【警察庁やる気なし?】電動キックボードの逆走、ひき逃げ等についての質問状に回答……〈多事走論〉from Nom

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検挙数の急増が問題になっている電動キックボードだが、通行区分違反などにとどまらず、ひき逃げまで発生している。都市部では信号無視や6km/hを超えての歩道走行などを見かける機会も多い。そんな現状についてどう思うのか、警察庁に質問状を出してみた。

●文:Nom(埜邑博道) ●外部リンク:警察庁

一方通行逆走で、ひき逃げ事故も発生! 電動キックボード不要論も再燃している

昨年の7月1日に施行された改正道路交通法によって、一定の基準を満たした電動キックボードを含む電動モビリティは「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」と位置付けられて、16歳以上であれば運転免許不要、ヘルメットの着用も努力義務となったのはご存じの通りです。

そして、一部報道によると、運転免許なしで乗ることができるようになった昨年7月以来、電動キックボードの事故・違反は予想通り増加していて、特に交通違反は半年間で4倍以上になり、昨年12月には1879件に及んだということです。そして見逃せないのが、違反の種類としてもっとも多いのが「通行区分違反」だということです。

警察庁の発表資料によると、電動キックボードに関連する交通違反でもっとも多いものは通行区分違反。次いで信号無視、一時不停止となっている。この表は改正道交法が施行される昨年7月以前のデータなので、報道のように7月以降は圧倒的に増加しているに違いない。

記憶に新しいのは、2月3日に愛知県名古屋市中区で発生した一方通行を逆走してきた電動キックボードが通行人をはね、そのまま逃走した事件です。これは特定小型原付ではなく免許証が必要な原付扱いの電動キックボードだったとのことですが、よほど詳しい人でなければどちらに当たるのか見分けがつかないし、それよりも従来タイプであろうが特定小型原付であろうが、あまりにお手軽で誰にでも乗れてしまう電動キックボードという特性上、運転者が交通ルールを守る意識が希薄になりがちなのは否めません。

実際に、信号無視や一時不停止、さらには酒気帯び運転も発生しているそうですし、特定小型原付を取り扱う業者が増えてきているためか、違反・事故は増え続けているようです。

改正道交法が施行された昨年7月から9月の特定小型原付に関連する交通事故の状況。事故件数は7→10→21件、負傷者数は7→10→22人といずれも増加しているのが分かる。幸いバイクとの事故は起きていないようではある。

以前から当コラムで指摘していますが、バイクに乗っているときに一方通行を電動キックボードが逆走してきたら、そしてそれが相手が見えづらい夜間なら大きな事故につながる可能性があります。

信号無視や一時不停止でも同様です。止まるはずと思っていた電動キックボードが、止まらずにそのまま自分のバイクに向かって来たら……。

幸いそういう場面にはまだ遭遇していませんが、急ブレーキをかけてタイヤがロックして転倒、あるいはそのまま電動キックボードに衝突して相手が(さらに自分も)ケガをしてしまったら……。

一般公道においては、互いに交通ルールを守ることが前提で、それにより安全で円滑な交通が実現するものです。警察庁は、自転車にも青切符を導入しようとしているようですが、どうも電動キックボード、それも特定小型原付に関しては甘々な態度をとっているように思えてしまいます。

交通ルール教育は業者に丸投げ?

そこで、あらためて警察庁に質問状を出してみました。

内容は、①電動キックボードの違反・事故が増えているがどう思うか、②通行区分違反、信号無視、一時不停止が違反の大半を占めているようだが、特定小型原付を免許不要としたこととの因果関係は、③愛知県のひき逃げ事件についてどう考えるか、これを機に再び電動キックボードの不要論が起きているようだがどう思うか、④バイクに乗るライダーにとって、電動キックボードのような視認性もあまり高くない小さな乗り物が、交通ルールを守らない(あるいは知らない)で走行するのは危険だが、無免許で乗れる特定小型原付の走行をこのまま容認するのか、というものです。

以下に警察庁の回答の概要を記します。

〇特定小型原動機付自転車に係る取材への回答について

愛知県のひき逃げ事件は、一般原動機付自転車による事件でした。

電動キックボードに関しては、特定小型原動機付自転車に該当するか、一般原動機付自転車等に該当するかにより、適用される交通ルール等が異なることを理解し、安全に乗っていただくことが重要だと考えております。そのため、関係省庁や事業者とも連携して、それぞれに適用される交通ルールの周知啓発を進めております。

また、特定小型原動機付自転車については、関係省庁・関係事業者から成る「パーソナルモビリティ安全利用官民協議会」において取りまとめられた「特定小型原動機付自転車の安全な利用を促進するための関係事業者ガイドライン」に沿って、事業者により、
○ 交通ルールの理解度を測るテストを受けさせ、又は交通ルールを理解させるための動画を視聴させ、テストを受けた者又は動画を視聴した者以外の者が車体を購入・利用することができないようにすること
○ 本人確認書類を確認し、購入者・利用者の年齢が16歳以上であることを確認すること等が行われており、警察では助言・支援しております。

加えて、警察では、悪質・危険な交通違反、歩行者に危険を及ぼすおそれの高い交通違反に重点を置いた厳正な取り締まりを推進しております。引き続き、交通事故の発生状況等を踏まえ、これらの取組を進め、交通ルールの定着を図ってまいりたいと考えております。

この回答を読んで思うのは、「パーソナルモビリティ」を普及させるためには、本来は警察が行うはずの運転者に交通ルールを理解させるという非常に大切な行為を、事業者に丸投げしているように感じてしまうこと。

そして、「悪質・危険な交通違反、歩行者に危険を及ぼすおそれの高い交通違反に重点を置いた厳正な取り締まりを推進しております」というお決まりの言葉が続いていますが、にもかかわらず違反・事故は急増していますし、昨年は死亡事故も発生しましたし、ひき逃げ事故も起こってしまいました。

いったい、どれだけ違反・事故が起きたら、あるいは何人の命が失われたら、警察は電動キックボードの危険性に気づいてくれるのかと思ってしまいます。

昨年、パリで電動キックボードのレンタルサービスが住民投票の結果、廃止されることになったというニュースがありましたが、海外でも電動キックボードに関しては規制緩和よりも規制、あるいは禁止する方向の動きが起きています。

また、各自治体が電動キックボードを公共の場所に放置すると違反になると警鐘を鳴らしていますが、人命にかかわることもある交通ルールさえ守らない、守れない運転者がそんな声に耳を傾けるでしょうか。特定小型原付のレンタル事業者が増えれば増えるほど、街中に放置される電動キックボードも増えそうな予感がします。

混合交通の中を走るのであれば、特定小型原付を運転する場合であっても、やはり交通ルールをしっかり学んで免許を取得するのが最低のルールだと思います。免許証は交通社会にデビューするための約束手形なのですから。

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