企業はまず人から 健康経営で生産性向上 中小企業支援家、ESGアナリスト 久米貴久(高崎市吉井町)

 私が営むローカルコンサルティングファームにはさまざまな相談が寄せられます。最近は事業承継の計画段階で、「健康経営」への関心が高くなっています。

 ひと昔前は、「今の若いやつは」などと言って理不尽な価値観を押し付ける経営者や管理職がいたものです。しかし現在では、それが戦後の行き過ぎた会社への忠誠からくる間違った認識だということが少しずつ浸透してきました。人事制度が整ってきて、場当たり的な配置転換や評価はまかり通らなくなっています。

 一方、制度が形骸化されて人事戦略がない場合、いざ事業承継を考えても具体化できません。

 かつて企業は、働く人を「使い減りしない」だとか「安い買い物」だとか、モノのように評価していました。平成に入ると、明らかに能力以上の要求をし、その結果働き過ぎて能力を発揮できなくなる人を置き去りにして、できる人にさらに仕事を背負わせるといった運用も行われました。

 「そのうち良くなるだろう」という状況が30年も続き、給料は変わらないのに労働条件の不公平は広がり、「パートが社員の面倒を見る」「管理職が部下に仕事を教わる」など、組織が特異な構造に変化していきました。

 こうした特異な構造は組織が改善を怠ったために行き詰まり、社員の自浄作用(転職)によって人事制度が崩壊している企業も少なくありません。ある程度の規模の企業では、人事戦略の再構築と制度への練り込みが必要です。

 そこで注目されるのが健康経営です。健康経営とは、従業員の健康保持・増進に取り組むことが将来的に収益などを高める「投資」であるとの考えの下、健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践することです。

 事業承継でサステナビリティ(持続性)を高めて将来性を担保したいと考えた時、やはり「企業はまず人から」です。生産年齢人口の減少や労働力人口の高齢化が進む中、生産性向上の観点からも企業として従業員の健康に投資することは、コロナ禍を経て、一層重要になってきています。

 ある調査によると、学生が中小企業の採用試験を受ける理由の上位は「やりたい仕事に就ける」「会社の雰囲気が良い」「出身地・地元に本社がある」だそうです。一方、受けなかった理由の上位には「給与・待遇が良くない」「安定性に欠ける」「福利厚生が不十分」が並びます。

 健康経営は、求人を含め事業力の向上にも有効です。ぜひ戦略的な活用を目指してください。検討を始める場合、健康保険組合からさまざまな案内、例えば健康事業所宣言の案内が届いていますので、まずはそれを読んでください。届いていない場合は、医療保険者やよろず支援拠点など相談窓口は多様にありますので活用しましょう。

 【略歴】2015年9月、23年勤務した地方銀行を退職して独立。同年11月、中小企業の課題解決を提案する「コンサル&ファーム」を設立、伴走型の支援に取り組む。

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