【阪急杯回顧】1400m巧者ウインマーベルが充実期に アサカラキングは本番に向け力を証明

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ウインマーベル、1400mのスペシャリストへ

阪急杯の焦点はいくつかあった。ひとつは最内に入ったウインマーベル。阪神Cが2006年に創設され、10月最終週のスワンS、12月最終週の阪神C、そして2月最終週の阪急杯と芝1400m重賞がほぼ等間隔に並んでから、阪神Cと阪急杯を連勝した馬はいなかった。スワンSと阪神Cを連勝したのは2頭いるが(09年キンシャサノキセキ、22年ダイアトニック)、同舞台の阪急杯との連勝は出ていない。前走阪神C自体は好成績でつながりはあるものの、連勝に挑戦したのはのべ5頭で【0-1-1-4】(サンカルロが2回挑戦)。08年スズカフェニックスの2着が最高で、12年サンカルロ3着以降は馬券圏内にすら入っていない。

スペシャリストが集まる1400mは力の差が少なく、よほど抜けていないと達成できない。付け加えれば阪急杯は高松宮記念の前哨戦であり、実績馬が始動戦に選びやすい。格はGⅡからGⅢに下がるも、対戦相手が強くなるのも連勝できない理由だろう。

ウインマーベルが達成したことは、色々なことを示唆している。まずはウインマーベルが1400m巧者として充実期にあること。これまではスプリント戦中心だったが、1400mに舞台を移して成績は安定した。もちろん、次走は高松宮記念を選ぶ可能性はある。この充実度なら期待ももてるが、1200mで今回のような先行態勢をつくれるだろうか。父アイルハヴアナザー、母の父フジキセキで後ろから末脚勝負では味がない。その反面、今回のように1400mだと強気に出られる。後述するアサカラキングがペースを握り、前半600m33.9、後半600m35.9とハイペースの消耗戦になっても、粘り切れる我慢強さは1400mだからこそだ。

アサカラキングの今後

もう一点、阪急杯は今回のメンバーをみても、いよいよ高松宮記念の前哨戦ではなくなりつつある。1400mのスペシャリストにとっての場へ移行したから、ウインマーベルという連勝馬が生まれたのではないか。今秋からはスワンS、阪神C、阪急杯とシリーズとしてみていこう。ウインマーベルに続く連勝馬はむしろ出現しやすくなるだろう。

焦点の二つ目はアサカラキングだ。1600、1400mで3連勝。すべて逃げ切ってオープン入りした快足馬がオープンでどこまでやれるのか。それも8枠16番と逃げ馬に有利とはいえない枠からどう出るのか。

さすがにスタート直後から自然な流れで逃げられず、内のウインマーベル、メイショウチタンらを制するまでに脚を使った。前半600m33.9はアサカラキングにとって厳しいペースではなかったが、枠順次第で急かさずハナもとれた。厳しい序盤を乗り切り、ラスト600m11.4-12.0-12.5の失速ラップをウインマーベルと競り合い、ハナ差まで食い下がれば上々といえる。1200mでもスピードが通用するか。陣営のジャッジ次第だが、多少、強引でも行き切れれば、通用する可能性はみえた。重馬場で前半600m33.9は着実に力をつけた証だろう。

後半600m35.9で失速ラップとなれば差し馬の台頭を許すところだが、上がり最速は3着サンライズロナウド、ウインマーベルが3位を記録しており、差し馬勢が案外末脚を使えなかった。そんななか差してきたサンライズロナウドは枠順を利したイン強襲が光った。古川吉洋騎手のアシストもあったが、馬自身も1400mなら重賞で戦える末脚をもっている。時計がかかると出番が回ってくるようで道悪巧者でもある。

これだけインを攻めた馬たちが上位に来たのは開幕週だからこその現象だろう。外を回って不発に終わった5着ボルザコフスキー、9着ダノンティンパニーら見直しが必要な馬たちも多い。次走以降、条件替わりで狙っていこう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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