を表示する「PAUSE広告」といった新しい広告表現に加え、動画広告と動画プレイヤーとの相互通信によりインタラクティブな広告体験を実現する「SIMID 広告」、インストリーム広告に連動したバナー広告を表示する「コンパニオン広告」をサポートします。

──スマートフォン特有の画面仕様を活かした「縦型広告」は非常に特徴的な機能ですね。

住友氏:我々が運営するAVODサービス「TBS FREE」を含めた多くの動画サービスのスマートフォンアプリでは、縦方向の状態で番組選択を行い、動画再生を開始するので、冒頭に流れるインストリーム広告を縦画面フルで表示することで、広告の価値をより高めることができると考えています。広告はクリッカブルな形式で配信できるのはもちろん、途中で視聴者が画面を横向きにしても広告の縦横比を変えずにフィッティングさせたまま再生するので、広告体験を損なわないままシームレスな配信が可能です。「TBS FREE」の動画プレーヤーには「ビデオアドSDK™」が組み込まれており運用を開始しています。

■プラットフォームに依存していた広告表現を「独自開発SDK」で切り開く

──今回、どのような背景から「ビデオアドSDK™」開発に至ったのでしょうか。

住友氏:テレビ番組の見られ方が多様化するいま、視聴者の方々にとって最適な広告体験となる場を作ることが放送局としての務めではないかという思いが背景にありました。特に縦型広告に関しては放送局が提供する配信サービスにおいて「ありそうでない広告の形」であり、スマートフォンの全画面を使ったリッチな広告表現の形として切り開いていこうと考えました。

現状、広告配信の要となるモジュールは多くの動画サービスでプラットフォームに依存しており、便利である反面、新しい広告表現に対する技術的なネックを生んでいました。国際的な技術基準に対応したモジュールを独自開発することでこうした課題を打破し、放送業界全体のグロースに貢献できるのではないかと考えています。

──アプリに組み込むモジュールとしての提供ですが、開発者サイドが利用するうえでどのような特色がありますか?

長島達哉氏

長島氏:「ビデオアドSDK™」の機能はAPI(Application Programming Interface:プログラム側から呼び出す外部機能)として提供されるため、アプリ開発時にビデオアドSDK TMの内部処理を意識せずに利用いただけます。

UIや機能のカスタマイズについても今後対応していく予定です。利用いただく企業様側で柔軟性が求められる箇所についてはある程度デフォルトとなる土台を用意しつつ、後からさまざまなユースケースやニーズに応じた挙動を定義できる仕組みにしていきたいと考えています。

■デジタル広告で一般的な「リアルタイム入札」を放送局のAVOD広告に導入するソリューションも提供

──2022年12月に発表された「VOXX Bid Manager」はどのようなソリューションなのでしょうか?

黒田岳志氏

黒田氏:「VOXX Bid Manager」は、動画配信サービスにおけるプログラマティック広告の配信を支援するサーバーソリューションです。これまで各事業者個別に管理されていた広告在庫を一括化し、デジタル広告の世界で一般的なオークション形式での入札に対応することで在庫の最適化と単価向上を実現します。

──デジタルの運用型広告で用いられている仕組みを、放送局のAVOD広告の領域に取り入れるのですね。

黒田氏:はい。具体的にはOpenRTB(Open Real Time Bidding:リアルタイム入札)と呼ばれる仕様に則って各事業者のSSP(Supply Side Platform:広告在庫管理プラットフォーム)に広告リクエストを送付し、もっとも単価の高い広告案件の配信を行います。これまで放送局のご担当者様が各事業者の広告リクエストURLを手作業で設定するケースが大半でしたが、一連の取引を集約、自動化することによってオペレーションコストが大幅に削減されます。

──クライアントサイドの仕組みである「ビデオアドSDK™」との連携については今後どのように考えられていますか?

黒田氏:「VOXX Bid Manager」での広告配信リクエスト時、よりよい買付のためにどのような付加価値を付与するかなど、まだまだ手探りの段階ではありますが、「ビデオアドSDKTM」が持つリッチな広告表現を活かしながら、クライアント・サーバー間の連携によって価値の高い広告配信が行える仕組みを考えていきたいと思っています。

今回発表した「ビデオアドSDK™」では、純広告面の価値の向上が大きく図られているのが特長です。弊社では「VOXX Bid Manager」との両輪で、純広告とプログラマティック広告それぞれの価値を最大化していくことを目指しています。

■日本の動画メディアが抱える課題を広告表現・広告取引の両面で解決していきたい

──VOXXのソリューションによって、動画広告の世界はどのように変わっていくのでしょうか。今後の展望についてお聞かせください。

住友氏:「ビデオアドSDK™」が、日本の動画メディアが共通して抱える課題を解決するソリューションとして広くご利用いただく存在となっていくことが目下の願いです。現在すでにサービスを展開するTBSに限らず、他の放送局やプラットフォームのみなさまにもぜひ気軽にお声をかけていただき、ともにブラッシュアップさせていただくお話ができたらと思います。

長島氏:「ビデオアドSDK™」はメディア業界向けの“国産SDK(Software Development Kit:開発キット)”として、新しい広告商品、そして広告体験の形を先導的に創出していく存在になっていくと自負しています。

これまで長らく、広告体験としての動画広告は「取得した動画をプレーヤーで再生する」という形式にとどまっていました。新しい表現を模索しようとしてもそれに対応できるSDKがなかなかなく、技術的な制約によって新しい広告表現が生まれにくい状況にありました。こうした現状を「ビデオアドSDK™」で解決していけたらと考えています。

黒田氏:サーバーソリューションである「VOXX Bid Manager」は、広告在庫の割当と放送局のみなさまの広告リクエスト、そして実際に広告を展開される広告配信事業者のみなさまの入札、買い付けまで、動画広告におけるあらゆる取引を橋渡しする役割を担います。「ビデオアドSDK™」が提供するリッチな広告表現とセットで、すべての方々にとって価値を感じていただける広告体験を作り出していきたいと思います。

岡野 恒氏

岡野氏:ユーザー・視聴者の皆様に安心安全で心地よい動画広告体験を提供し、広告主や広告会社の皆様にも最適な広告配信の機会を提供すること、さらには我々の創りだすソリューションにより動画配信に関わる皆様のさらなる発展の礎になることで、動画広告市場のさらなる発展と新たなマーケットの創出に寄与していきたい、という強い思いが我々にはあります。まずその手始めとして「ビデオアドSDK™」による縦型広告配信など、リッチで新しい広告表現の形をご提供しつつ、「こういうこともできないか?」というご意見を伺いながら、新しい動画広告の地平を切り開いていきたいと思います。どうぞお気軽にご相談をいただければ幸いです。

■プロフィール紹介

岡野 恒氏
株式会社VOXX 代表取締役社長/株式会社TBSテレビ コンテンツ戦略本部プラットフォームビジネス局 DXコンテンツ部部長。大日本印刷株式会社、朝日新聞社を経て2007年にTBSテレビ入社。同局のAVODサービス「TBS FREE」や「TVer」をはじめ、動画配信サービスのコンテンツ運用と配信システム全般を担当。

住友永史氏
株式会社VOXX 取締役CTO/株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 ICTセキュリティ戦略部部次長。ヤフー株式会社(現・LINEヤフー株式会社)、ブライトコーブ株式会社を経て2021年にTBSテレビ入社。VOXX社では広告クライアントの開発を主に担当。

黒田岳志氏
株式会社VOXX Head of Business Development/株式会社fluct 取締役。VOXX社では「VOXX Bid Manager」などサーバーソリューションの開発運用を担当。

長島達哉氏
株式会社VOXX Tech Lead/株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 ICTセキュリ
ティ戦略部所属。2019年TBSテレビ入社、TVer「TBS系リアルタイム配信」立ち上げにシステムエンジニアとして携わったのち、2021年より動画広告の開発を担当。VOXX社ではテックリードとして「VOXX SDK」の仕様定義や開発管理を担当。

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