鍛冶職人 物々交換で刃物研ぎ

研いでほしい刃物のメンテナンス料は、農作物

支払いはお金ではなく農作物。時代に逆行するような、しかしキャッシュレスという意味では現代にそぐう「物々交換」を取り入れ、お金を介さないビジネスに挑戦する職人が現れた。

江戸時代から小野市に根付く“播州刃物”を継承するために修行中の藤田純平さんは鍛冶職人。鍛冶工場MUJUN WORKSHOPに勤務する。ものづくり界での後継者不足問題を「一人の若者として解決していきたい」と考え、中でも鍛冶はものづくりをする人の道具を生み出す、いわば「ものづくりの原点」として、2年前にミュージシャンから転職した。

そんな藤田さんが物々交換を導入したのは、“おすそわけ”の文化がきっかけだ。

田舎暮らしをしていたときに、山菜や魚を分けてもらったお礼に包丁を研ぐと、非常に喜ばれた。人間関係が深まり、情報交換も始まったことから今回のアイデアがひらめいた。

農家を限定に藤田さんが始めた物々交換のシステムはとてもシンプル。まず、研いでほしい刃物を農作物と一緒に送ってもらい、メンテナンスが終われば送り返すという仕組み。事前に連絡してもしなくてもいい。近所なら工場に直接持ち込むのもOKだ。

ただ、気になるのが相場。どのような農作物をどれくらい送ればいいのだろうか?

研ぎ直す刃物の状態にもよるが、ホームページに掲載されているメンテナンス料金が目安になる。とはいえ、“おすそわけ”の気持ちから始まっているため、基本的には「利用者にお任せ」となっている。

特に今、コロナ禍で人との接触を避けるのが当たり前になってしまった。物理的な距離以上に、心の距離までも遠ざかってはいまいか? 隣にどんな人が住んでいるか知らない、顔を合わせても挨拶しないといった、都市部で顕著な“他人への無関心”。藤田さんの取り組みは、そのような時代の風潮に対する疑問の投げかけとも受け留められる。

持ちつ持たれつ、お互いさま、住民はすべて顔見知りといった、昔の村社会。藤田さんの取り組みは、大切に育てられた農産物を仲介役に人と人とのつながりを築くもの。かつての村社会の良い文化を再形成する可能性を秘めていると言えそうだ。

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