ナイトクラブで用心棒も ジェイク・ナップの苦労と心の支え

警備員を兼業する時期もあった29歳が初タイトルをつかんだ(Hector Vivas/Getty Images)

◇米国男子◇メキシコオープンatヴィダンタ 最終日(25日)◇ビダンタバジャルタ(メキシコ)◇7456yd(パー71)

身長180cm、体重86kgの体格は、ロングドライブとは違うことにも役に立った。29歳のジェイク・ナップには、2年前にナイトクラブで用心棒を務めていた過去がある。

幼い頃、ツアー会場でタイガー・ウッズのキャディからラウンド中にボールをもらったゴルフ少年は、高校時代に「全米オープン」の予選会で「61」をマークした実績の持ち主。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)出身。2016年のプロ転向後は、3部相当のPGAツアー・カナダが主戦場で22年までに3勝を挙げたが、レベルアップの機会を逃し続けていた。

2部であるコーンフェリーツアーの出場資格を失った21年には、生活費を稼ぐ必要に迫られた。職を求め、夜はバーにもなるゴルフ場のレストランに応募したところ、警備員として働くよう頼まれた。週末やハロウィン、大みそかに入り口に立ち、屈強な男を演じてみせた。午前2時、3時まで勤務して日中は練習とトレーニングという日々のサイクル。「ゴルフをやれることは決して当たり前ではないと気づけた」きっかけになった。

苦悶の時期に地元カリフォルニア州のゴルフ場のプロに授けられた助言が、いまも心の支えだという。「中国の竹の木の話なんだ。竹は長いあいだ土の中に埋まっていて、たった数週間で10m近くまで伸びる。良いことは、頑張り続けていれば突然起こる」

昨シーズン、コーンフェリーツアーで優勝こそなかったが、ポイントランクで上位30位以内(13位)に入って念願のPGAツアー昇格を果たした。力感のないスイングにして、今季5試合のドライビングディスタンスは全体11位の308.6ydを記録。平均ヘッドスピードは123.68mph(約55.28m/s)で全体5位を誇る。持ち前のパワーを生かして1月の「ファーマーズインシュランスオープン」で3位に入り、メキシコで初タイトルをつかんで見せた。

昨年4月、祖父ががんで亡くなった。ゴルフのよき相談相手であり、地元のジュニアスポーツを支援する非営利団体を率いた尊敬する存在。左腕にはイニシャルのタトゥーが刻んである。「いつも彼は僕たち家族を見守ってくれている。僕がここでプレーする夢は、彼の夢でもあった」。タップインのウィニングパットを決め、仲間からの祝福を受けてグリーンを降りた29歳。空を指さし「ありがとう」とつぶやいた。

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