湘南の新布陣は機能したのか。逆転負けの川崎F戦を検証【J1リーグ2024】

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2024明治安田J1リーグ第1節の全10試合が、2月23日から25日に各地で行われた。湘南ベルマーレは24日、本拠地レモンガススタジアム平塚で川崎フロンターレと対戦。最終スコア1-2で敗れている。

昨2023シーズンまで採用していた[3-1-4-2]から、[4-4-2]に基本布陣を変えた湘南。2017シーズンからJ1リーグを4度制し、昨年も天皇杯優勝を成し遂げた川崎Fに新しい布陣で挑んだものの、白星を飾ることはできなかった。

湘南の新布陣[4-4-2]は機能したのか。ここでは今回の川崎F戦を振り返るとともに、この点について検証・論評していく。


湘南ベルマーレvs川崎フロンターレ、先発メンバー

フリーキックを活かした湘南

[4-4-2]の守備隊形を敷いた湘南は、前半6分にハーフウェイライン付近でのボール奪取からサイド攻撃を仕掛け、相手のファウルを誘う。この場面では湘南のDF杉岡大暉(左サイドバック)とMF田中聡が、タッチライン際でドリブルを仕掛けた川崎FのMF脇坂泰斗を追い詰める。脇坂の足下から離れたボールを杉岡が回収し、同選手から湘南FWルキアンへのパスが繋がると、川崎FのDF高井幸大がこのブラジル人アタッカーの腕を掴む。これが高井によるホールディングの反則と見なされ、湘南にフリーキックが与えられた。

湘南MF茨田陽生のフリーキックのこぼれ球に、同クラブMF池田昌生が反応。同選手がペナルティアーク内から地を這うようなシュートを放ち、先制ゴールを挙げた。


湘南ベルマーレ FW鈴木章斗 写真:Getty Images

実は綻びがあった湘南のハイプレス

湘南は先制ゴールの直前に、脇坂からボールを奪ってサイド攻撃を仕掛けたものの、この際の前線からの守備(ハイプレス)には綻びがあった。

ここでは湘南のFWルキアンがペナルティエリア内でボールを受けた相手DF高井(センターバック)に寄せ、川崎Fのパス回しを湘南にとっての左サイドへ誘導。高井のパスをタッチライン際で受けた川崎FのDF佐々木旭(右サイドバック)には、左サイドハーフを務めた湘南のMF平岡大陽がプレスをかけた。

この場面では右サイドバックの佐々木から中央へのパスコースを塞ぐべく、湘南のFW鈴木章斗が川崎FのMF橘田健人(中盤の底)をしっかり捕捉すべきだったのだが、このマークが不十分だったため橘田が一瞬フリーに。ここで佐々木が橘田へのワンタッチパスを選択していれば、湘南はハイプレスを掻い潜られていただろう。

相手のパス回しを片方のサイドへ誘導し、サイドバックにボールを持たせるのであれば、そこから中央へのパスコースは確実に封じなければならない。湘南が近年巻き込まれているJ1残留争いから脱却し、今2024シーズンで上位進出を果たすためには、こうした守備面の細部を突き詰める必要がある。

湘南ベルマーレ DF大岩一貴 写真:Getty Images

不安定だった湘南の撤退守備

この試合を見た限り、湘南の撤退守備の練度も低く[4-4-2]の布陣が機能していたとは言い難い。2トップと中盤、及び中盤と最終ラインの間が広がる傾向が強く、このエリアを基本布陣[4-1-2-3]の川崎Fの脇坂、山本悠樹、橘田のMF陣に使われていた。

前半27分には、川崎FのFWエリソンが湘南の最終ラインと中盤の間を突き、そこから惜しいミドルシュートを放っている。ここでは湘南のDF大岩一貴(センターバック)が相手FWマルシーニョの対応に追われてエリソンに寄せられず、茨田と田中の2ボランチによるエリソンへのアプローチもできていない。撤退守備時の最終ライン、中盤、最前線の3列の距離感やマークの受け渡しの修正は急務だ。


湘南ベルマーレ GK富居大樹 写真:Getty Images

湘南はロングパスを多用

湘南は昨2023シーズン、GKや最終ラインからのパス回しに力を注いだものの、相手の前線からの守備(ハイプレス)を掻い潜るための配置を整えられず。ゆえに危険なボールロストを繰り返し、試合の主導権を相手に渡してしまうケースが多かったが、今回の川崎F戦ではGK富居大樹がロングパスを多用。これにより自陣でのボールロストを防止する意図が窺えた。

富居によるこの試合2本目のロングパスは川崎FのDF三浦颯太(左サイドバック)方面に飛んだが、それ以外は基本的にアウェイチームの2センターバック(大南拓磨と高井の両DF)付近に落ちている。仮に富居のロングパスが相手センターバックの背後に落ちたとしても、このスペースは相手チームのGKが飛び出して対応しやすい。また、相手センターバックにロングパスを弾き返された場合、このボールがそのまま相手チームの速攻や中央突破に繋がりかねない。ロングパスの送り先は、相手にボールが渡ったとしても速攻に直結しにくく、相手GKとしても飛び出しづらいサイドバックの背後を原則とするのが得策だろう。


湘南ベルマーレ DFキム・ミンテ 写真:Getty Images

ロングパスが失点の原因に

前半24分の川崎Fの同点ゴールは、湘南のGK富居のゴールキックが自陣に落ちたことで生まれたもの。このボールを回収した川崎Fが速攻を仕掛けると、MF家長昭博の横パスを受けたMF脇坂が、ペナルティアークの後方からミドルシュートを放つ。これがゴールネットに突き刺さった。

自陣でのボールロストを回避するために繰り出したはずのロングパスが、失点の原因となってしまった湘南。先述の通り、ボールの送り先を再考する必要があるだろう。

後半11分には、DFキム・ミンテのバックパスをペナルティエリア内で受けたGK富居がボールコントロールを誤り、突進してきた相手FWエリソンにボールを奪われてしまう。この直後のエリソンのシュートが無人のゴールへ吸い込まれ、これが決勝点となった。

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