絶対女王・中国を最後まで追い詰めた日本女子。“伊藤美誠監督”が歴史的死闘の裏を吐露「アドバイスがはまった時は…」【世界卓球】

文字通りの壮絶な死闘だった。

現地2月25日に韓国・釜山で開催された卓球の世界選手権団体戦は幕を閉じた。24日に行なわれた女子の決勝は世界ランク2位の日本と同1位の中国が激突する黄金カードが実現。試合は3時間半を超える大接戦となり、マッチカウント2-3で日本は惜しくも敗北。1971年以来の頂点に、あと一歩届かなかった。

結果だけを見れば中国が大会6連覇を果たし、卓球大国としての威信を示した。だが、試合内容は中国が薄氷を踏むほど、日本は王国を最後まで追い詰めた。

第1試合は、スーパー中学生の張本美和と世界ランク1位の孫穎莎(ソン・エイサ)が対戦。中国の最強エースは序盤から15歳を圧倒し、ひとつもゲームを落とさずストレートでねじ伏せ、世界女王の貫録を見せつけた。

先制された日本だったが、第2試合の早田ひなが同3位の陳夢(チン・ム)を3-1で退けてタイに戻すと、3番手の平野美宇が同3位の王芸迪(オウ・ゲイテキ)から圧巻のストレート勝利。日本が世界一に王手をかけた。
一方、崖っぷちに立たされた中国は、ここから卓球王国の意地を見せる。第4試合で孫穎莎が日本のエース・早田から11-2、11-7、11-6と付け入る隙を与えず完勝。星を五分に戻し、金メダルの行方は15歳の張本と東京五輪金メダリスト・陳夢の最終決戦で決することになった。

第1ゲームはまず、張本が先取。日本ベンチは勢い付くが、陳夢もそう簡単に勝利を譲らず2ゲームを連取。五輪女王が勝利への執念を見せ、最後は6連続得点を重ねる怒涛の攻撃で大逆転。陳夢は拳を突き上げて、仲間と大喜び。大金星目前だった張本は気丈に振る舞ったが、日本ベンチに戻って早田から優しく抱擁されると目から涙がこぼれた。

絶対女王を敗北寸前まで追い詰めた日本女子。歴史的な試合を終えた直後、チームはテレビ東京のスポーツ情報番組『みんなのスポーツ』で激闘を振り返っている。

エースとしてチームを牽引した早田は「この大舞台で0対1で負けてて、ここを2-0にしたら中国に流れがいくなかで、(陳夢に)勝つことができたのはすごい自信になります」と、劣勢だったなかで五輪女王から奪った会心の勝利に自信を示す。

加えて、「パリに向けて自分自身がちょっとずつですけど、前に進んでいるのかなと感じた。自分がやることを信じて、これからもやっていきたい」と5か月後の大舞台に向けて確かな手応えを掴んでいる。 また、今大会は2試合の出場ながらグループステージから決勝までベンチから的確なアドバイスを送り、“監督”のような振る舞いで仲間を鼓舞する姿が注目を浴びた伊藤美誠は「アドバイスがはまった時は、すごく言って良かったと感じる」と振り返り、その理由を次のように強調する。

「(相手を)第三者目線で見ることはほとんどないので。そういうところでは、いろいろ学べました。自分が試合をやっている時も、第三者目線で見れる時があるといいなと感じています」

事実、中国戦でも伊藤の助言により試合の流れを引き寄せる場面はいくつもあった。同世代の早田には「(陳夢には)前々でいってもいいけど、冷静にね」「思い切ってね!」など、試合の状況を読み取りながら勝利の方程式を伝達。また、王芸迪と対峙した平野から「自分のサーブどうかな?」と問われると「もうちょっと揺さぶってもいいかと思った」と言うと、平野も「うんうん、フォアもね」と納得。格上からのストレート撃破につなげた。
結果的に大金星を逃した張本だが、タイムアウトの時に不安気な表情でベンチに戻ると、伊藤は「いい感じだよ、すごいじゃん! 大丈夫、大丈夫」と五輪女王に奮闘するチーム最年少を励ます。早田、平野ら黄金世代も中学3年生を勇気づけるなど、チーム一丸で戦い抜いた。

卓球最強国にまたも屈した日本。5大会連続の銀メダルとはいえ、着実に女王の背中を射程圏内に捉えている。

構成●THE DIGEST編集部

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