熟年離婚に至るケースも…相続時だけでなく日常生活でも要注意!夫婦間で「言ってはいけないこと」【税理士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

家族間で金銭的・心理的な格差が生じることで発生する「相続時のトラブル」は、きょうだい間だけでなく、夫婦の間でも起こり得ます。特に夫婦の距離感は、「親子ともきょうだいとも違い、コミュニケーションには細心の注意が必要」と、相続専門の税理士として多くの相続を間近で見てきた天野隆氏は言います。天野氏と税理士法人レガシィの共著『相続格差』より、詳しく見ていきましょう。

相続がきっかけで、熟年離婚に至ることも

親が亡くなって二次相続をする場合、子どもたちは全員が法定相続人として相続する権利を有しますが、その配偶者は法定相続人ではありません。だからといって、配偶者を無視して相続の話を進めるのは好ましくありません。とくに夫婦で一緒に商売をしているケースでは、配偶者は利害関係者です。密接なコミュニケーションが必要です。

知人から、こんな話を聞きました。相続がきっかけで離婚にまで至ったケースです。

その夫婦は、旦那さんのお母さんが所有する土地で、長年飲食業を営んでいたといいます。そして、60歳を過ぎた頃に、そのお母さんが亡くなって相続が発生しました。

旦那さんときょうだいが遺産分割協議をすることになったのですが、その土地というのがかなりいい場所にあり、評価額はおそらく数億円に達したようです。もし均分相続をしようとすると、土地を分けるしかありません。あるいは、その旦那さんが土地をすべて相続するとなると、きょうだいには相当の現金を支払わなくてはなりません。しかし、常連客を相手に夫婦でコツコツ続けてきた店ですから、そんなキャッシュは持ち合わせていません。

結局どうしたかというと、その土地を売って現金に換え、きょうだいで分配したようなのです。そうなったら、当然、店はたたむしかありません。しかし、途中経過を知らされず、突然店をたたむと聞いた奥さんは怒り心頭です。当然でしょう。2人で苦労しながら切り盛りしてきた店です。

やがて奥さんは家を出て、夫婦は熟年離婚してしまいました。1人残された旦那さんは、しばらくして寂しく亡くなったといいます。

ここからどういう教訓が汲み取れるかというと、コミュニケーションをしっかりとって意見を聞いておくべきだったということです。お店を一緒にやっている以上、夫婦は運命共同体です。旦那さんのほうに発生している相続であっても、重要な利害関係者である奥さんの納得のいく形にしていれば、離婚はせずに済んだかもしれません。

きょうだいたちは、土地の価値額を見て目がくらんだのかもしれません。私たちのような専門家に相談していただければ、もっといい方法があったかもしれないと思うと残念です。

関係悪化を招く、夫婦間の「禁句」とは

熟年離婚に至る道筋というと、妻が少しずつ少しずつ我慢を重ねていき、それがある日とうとう耐えきれなくなって爆発したというパターンが多いようです。離婚してしまったら「相続格差」以前の問題ですから、なるべく避けたいものです。

熟年離婚を言い渡された夫とすれば、「いきなりそんなことをいわなくてもいいじゃないか」という気持ちのようですが、妻は何年もずっと我慢を積み上げてきたわけで、「なぜ、わかってくれなかったの」といいたいところでしょう。そのあたりに、夫婦のすれ違いがあるように思います。

やはり大切なのは、親子やきょうだいと同じく、普段からのコミュニケーションです。いつでもなんでもいえる関係にしておけば、大爆発を起こす前に、少しずつガス抜きができます。

もっとも、夫婦の距離感は、親子ともきょうだいとも違います。もとは他人であったことも踏まえて、コミュニケーションには細心の注意が必要かもしれません。

いけないのは、夫婦でお互いに比較してしまうこと。夫から専業主婦の妻に対しての禁句は、例えば「働かなくていいねえ」「昼寝ができていいねえ」など、家で苦労している妻に寄り添わずに、外で働いている自分とくらべてしまう言葉です。

妻から夫に対する禁句は、「あなたは出産の痛みがわからなくていいわね」「黙っていても食事や飲み物が出てきてうらやましいわ」といったもの。

もちろん、ほかの男性や女性と比較するのはもってのほか。ところが、夫婦の距離感を忘れて甘えてしまうのか、ついやってしまいがちです。「妹の旦那は稼ぎがいいらしいわ」というのはもちろん、「隣の旦那さんは、優しくていい人ねえ」というのも、夫婦の普段のコミュニケーションが足りないと、「じゃあ、俺は優しくないのか」と受け取られてしまいます。

夫婦のコミュニケーションのポイントは、それぞれがいいところを持っているのを認めることにあります。そして、男と女とは違うのですから、夫婦の間で比較するのは意味がありません。お互いを、自分の人生の目的に向かって進む際の協力者と考えれば、こんなにいい話はありません。変にライバル心を持つ必要はないのです。

天野 隆/税理士
税理士法人レガシィ

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